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Extended Universe   作者: ぽこ
Vortex Conflict

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VORTEX ARENA - Scolding Time

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


カプセル内で目を覚ましたNE:NEは、天井を見上げたまま、ぼんやりとしていた。


遠くからは観客の歓声と、プレイヤーたちの賑やかな声が聞こえてくる。だが、身体はまるで鉛のように重く、起き上がる気力が湧かない。


そんなNE:NEの意志とは関係なく、カプセルの蓋が音もなく開く。

透明な蓋の向こうから覗き込んだその顔に、NE:NEは思わず内心で苦笑した。


「ほら、まだ大会は終わってないぞ」


優しく微笑むSHUGOが、手を差し伸べてくる。

その表情は、どこか保護者のようで、兄や父を思わせる穏やかさを帯びていた。


「はいはい、お兄ちゃん、ありがとー」


冗談めかして彼の手を掴むと、SHUGOは力強く、それでいて優しくNE:NEを引き起こした。

すると、その背後からひょこりとSORAが顔を出し、満面の笑みを浮かべる。


「ねねち~♪ お疲れ様っ!」


敗北にも動じず、変わらぬ笑顔で声をかけてくれる彼女に、NE:NEもふっと笑みをこぼした。


「SORAこそ、お疲れさま。大変だったでしょ?」


「そりゃもう! でも……ねねちーのとこ、行けなくてごめんねぇ……」


しょんぼりと肩を落とすSORAの姿があまりに愛らしくて、NE:NEはくすりと笑う。その横で、SHUGOも申し訳なさそうな顔をしていた。

そんな二人を見つめて、らしくないな、とNE:NEは心の中でそっと思う。


「いや~、元から一人で相手する気満々だったんだけどね~」


そう冗談めかして肩をすくめると、SORAとSHUGOは顔を見合わせて、苦笑する。


NE:NEがようやくカプセルから姿を現すと、その瞬間、周囲の視線が一斉に集まった。

無理もない。今大会のMVPとなっても納得できる存在だ。

彼女は、VORTEX CONFLICTで伝説級の偉業を成し遂げたのだから。


通常であれば、最後の一撃。あのナイフによる超長距離投擲が成功するなどありえない。だが、NE:NEはそれをやってのけた。

その奇跡には、三つの鍵となる要素があった。


一つ目は、弾道予測と精密な投擲精度。

相手の発砲した弾道を正確に読み、その軌道上にナイフを合わせて投げるという正確性が必要だったこと。

ただ遠くへ投げるだけではなく、「空中で弾丸を裂く」という精密さが求められるが、これに関しては今回は運がよかったとも言える。


二つ目は、スキル併用への挑戦。

本来、VORTEX CONFLICTではスキルの同時発動――併用は不可能とされている。

だが、NE:NEはその常識を覆した。


まず彼女は、「ライン・シンク」という狙撃支援系スキルで軌道を固定させ、次に「投擲」スキルでナイフを力強く投げ放った。

そしてその瞬間、ナイフが手元を離れる刹那に「超加速」スキルをナイフに付与したのだ。


超加速は通常、自身以外に使えないスキルである。

NE:NEはこれを「指先にスキルを帯びさせた状態で、ナイフに触れたまま発動」という発想で乗り越えた。

つまり厳密には同時発動ではなく、連続発動の応用だ。それによって、併用ではないというルール上の抜け道を見つけたのだ。


三つ目は、その判断力と実行力。

すべてのスキルが単独行使の範囲内でなければならない。どれか一つでもタイミングを誤れば、成立しない。その中で、NE:NEは迷いなく実行し、すべてを成功させた。


この三つの条件が揃わなければ、あの一撃は決まらなかった。

だからこそ、彼女に注目が集まるのは当然のことだったし、龍鬼が敗北を認めたのも頷ける話だった。


だが、NE:NE本人にとっては違う。

負けは負け。


あのとき気を抜き、背を向けた自分の油断が敗因だった。もっと言えば、相田の言葉がなければ、あっさり仕留められていただろう。

だから、彼女は結果に一切の不満も抱いていなかった。



「いや~惜しかったね!!」


SORAが明るく声をかける。その後ろには、不満げな表情を浮かべたHAYNEの姿があった。

「勝ちきれ」とでも言いたげな表情をしているが、自分の行動が影響していると感じてか、それを口にはしなかった。

珍しく、しおらしい態度のHAYNEを見て、NE:NEはくすりと笑う。


「ま、やりきったし、後悔はないよ~。 ゼロワンらしい、イイ大会だった!」


そう締めくくるような言葉に、SHUGOがすかさずツッコミを入れる。


「だから、まだ大会は終わってないって言ってるだろう?」


NE:NEがSORAたちと笑い合っていると、表側のステージが一気に騒がしくなった。

観客席からのざわめきに続いて、スピーカーから司会者の声が響き渡る。



『大変お待たせいたしました! VORTEX ARENA、集計結果の発表です!!

