祭りは門出
毎週、月曜日と金曜日に更新中!
※閑話休題※
11月3日――20時。
全プレイヤーの端末に、同時にシステム通知が届いた。
―― system message ――
【重要】メンテナンスおよびイベント開催のお知らせ
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11月3日(金)23:00より、メインサーバーはメンテナンスに入ります。
全プレイヤーは同時刻までにログアウトを行ってください。
11月4日(土)0:00以降のログイン時には、特設サーバー《オルフィス》へ自動接続されます。
※本期間中、メインサーバー内の時間は停止します。
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【イベント概要】
◆ 開催日時:2130年11月4日(土)0:00 ~ 23:30
◆ 会場:特設サーバー《オルフィス》
◆ イベント名:オルフィス祭『幻月の英雄』
リリース後初となる大型参加型バトルイベントを開催!
この一日限りの特別な祭典で、あなたの名を刻もう。
※イベント期間中、メインサーバーはご利用いただけません。
※詳細は【オルフィス祭 特設ページ】にてご確認ください。
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「ついにきたーー!!!」
噴水公園で誰かが歓喜の声を上げる。その声が合図のように、周囲のプレイヤーたちが一斉にざわめき出した。
「初イベントだぞ!」
「何時間前から待機しよっか?」
「オルフィスって、どんな場所なんだろ!」
「へぇ~別サーバーでやるんだ!」
「時間も止まるっぽいな。」
「まじか!助かる~進めてたイベントの期限と被ってたんだよ~!」
「準備、たくさんしとかないとね!」
「楽しみだなー!!」
リリースから約一か月――。ついに、プレイヤーたちが夢見た、初の公式イベントがやってくる。
フレンドチャット、ボイスリンク、掲示板。どのチャンネルを覗いても、話題はオルフィス祭のことで持ちきりだった。街全体が、まるで本物の祭りのように熱を帯びていく。
さらに賑わう広場には、次々とプレイヤーが集まっていた。
共に祭りを楽しもうとする者。他のプレイヤーを観察し、戦略を練る者。イベントを機に名を上げようと、虎視眈々と準備を進める者。
生産職のプレイヤーたちは、新作装備や限定アイテムを並べ、「祭りの前に装備整えようぜ!」という声に応じて商売に精を出している。
そして――貴族の屋敷や王城のバルコニーから、城下の喧騒を静かに見下ろすプレイヤーたちもいた。
誰もが同じ暁の空を見上げ、その時を待ちわびていた。
一人、また一人が、準備に向けて宿屋を目指す。それでも広場の人は絶えない。
時刻になり、システム音と共に広場の喧騒はふっと消えた。人も音も一瞬にして消え、そこには穏やかな空気だけが流れる。
***
ここ最近、方々から報告が相次いでいる。
活発化し始めた冒険者たち。――始まりの塔から来る勇者。世界を救う者。そう呼ばれているらしいが、こちらからすれば厄介者でしかない。
そしてもう一つが、幻月。
魔力と空間の歪みが強まるとき、必ず現れる金色の月。神はまだ、私たちを見放してはいない。そう思わせる象徴のような存在だ。
執務室の窓から暁の空を見上げれば、まだ白い月が微かに輝いている。ルシアンは視線を机上へ戻し、山のように積まれた書類の一番上に手を伸ばした。
「……厄介ごとは絶えないな。」
ルシアンが深く息を吐くと、控えめなノックの音が響いた。入室の許可を出せば扉は静かに開かれる。
入ってきたのは、長年の友であり王太子付き護衛騎士――カイリス・グランヘイル。
鎧の肩章が暁の光を受けて淡く輝き、無駄のない所作に品格が滲む。感情の揺らぎひとつ見せずとも、状況を見抜く男だ。
「悪いな、追加の仕事だ。」
