冒険者ギルドと受注クエスト
職業案内所を出ると、そのまま冒険者ギルドへと向かう。ヘリアデスの案内道中で念のため場所の確認を行っていたこともあり、難なく冒険者ギルドへとたどり着くことができた。
「さて、ここか」
目の前に職業案内所の三倍ほど大きく見える石造りの建物だ。横幅も階数も案内所とは比べようもない大きさに正直驚いた。ここまで目立つ建物は商業ギルドと冒険者ギルドだけらしい。
「迷うことなくたどり着けると思いますよ。」とは、ヘリアデス談である。確かに、この大きさの建物は遠目からでも分かりやすく、他のプレイヤーも目を輝かせながら見上げている様子がちらほら見えた。
大きな両開きの内の右のドアノブへと手をかけ、引き開ける。中は多少薄暗さはあるものの活気があるのがよくわかる。入ってすぐ左側には「素材買取所」と看板がついているカウンター。右側には「冒険者用販売店」の看板。どうやら冒険者ギルド内で必需品となる回復薬などの薬が売っているらしい。結構広めの空間を使用している所を見るとギルド職員が販売しているというよりは、出店に来ているという感じだろうか。
入って奥側にはカウンター。こちらには案内所と違い椅子の設置がない。あるのはカウンターの奥で、職員用だけだろう。そのカウンターの上には左に「登録所」、右側には「依頼受付」、正面には「受付」とそれぞれ看板がついている。依頼内容は壁に掛かっているコルクボード上の紙で確認するのだろうか。その辺りに人が群がるように、紙を吟味している者が目立つ。空いている中央付近には丸い椅子とテーブルが設置されており、待合や休憩用に使っているように見えた。
「登録所」の看板がかかっているカウンターへの道中でキョロキョロと中を観察しながら、歩く。心躍る内装に興味心が抑えられそうにない。あっと言う間についてしまったカウンターからは、女性の職員がにこりと笑顔で迎えてくれた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。冒険者ギルドへの登録でしたでしょうか?」
「はい、登録をお願いします。」
「承知しました。」という言葉と共に、一枚の銀板がテーブルに置かれる。そこには、何もなく、ただの銀板にしか見えない。はて?と顔を上げれば、職員の女性は笑顔を崩さす、手で示す。
「こちらへ手を置いてください。」
成程、案内所と似た感じのシステムなのか。と右手を銀板へと置けば、それが淡く光る。「やはり、そうだった」と思ったのと同時に、手を戻して構わないと言われた。手を引っ込めれば、銀板には文字が記載されているのが見える。
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[情報]
名前:null
職業:魔法使い
ランク:G
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「はい、登録が完了しました。こちらを付けて「受付」へ行くと依頼を受けることができますよ」
そういって手渡されたのは緑色のバングルである。指二本分くらいの幅の緑はよく目立った。先ほどランクGとあった為ランク制度らしいがそれらも受付で確認するのだろうかと疑問を持ちつつも、彼女へ感謝を伝えてから言われた通り「受付」と書かれたカウンターへと向かう。
「ようこそ、冒険者ギルドの受付となります。ここでは、ギルドへ依頼が来た内容を登録者様へ対応の代行を行っていただく為の受付となります。初めての依頼でお待ちがいなかったでしょうか?」
「はい」と返事をすれば、ギルドの大まかな仕様を教えてくれた。
冒険者ギルドではランクごとに、危険度の高い依頼を振り分けており、達成する度にギルドのポイントがバングルに溜まっていくらしい。
ランクは下からG、F、Eと続き、A、S、SS、Xと上がるとのことだ。バングルの色はどのランク帯かを大まかに把握するために、下から緑、青、赤、銀、金とランクが上がるごとに色が変化する優れものなのだとか。
ギルドからの依頼は、2~15名のパーティで行うこともできるし、ソロで行うこともできるらしい。ただし、受けられるランクはパーティ内での平均ランクとなるそうだ。要するにパーティ内にAやSランクの冒険者がいたとしてもそのパーティの平均ランクがFであればFランク用の依頼内容しか受けられないということだ。
また、受けたランクによって得られる冒険者ギルドポイント(Adventurer Guild Points)通称AGポイントは、受けたランクの依頼と自身のランクとを比較して獲得できるそうだ。そのため自分のランクよりも低いランクの依頼を十件分受けるよりも、同ランクの依頼を一つ受けた方が効率がいいということだ。
そして、一度に受けられる依頼は最大十件で、勿論一件の依頼から受け付けてもらえるらしい。依頼はコルクボードに張り出されている目玉依頼(報酬が高いとか、モンスターの複数討伐などの人気な依頼を指すらしい。)から探すか、ここの受付にて自身に合う依頼を個別で探すかとなるそうだ。