 本大会ではご存じの通り、MVP制を採用しております。

 最終スコアの総合評価が最も高かったプレイヤーに、個人表彰としてMVPが贈られます!

 それでは、まずはチーム順位の発表から参りましょう!』


『第3位――VALGARD(ヴァルガルド)!』


『第2位――ZERO:NE(ゼロワン)!!』


『そして優勝したのは――CRIMSON(クリムゾン) CREST(・クレスト)です!!おめでとうございます!!』



観客席から湧き上がる大歓声に、裏方にいたプレイヤーたちは苦笑しつつも、その盛り上がりに少し顔を綻ばせる。

反応は様々だ。驚く者、素直に楽しむ者。

一方で、運営スタッフたちは大忙しだ。楽屋への誘導、ステージへの案内、登壇者へのタイムライン説明。喧騒の中でも、段取りは正確に進んでいく。


そして、ZERO:NEの元にもスタッフがやってきた。


「ZERO:NEの皆さま、お疲れさまでした。

 二位入賞、おめでとうございます。

 このあとMVP発表後にステージへご登壇いただきますので、ステージ横での待機をお願いいたします。」


「分かりました。」


代表してSHUGOが答えると、メンバーたちを連れ立ってステージ裏へと移動した。

その道中、HAYNEとKAGEはどこか居心地悪そうにしており、NE:NEはそんな二人を見て苦笑する。


いつもチームの雰囲気を明るくしてくれるSORAは自業自得だと言わんばかりにスルーしており、それに気づいたHAYNEとKAGEはさらに肩をすぼめ、ますます縮こまっていた。




『お待たせしました! 続いては――注目のMVP発表のお時間です!』


『まずは簡単に集計方法をご説明いたします。

 本大会では、スコア制によって評価が行われています。

 対象となるのは、生存ポイント、戦闘スコア、戦術評価の三項目!』


『生存ポイントは、チームの生存者数+時間経過ボーナス。

 戦闘スコアは、撃破数・蘇生数・スキル貢献などですね。

 そして戦術評価は、指示・支援・連携行動・戦術判断が対象です。』


『それぞれ10点満点で評価され、合計スコアが最も高かったプレイヤーがMVPに選出されます!』


『それでは、いよいよ発表です――!』


『VORTEX ARENA MVP賞・第3位は――IRIDESCENCEイリデセンス・スガヤさん! 合計スコアは23点!!』


『続いて、第2位――VALGARD(ヴァルガルド)・山さん! 合計スコアは25点!!』


『そして―― 栄えあるVORTEX ARENA MVPに輝いたのは……

 ZERO:NE(ゼロワン)・NE:NEさんです!! おめでとうございます!!

 合計スコアは――30点満点!!』


『大変素晴らしい戦いを見せてくださいました!

