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Extended Universe   作者: ぽこ
月影に咲く英雄

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72/166

当意即妙 -2

毎週、月曜日と金曜日に更新中!

激しい戦闘を経て、ようやく折り返し地点へと差し掛かったnullたち。だが油断はできない。むしろ、ここからが本番だ。ボスと呼ばれる存在は、往々にしてここから牙を剥く。


エルディンもそれを察したのか、斬撃を止めて大きく跳躍し、距離を取った。剣先を下げたまま、鋭い眼差しで異形を睨み据える。


【ゼロ=オムニア】の全身からは、揺らめく魔力が絶え間なく溢れ出していた。

止める術があるのかどうかも分からない。ただ、備えるしかない――。

nullは唇を噛む。


バチッ! バチバチッ!


断続的な火花が機体全体で弾け、軋む音が実験室に響き渡る。

そして次の瞬間、警戒音が耳を劈き、魔力計が限界を突破したかのように全身が強烈な光を放った。


ゴゴゴゴゴゴ……!


爆風となった魔力が奔流を巻き起こし、地面を抉り、nullたちは抗う間もなく後方へ吹き飛ばされる。

その中心に、ただ立ち尽くす異形。濁流の魔力の中で膨張するシルエット。


――バキィィンッ!


背部装甲が自動展開し、まるで自らを引き裂くように左右へ割れる。その奥から露出したのは、赤黒く脈動する魔力炉コア

同時に、四肢が再構成されていく。鋭く、獰猛に。まるで“殺すためだけ”に設計されたかのような異形の姿へ。

腕部には光を歪ませる魔力刃。脚部には衝撃吸収と加速機構。全身は、最適化された兵器として再誕していた。


『――形態変化完了。 《ゼロ=オムニア 第二形態》、起動。』



(……しゃべった!?)


思わずそんなことを考えてしまう。シカクや柊吾がいたら、確実に「そこかよ!」と突っ込まれるだろう。けれど、瞳に宿る光は止まらない。

――強敵。さらに進化した【ゼロ=オムニア】の姿に、心が高鳴っていた。


だが、心中の昂揚とは裏腹に、敵はすでに動いていた。

【ゼロ=オムニア】が爆発的な速度でエルディンへ迫り、両腕を刃のように振るって連撃を浴びせる。

鋭い斬撃が空間を裂き、迫る圧力にエルディンは必死で応戦する。だが、次第に押し込まれ始めていた。


(このままじゃ――不味い!)


nullは即座に杖を掲げ、詠唱を重ねる。


「――ヒール! ――クイック・チャージ!」


回復の光がエルディンを包み込み、同時に自身の詠唱速度とクールタイム、動作速度を底上げだ。

流れるように次のスキルを繰り出す。


「――ロック・プリズン!」


床を突き破るように岩の檻が隆起し、【ゼロ=オムニア】の四肢を絡め取る。鋼と肉の異形が軋みを上げながら縛り上げられ、実験室に重苦しい音が響いた。


「助かった……!」


一度大きく下がったエルディンは、荒い呼吸を整えつつ、剣を構え直す。その眼差しは「任せる」と告げていた。

nullは頷き、杖に魔力を込める。――今が好機。逃すわけにはいかない。


「――ウォーターボール! ――スノウ・ドリフト!」


水球が炸裂し、檻ごと敵を水浸しにする。続けざまに冷気が吹き荒れ、瞬く間に凍結の霧が室内を覆った。氷結の鎖が敵を縛り上げるように広がっていく。


準備は整った。

nullの瞳が強い光を宿し、杖を天へと掲げる。


「――ジャッジメント・ボルト!!」


天を割る轟雷が降り注ぎ、水と氷を伝って敵の身体を一気に駆け抜ける。実験室全体を揺らす雷鳴と共に、白光が視界を焼き尽くした。


眩い閃光が収まった時、【ゼロ=オムニア】の装甲は深く抉れ、金属片が床へと散らばる。氷と雷の干渉で劣化した箇所からは、焦げた煙が立ちのぼっていた。内部機構にも確実に損傷が広がっているはずだ。それでもなお、異形の兵器はその姿勢を崩さず、赤黒い魔力を全身に灯していた。