両手に抱えた分厚い書類束を見て、ルシアンは顔をしかめた。彼の沈黙を察したカイリスは、わずかに口元を緩める。
「手伝おう。」
「……悪いな。」
「構わん。」
それだけ言って、カイリスは向かいの席に腰を下ろした。二人の間に、しばらく紙とペンの音だけが淡々と響く。
どれほど時間が経っただろうか。ふとルシアンが顔を上げ、窓の外へと目をやる。
先ほどまで白く冴えていた月が、いつの間にか蒼い光を放っていた。風も雲もない夜。音が消え、まるで世界が息を止めたようだ。
「……幻月の兆し、か?」
低く落ち着いた声が、静寂を切り裂く。隣で同じ景色を見つめながら、カイリスもわずかに眉を寄せた。
「ああ。魔力の流れが乱れている。ここ数日、昼と夜の境界が曖昧だろう。……報告書が積みあがるわけだ。」
「感じている。剣の軌道が、いつもよりわずかに遅れる。重力そのものが狂い始めているんだ。」
冷静な分析。その言葉には、感覚ではなく経験の裏づけがある。だからこそ、カイリスの一言には重みがあった。
「……やはり、君の観察眼は鋭いな。」
「仕事柄だ。人も、時も、わずかな違和感を見逃せば命取りになる。」
そう言って、カイリスは窓の向こうの蒼い月を見上げた。
その瞳は、光を映しても揺れない。理性の奥底に、研ぎ澄まされた静けさだけがあった。
「女神オルフィス、か。」
「ああ。あの方は秩序の星の主。世界の時が歪むと、月を通して修復が行われる。――それが、幻月だからな…。」
「修復、か……。ありがたいことだな。」
思わず微笑が漏れた。
女神の力が働いているということは、まだこの世界は見放されていない。古くから伝わる予言も、やはり間違ってはいなかったのだ。
――きっともうすぐだ。もうすぐ、救いが訪れる。
蒼が、ゆっくりと金へと変わっていく。街が黄金に染まり、光に溶けていく。まるで女神の腕に抱かれるように、灯がひとつ、またひとつと消えていった。恩恵にあずかろうと、人々は静かに眠りにつく。
「……来たな。」
「ああ。金月――幻月だ。」
「……女神の力か…。毎度のことながら、美しい景色だ。」
カイリスの声は低く、穏やかに響いた。
日々、剣をもって前線に立つ彼だからこそ、この国の平穏を、誰よりも深く願っていることをルシアンは知っていた。
己の力を、何のために振るうのか――その意味を知る者の声だ。
「ルシアン。……この光の下では、世界が確かに生きていると感じる。それが誰の意志であれ、俺は、それを守るだけだ。」
「あぁ。だが…、きっと近い未来、この世界は元に戻るさ。」
二人はしばし、窓の外に広がる黄金の景色を見つめていた。
光に満たされた街は、まるで永遠に続く夢のようで、その中で二人だけが静かに、来る平和を願っていた。
「……さて、今日はそろそろ床に就くとしよう。我々も、少しは恩恵にあずかろうじゃないか。」
「あぁ。」
カイリスの言葉に、ルシアンは穏やかに頷いた。
机の上に積まれた書類を、今夜ばかりはそっと忘れる。まだ夜は始まったばかり――それでも、不思議と心は静まっていた。
金色の月光が、ゆるやかに部屋を満たしていく。ルシアンは窓の外に視線を向け、その光の向こうに、いつか訪れる本当の夜明けを重ねた。
「……女神よ、どうかこの世界を――」
祈りの言葉は、そっと金の光に溶けていった。
***
「社長、準備が整いました。」
高級スーツをカジュアルに纏ったまだ年若い男は、部下の声に手を止め、書類から視線を上げた。
広い空間には無数のモニターとスタッフたち。目の前の壁面には五面の大型スクリーンが並び、どれも同じゲーム――《To the Light》を映している。
フロアは小さな段差で区切られ、前方ではセキュリティチームが監視ツールを確認し、後方では研究・開発・フロントエンジニアがアップデート項目のチェックリストを一つひとつ潰していた。
まもなく始まるアップデートに合わせ、社内の空気は緊張と期待に満ちている。
――23時。合図と共に、各部署が動き出す。