その他にも細やかな制約や注意点などを伝えられ、漸く依頼を受ける流れへと移った。
「それでは、えーっと…」
「あ、ナルで大丈夫ですよ」
「なー」とか「N…」となんとも呼び方に迷っている受付の女性に申し訳なく思う。彼女もまた申し訳なさそうな顔をしながら、「私は、ユーセスと申します。」なんて自己紹介をしてくれた。なんだか本当に、ごめんなさい。面倒で。
気を取り直して、とユーセスが現在受けられる内容を表示してくれた。タブレット端末に表示された内容はどれもこれも、採取系ばかりである。討伐系であるのは、スライム一体討伐とか、スケルトン一体討伐とか、そんなのばかりだった。
「んー採取の、回復薬の材料と状態異常回復薬の材料全種類分と、討伐のこのスライムと、こっちのバウルの討伐とー、あと三つかー」
別の街のギルドでも、このバングルさえあれば、達成完了報告が行えるらしいので、上限分受けた方が都合がいい。とはいえ、難易度が不明なため、最初は次の街へたどり着けるかもわからないが。
「もしかして、ナル様は調合系や素材採取にもご興味がおありでしょうか?」
「そうですね、冒険者と調合師の職業に就いているので調合に必要な材料は一通り見ておきたいな、と。」
それならば、とユーセスが適当な依頼を複数見せてくれた。どれがいいのか、判断がつかないため、その中から適当に三つ選んで受付をお願いすることにした。
「はい、ではこちらでお受付いたしますね。情報はステータス画面からご確認いただけます。」
ステータス画面から確認できると聞いて、「ステータス」と唱えて画面を開いてみれば、確かに新しく[ギルド]という項目が増えている。そこを開けば現在受けている内容が受注クエストとして、表示されていた。
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[ギルド]
所属:冒険者ギルド
受注クエスト一覧
01:青スライム5体の討伐 0/5 【報酬:300G】
02:バウル5体の討伐 0/5 【報酬:300G】
03:体力回復薬の材料採取(HPポーション) 0/5 【報酬:100G】
04:魔力回復薬の材料採取(MPポーション) 0/5 【報酬:100G】
05:解毒状態回復薬の材料採取 0/5 【報酬:100G】
06:麻痺状態回復薬の材料採取 0/5 【報酬:100G】
07:混乱状態回復薬の材料採取 0/5 【報酬:100G】
08:初歩調合材料の採取(薬) 0/5 【報酬:100G】
09:初歩調合材料の採取 0/5 【報酬:500G】
10:初歩調合材料の採取(魔力水) 0/5 【報酬:500G】
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「確認できました。ユーセスさん、次の街へ行くのに地図とかってありますか?」
このゲームでは自身が通った所から直径数m分だけマップが解放されていくようで、現状わかるのは方位くらいである。そのため別途マップを調達しなければならない。次の街がどのあたりにあるのかさえ分からないようでは冒険にも出られない。
「この近辺の簡易地図とはなりますが、後ろ手の販売所で数種類販売していますので、ご購入ください。」
成程、冒険者用販売店では、冒険に必要になるものは粗方売っていそうだ。ユーセスへお礼の言葉を告げると、これで受付は終了とのことなので早速冒険者用販売店を見て回ることにした。
冒険者用販売店は外部の販売担当者達がここで出張販売をしている形の用で、出店のような店舗があれば、露天のように広げている店まで様々だ。何となくテンションが上がるのは、プレイヤーの性なのかもしれない。
売られているものも様々で、ポーションから薬草、光源や武器、防具、アクセサリーに、旅の役に立ちそうな小物までおいてある。
ユーセスの言う通り、近辺の地図も販売されていた。しかし、これがまた厄介なものだ。
一番安い地図が、1000Gで近隣の街3つ分の方向が大まかに記載されているもの。
次に安い地図が、2000Gで近隣の街3つの大まかな場所と近くにある森や川などの地形まで記載されているもの。
一番高い地図が、3000Gで近隣の街3つの詳しい場所と地形はもちろん目印になるようなものまで記載されている。
これは一番安いのを買って一番高い地図の内容を覚えればいいのではないかと考えたが、どうやらここに展示されているものはサンプル品らしく、本物とは違う内容が記載されているらしい。つまりフェイクである。
現在の所持金は1000Gつまり一番安い地図しか買えないわけである。仕方がないので先ほど受けた依頼を熟しながら金策することにした。
nullは冒険者ギルドから出ると、近くの門へと向かう。早速クエスト開始だ。
おまけ
冒険者ギルド登録カウンター受付:アルディア
冒険者ギルド受付カウンター :ユーセス