==

【ゼロ=オムニア】 Lv:50

HP:55,221 / 168,000

==


「はああぁっ!」


雷鳴の余韻を切り裂くように、エルディンの咆哮が響いた。大剣を振りかざし、敵の懐へと踏み込むと、全身の力を刃へ叩き込む。

鋼を裂く音、床を踏み砕く衝撃音、そして敵が漏らす金属の悲鳴が重なり合い、実験室は嵐のような喧騒に包まれた。


着実に【ゼロ=オムニア】の体力を削りながら、nullは最後のタイミングを計っていた。

エルディンの剣が弾かれ、敵が後方の壁へと叩きつけられる。nullは杖を構え、次の魔法を放とうとした――その刹那。


空間が、ひしゃげた。

視界がぐらりと歪み、耳鳴りが走る。肌を刺すような違和に、nullは顔を顰めた。


(……なにか、来る?)


咄嗟に距離を取り、全体を見渡す。

【ゼロ=オムニア】は瓦礫に埋まり、エルディンはなお追撃しようと駆けている。

だが、目に見える異常はない。にもかかわらず、胸を締めつけるような嫌な予感が離れなかった。


「なに……!?」


再び魔力を練り直そうとした時だった。視界の端、空間がぐらりと揺れる。

凝縮された魔力が一点に収束し、渦を巻くように【ゼロ=オムニア】へと引き寄せられていくのを見て、直感が警鐘を鳴らす。

――危険だ。


「エルディンさん!!!」


叫ぶ声に反応し、エルディンも遅れて異変に気付き、大きく跳躍して距離を取ろうとするが、間に合わない。

瓦礫を突き破って立ち上がった【ゼロ=オムニア】が、獣のように腕を振るう。その一撃は明確に、エルディンを狙っていた。


しかし、そいつの本当の目的はその後だと、nullは瞬時に察知する。


(……まずい、本当にまずい!)