サーバーの切り替え、ログの監視、バグ再確認、最終QA。全てが、完璧に進んでいた。あとは、特設サーバー《オルフィス》が無事に起動するのを見守るだけだ。
この企画――《To the Light》。
構想当初から大きな賭けだった。それでも、想像を超える支持を得て、今や全国規模のオンライン現象と化している。
そして今日。初の公式イベント《オルフィス祭》。
単なるお祭りではない。この世界を、次の段階へと導く鍵でもある。プレイヤーたちの鋭い考察に、彼は何度も驚かされてきた。
イベントの設計も、すべてに意味を持たせた。戦闘・探索・観戦――すべてが繋がる一日。誰もが楽しめる祭りであり、同時に、次のステージへ進むための実験でもある。
社員たちは寝ずに準備を重ねてきた。だが、それでも彼の顔には満足げな笑みが浮かんでいる。
参加者も、観戦者も楽しめるよう、あらゆる仕組みを盛り込んだ。その分社員には大きな負担をかけることにはなったが、まぁ、致し方ない。
「状況は?」
「概ね順調です。」
「……そうか。」
男は静かに頷き、正面の大型スクリーンへと視線を移した。映し出されているのは、イベント限定の特設サーバー《オルフィス》。
広場には無数の出店が並び、すべてNPCによって運営されている。
装飾、商品、音楽――そのすべてが、この日のために用意された特別仕様だ。露店には季節限定アイテムやフェス限定の料理が並び、まるで現実の祭りのような熱気が漂っている。
デザイン班には相当な負荷をかけたが、彼らは「最高傑作です」と胸を張っていた。確かに、画面の中の光景は圧巻だ。
ただのイベントではなく、フェスティバルと神聖さを融合させた構成。神々が存在する世界観を損なうことなく、むしろ祝祭として昇華されている。
中央の大広場を抜けた先には、巨大なドーム状の建物。
ここは《特別戦闘イベント》の観賞エリア。冒険者ルートと貴族ルート、双方のプレイヤーが共に楽しめるよう、三階層構造で設計されている。
一階は広々とした立食エリア。中央のホールでは音楽と光の演出が流れ、壁際には休憩用のテーブルと椅子が並ぶ。二階・三階は王侯貴族の邸宅を思わせる設計で、プライベートルームやラウンジを備えていた。
――誰もが自分の物語を演じられるように。
そして、ドームの反対側には二棟のホテルが建っている。
一つは冒険者用、もう一つは貴族ルート専用。どちらもログアウト時の休息スペースとして利用でき、ログインしたプレイヤーは、そこから星を巡ることができる。
だが、最も力を注いだのは、広場の外、森の奥にある神殿だ。
山道を抜けた先に現れるその建物は、白亜の外壁と金色の装飾が調和した、ステンドグラスの聖域。
光が差し込むたびに、床や壁が虹のように輝く。その静謐さと神々しさは、まさしく女神オルフィスの休息地と呼ぶにふさわしい。
男は小さく息を吐く。
――これほどの世界を、人の手で築ける時代が来た。
「社長、最終確認のため、特殊フィールドのご確認をお願いします。」
「あぁ、そうだったな。」
男は立ち上がり、正面の大スクリーンへと歩み寄った。映し出された新たなフィールドを目にした瞬間、口元に満足げな笑みが浮かぶ。
「……いい造りだ。」
そこは、かつて繁栄し、いまは静かに朽ちた都市。大自然に飲み込まれた遺跡群。森の草木は美しくもどこか毒々しい。海はどこまでも広がり、空との境界線が金のように輝いていた。蒼と碧のあわいに光が差し込み、幻想的な空間を描き出している。
「モンスターの配置は?」
男の問いに、スタッフの一人が新しいウィンドウを開く。
サブモニターには、膨大な数のデータが一覧化され、次々とモンスターたちの姿が映し出されていった。
凶悪なもの、愛らしいもの、そして、生き物なのかと疑うような姿のもの。それらが、完璧なバランスで配置されている。
「こちらに。」
「うん、次は……アンケートだ。」
「承知いたしました。」
声と同時に、別の画面が切り替わる。そこには、イベント用のプレイヤーアンケートが表示された。