 これはおそらく、満場一致の結果ではないでしょうか!?』




「――え”……?」


「きゃああー!! ねねちー、おめでとう!!」


SORAが勢いよく飛びつき、NE:NEをぎゅっと抱きしめる。だが対照的にNE:NEの顔は、見る見るうちに渋く歪んでいった。


「……ぜんっぜん、嬉しくないけど……」


ぽつりとこぼした一言は、周囲の高揚した空気とは明らかに違っていた。


「まぁ、そう言うな。あれだけのプレイを見せられれば、そうなってもおかしくないさ」


SHUGOが苦笑しつつ声をかけるも、NE:NEは小さく首を振るだけ。

いくら訴えても、もう結果が変わるわけではない。


そうしているうちに、ZERO:NEの出番が回ってきたようで、スタッフからステージへと誘導される。

NE:NEが拒否しようとするも、SHUGOがぴしゃりと制止する。


「ほら、行くぞ」


そのまま腕を引かれ、背後からはSORAにぐいぐい押されて、ずるずるとステージへ。

観客の間にも、NE:NEの様子に気づいた者たちがいたのか、少しばかり苦笑めいた空気が広がった。


ステージ上では、すでに登壇していたVALGARDの面々とMCの男性がZERO:NEを迎えていた。

全員が揃いきるのを見届けると、MCの男性がひときわ明るい声を上げる。


『さあ、お次は――今大会の優勝チーム! CRIMSON CRESTの皆さんです! どうぞ!!』


歓声が再び巻き起こる中、ステージへ上がってきたのは、NE:NEと同様に不満げな表情を浮かべた龍鬼(りゅうき)を含む、CRIMSON CRESTの面々だった。

今にも噴火しそうな龍鬼を必死でなだめる我狼がろうが、代わりに笑顔で観客に応えている。


『さて、入賞チームのプレイヤーがすべて揃いましたので、ここからはインタビューに移りましょう!』


MCのひと言に、観客のボルテージがさらに上がる。



『それではまず――VALGARDヴァルガルドの相田さん、山さんにお聞きします!

 本大会はいかがでしたか?』


『はい、とても素晴らしい戦いができたと思います。

 特に最後のZERO:NEのNE:NEとの戦いは、見ごたえのある試合になったんじゃないでしょうか。

 私自身、結果はどうあれ精一杯やり遂げた戦いでしたので、結果に不満はありません。

 もちろん、反省点も多くありますので――次回こそは優勝したいと思います。

 応援してくださったファンの皆様、そしてVORTEX ARENAをご覧の皆様、たくさんのご声援、本当にありがとうございました。』



模範的で素晴らしいコメントと共に一礼する山さんは、場慣れしている様子だった。

MCの男性もうんうんと満足そうに頷きながら、今度はマイクを相田に向ける。



『えー、まずは応援してくださった皆様に感謝を。いつも本当にありがとうございます。

 私としては、反省点の多い試合だったと考えています。

 何よりも、最後の瞬間は私の油断が招いた敗北だった――そう言えるでしょう。

 それでも、最後に彼女を支援できたことは、いちプレイヤーとして誇りに思える行動だったと自負しています。

 次こそは優勝を、そしてMVP賞も狙っていきたいと思います。

 

 ――ZERO:NE! CRIMSON CREST! 首洗って待ってろよ!!』



相田らしい、厳しい自己評価と熱いノリで会場を沸かせると、MCも大きく頷きながら二人に賛辞を送る。

その熱量は観客の心にも響き、会場の熱気はさらに高まっていく。


続いてマイクが向けられたのは、優勝チーム――CRIMSON CRESTだった。

すると、龍鬼がマイクを乱暴にぶん取るように掴み、勢いよく口元へ引き寄せるや否や――


キーンッ――!


マイク越しに怒鳴り声が会場を劈き、あまりの大音量に観客たちは思わず耳を塞いだ。



『おい!! NE:NE!! 俺は勝ったとは思っていない!!

 次こそ、絶対に勝つ!! それだけだ!! 覚えてろ!!!』



言い放つと同時にマイクをMCへ乱雑に返す。

周囲のC.Cメンバーたちは、慌てて謝るようにぺこぺこと頭を下げており、MCもそれを見て苦笑しながら、今度はNE:NEへとマイクを手渡す。


(……え、これって、何か返せってこと?)


戸惑いながらマイクとMCの顔を交互に見つめるNE:NEは、仕方なく深く、ひとつため息を吐いた。


『はぁ~~。ほんと、勘弁してほしい。

 てか、龍鬼さん。私、一応負けたんですよ~?』


そう言いながら、NE:NEは大スクリーンに映されたチーム順位表を指さす。すると、それを見た龍鬼からマイクいらずの大声が飛んできた。


「認められるか!!!」


あまりの熱量に押されて、NE:NEは肩をすくめつつ、苦笑を漏らす。


『はいはい、わかりました。じゃあ、そういうことにしておきましょうか~。

 あっ、あと――相田さんもなんですけど、私、たぶん……

 しばらく別のゲームに集中する予定なので、活動はいったん休止すると思います。

 

 だから、もし再戦の機会があるとしても――だいぶ先になると思いますよ~?』



にこりと無邪気に笑いながら、あっさりと爆弾発言を投下するNE:NE。

会場中が一瞬静まり返り、次の瞬間、ざわめきが巻き起こる。


NE:NEの活動休止宣言に、ファンからは絶望に近い悲鳴が上がり、「信じて待ってるからぁ!」「戻ってきてぇー!!」と叫ぶ声が飛び交う中――。


その様子を、観客席の一角から見つめるひとりの男がいた。

彼だけはどこか満足げに、そして悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「……へぇ~、寧々。やっぱり、こっちに専念する気か。 ――そりゃあ、楽しみだな?」