敵の背部装甲がせり上がり、ひしゃげた魔導砲から赤黒い光が漏れ出す。空間を震わせるほどの魔力濃度。次の一撃は、直撃すれば即死必至。

敵は動けないエルディンを狙っている。考えるより早く、nullは杖を掲げ、スキルを解き放っていた。


「――エリュトロス! ――神経加速ニューロスプリント!」


二重の魔法が発動した瞬間、世界が遅くなる。時間の流れが置き去りにされ、nullだけが加速する。

杖を握ったまま全力で駆け、【ゼロ=オムニア】の頭部を狙って跳躍。


「――エア・ダッシュ!」


風を裂く一閃。瞬時に敵の頭部より高く舞い上がり、杖の柄を掴んで抜き放つ。


「――抜刀神速ばっとうしんそく・光の一閃!」


鞘から放たれた光刃が天から降る稲妻のごとく閃き、敵の頭頂を斬り裂いた。宙で身を翻しながら着地の構えを整え、さらに畳みかける。


「――閃光の乱舞! ――神聖・光の舞!」


レイピアを手にしたnullは、敵の肩へと舞い降りる。

次の瞬間、舞踏のように剣が乱舞し、光刃が幾度も閃く。鋼鉄を断ち、装甲を抉り、淡い光の残滓が彼女の軌跡を描いた。

舞が終わると同時に、周囲に光の渦が展開する。床がまるで舞台のように輝き、【ゼロ=オムニア】の全身に光の印が刻まれる。


ひらりと飛び退き、最後の一撃に狙いを定めた。


「――光速斬こうそくざん!」


閃光の斬撃が奔り、敵の装甲を切り裂く。間髪入れず、nullはレイピアを構え直し、魔力を集中させた。


「――光槍こうそう!」


刀身に凝縮された光が槍へと姿を変え、一直線に突き抜ける。

敵はそれを避けるどころか、視認することもできない。その速さは次元を別つかのように、時間の流れが違う。


nullは横目でステータスを確認し、小さく呟いた。


「……これで、終わり。――聖なる裁き!」


掲げたレイピアが一際強い光を帯び、刀身が倍に伸びる。その神々しい輝きのまま、頭上から足元までを一閃。

眩光が敵を断ち割り、nullは刃を納める。


「――神威(しんい)収束(しゅうそく)、――カタスタシス。」


時間を戻し、レイピアを納めた刹那。

敵の背部にあった魔導砲が悲鳴を上げる。高濃度の魔力を叩き込まれ続けた結果、限界を迎え、内部から爆ぜたのだ。

時間が流れが戻ったnullは、衝撃で身体が宙へと放り出される。浮遊感の中、彼女は爆散する閃光をただ茫然と見上げていた。


耳に届くのは――小さなシステム音。それが、討伐の完了を告げていた。


(魔力濃度……やっぱり厄介だな)


アカデミーで学んだ知識はあった。だが、こうして身をもって体験すると理解が段違いだ。

出力を誤れば、スキルは暴発する。敵の攻撃も桁違いに強力だった。だからこそ、いつも以上に慎重に戦っていたはずなのに――レイピアを抜いた途端、楽しさに飲まれ、その警戒心をすっかり忘れてしまっていた。


「……失敗したなぁ」


苦笑をこぼした瞬間、宙に投げ出された身体がどさりと止まる。覚悟していた衝撃はなく、代わりに頭上から落ちてきたため息に状況を悟った。


***


エルディンは【ゼロ=オムニア】の一撃で吹き飛ばされた後、必死に体勢を立て直していた。次の攻撃に備えようと構え直したその刹那、突然敵が爆発した。恐らくnullが何かをしたのだろう。そう考えている時視界の端に何かが映る。


空へ舞うnullの姿を視界に捉えて、彼は考えるより早く、全力で駆けた。持てる技を総動員し、着地地点を先回りして腕を広げる。

そして――無事に受け止めた。……はずなのだが。


吹き飛ばされたnullが何の抵抗もなく、受け入れている状況に困惑が隠せなかった。

本来なら即死級の落下だっただろう。なのに彼女は、何事もなかったかのように力を抜き、すっきりとした顔で腕に抱かれている。

苦笑しながらも、その表情からエルディンは悟った。


――彼女が、この状況を切り開いたのだ。そして、自分もまた彼女に助けられたのだと。


***


「無事か…?」


ぎこちない声音と共に、エルディンの腕からそっと地に下ろされる。nullはぱちくりと瞬きを繰り返し、小さく頷いた。


「……ありがとうございます」


「あぁ。いや――こちらこそ、感謝します」


まさかの敬礼と共に返ってきた感謝の言葉に、思わず苦笑する。

視線を転じれば、倒れた【ゼロ=オムニア】の残骸の周囲に、いくつものドロップアイテムが転がっていた。


(これで……素材採取は終わり、か)


達成感と安堵が同時に胸へ押し寄せ、小さく息を吐いた。

「エア・コレクター」で手早く回収を済ませると、二人は足取り重くその場を後にした。長い戦闘の疲弊が残るのか、会話は少ない。それでも沈黙が気まずくはなかった。

やがて、最初に打ち合わせをしていた会議室へと戻る。席に腰を下ろした瞬間、nullは隠すことなく大きな疲労を吐き出した。


「ふぅ……」


その様子を見て、エルディンは苦笑しつつ、何事もなかったかのように部下からの報告や提出物へ目を通していく。


(疲れ知らずなのかな……)


nullが働く彼の後姿を見て、疑問が脳裏をかすめるが、もう考える気力も湧かず、ただ背もたれに体を預けるのだった。


次回:弱肉強食 -1

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