これは、社員全員で徹底的に議論し、練り上げたものだ。回答はランダムかつ状況に応じて提示され、観戦者の投票結果がリアルタイムで戦況に影響を与える。
ゲーム内とゲーム外――二つの世界が、同じ神の指先で結ばれる。
さらに、その模様は公式チャンネルで生放送され、全世界の視聴者がリアルタイムで参加できるようになっていた。画面越しに、運営チームの努力と緊張が伝わってくる。
「よし――」
男は腕を組み、深く息を吐いた。あとは、世界を動かすだけだ。
「いいな。問題なさそうだ。」
「承知しました。では、このまま進めさせていただきます。」
「あぁ、頼んだ。……俺は少し休むよ。一昨日から働きづめで、思考が鈍ってきた。」
「承知いたしました。ごゆっくりお休みください。」
「あぁ。君たちもローテーションでちゃんと休めよ。なんのためにこれだけ多くの人を雇ってるのか、わからなくなるからな。」
男が軽く手を上げて扉へ向かうと、スタッフたちは苦笑しながら「承知いたしました」と彼を見送った。
廊下を歩きながら、大きなあくびを一つ。それを隠すこともせず、肩を回すようにしてため息を落とす。
「……あー、疲れた。まぁ、これで――あの大会以上に盛り上がるだろ。彼女も、いるみたいだしな。」
クスリと笑うと、男の背は暗い仮眠室の扉へと消えていった。
その瞬間、背後のフロアでは、カウントダウンのモニターが点灯する。
――23:59。
静かな電子音が、世界を動かす。
次回:縁は異なもの味なもの
✦《第一回オルフィス祭》イベント概要
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【開催スケジュール】
メンテナンス期間(メインサーバー停止)
2130年11月3日(金)23:00 ~ 11月4日(土)23:30
イベント開催日時
2130年11月4日(土)0:00 ~ 23:30
※上記期間中、メインサーバーは一時停止し、
全プレイヤーは自動的に特設サーバー《オルフィス》へログインされます。
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【オルフィス祭・催し一覧】
■ 幻月の英雄
開催時間:20:00 ~ 22:30
形式:スコア制PvEバトルイベント(冒険者ルート限定)
特徴:広大な専用フィールドで希望プレイヤー同時参戦!
・PvP有効・共闘可(PT編成不可)
・ラストアタックボーナスあり
・戦闘不能=即退場・復帰不可
・観戦者によるリアルタイム投票イベント実施(ボス選出/スコア予想/人気投票)
■ セレスタドーム・アイテムオークション(限定開催)
開催時間:18:00 ~ 19:00
会場:セレスタドーム
内容:プレイヤー作製品・レア素材をゲーム内通貨(G)で競売
・一部譲渡不可アイテムもこの日限定で出品可能
・限定品・開発者提供アイテムも登場!
■ バトルシミュレーション(仮想決闘システム)
開催時間:終日(0:00 ~ 23:30)
内容:PvP専用マッチングシステム(ペナルティなし)
・フレンド・観戦・交流目的にも最適
■ 人気キャラクターランキング
投票時間:0:00 ~ 22:30
結果発表:23:00
内容:NPCを含む総合キャラクター投票
・当日最も輝いたプレイヤーを観戦者が選出
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【注意事項】
※イベント期間中、メインサーバーでの進行は停止されます。
※特設サーバー《オルフィス》への自動接続後、他ワールドへの移動・キャンセルはできません。
※イベント終了後、全プレイヤーは自動的に元のサーバーへ復帰します。
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特別な一日に、あなたの伝説を刻もう。
“幻月の下で、世界が動き出す。”