その意味深な呟きと共に笑ったのは、どこかで見覚えのある男。

NE:NE――寧々は、この場にいる彼の存在に気づかない。




ステージ上では、NE:NEが会場の空気もどこ吹く風とばかりに、今から行われる小さなショーの準備に入っていた。


『はい、ということで―― 裏切り者さん、しゅ~~~ご~~~~~!!』


会場の視線が、一斉にステージ端にいる2人へと注がれる。


NE:NEの声に応じて、SHUGOが一歩前へ出て、ステージの床を指さした。


KAGEが「まじかよ……」と呟きつつ、渋々正座する。

隣のHAYNEは抵抗を見せるも、SORAが後ろから無理やり正座させれば、「ZERO:NE公開説教タイム」が、NE:NEの演出によって開幕されたのだった。



『えー、まずそもそもなんですけど。

 裏切りがなければ勝ててたと思うんですよ~?お二人はどう思いますか~?』


観客に背を向け、ステージ上で正座している二人に向けてNE:NEがマイクを向ける。

すると、理解のあるカメラマンがしっかりと反応し、中型スクリーンには二人の顔が大きく映し出された。


「……反論の余地もありません。」


KAGEがうなだれるように答えると、NE:NEは満足げにうんうんと頷いた。

今度はマイクをSHUGOに手渡す。


『チームとは、何ですか?』


その問いをSHUGOが隣のHAYNEに向けて突きつける。

カメラは即座に彼にズームイン。嫌々ながら答えたHAYNEの顔が、中スクリーンに映し出される。


「……ワルカッタ!!!」


謝罪の言葉を引き出せたことで、SHUGOは満足げにうなずいた。すると次の瞬間、SORAがそのマイクを横から奪い取る。


『じゃあ、二人には罰ゲームをしてもらいま~す♪』


陽気な声に、正座中の二人がピタッと動きを止める。そして次の瞬間、息の合った叫びがステージに響き渡る。


「「……はあああああ!?」」


その反応に、NE:NE・SHUGO・SORAの三人がぴくりと眉を上げると――


『当然だよね??』


声を揃えて畳みかければ、KAGEとHAYNEは肩を落としながら、しぶしぶ答えた。


「「……ハイ。」」


会場は大爆笑と歓声に包まれ、SORAは満足げにマイクをMCへと返す。MCも苦笑しつつ、進行の言葉を続けた。


「さすがZERO:NE! 大会後も観客を楽しませてくれる、素晴らしいチームです!

 爆弾発言はありましたが、一先ず…!本日は本当にありがとうございました!」



ステージを降りたNE:NEたちは、「罰ゲーム何にする!?」とワイワイ盛り上がりながら会場を後にする。

後日、その罰ゲーム動画がネット上に投稿されたのは言うまでもない。

しかし――それをも上回る再生数を記録したのが、大会公式が公開した「NE:NEの最後の戦闘シーン」の映像だった。


さらにそれと並行して、大きな話題を呼んだのが以下のような見出しだった。


『ZERO:NEのNE:NE引退か!?』

『ZERO:NE 解散の真相とは?』


NE:NEの発した「別のゲーム」という一言にも、ファンの間で憶測を呼び、考察動画やスレッドが次々に立ち上がる。

解散は本当か、裏切りが原因なのか――?

様々な噂と共に、「別のゲームとは一体何か?」という総論は過熱していく。


その中で、とあるタイトルが急浮上した。


「To the Light」――。


かつてない注目を集め始めたそのVRMMOは、NE:NEの話題と共に一気にプレイヤー数を伸ばす。

そしてその動向が、運営会社のひとつである新堂㏇の目に留まったのは、言うまでもない。


次回(10/1):新章 備えあれば憂いなし


早いもので、この作品を投稿し始めてから半年が経ちます。

皆様の応援のおかげで続けられています。本当にありがとうございます。


一応記念として10月1日に二話連続で投稿しますのでどうぞお楽しみください。

これからもマイペースに頑張っていきたいと思います。


評価くださっている皆様、更新のたびにご拝読くださっている皆様、今読み進めてくださっている皆様にも感謝しております。

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