VORTEX ARENA - Showtime
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三つ巴になる少し前。NE:NEたちはフィールドを駆け抜けていた。
残りの敵を正確かつ迅速に仕留めながら、収縮するエリアの中心へと向かっている。その途中、突き抜けるような轟音が響き、NE:NEは思わず口角を上げた。
「……あそこかぁ」
「どうする? 漁夫るか?」
「しゅーくん、それじゃゼロワンらしくないよぉ♪」
NE:NEはSORAの言葉に頷き、爆音が鳴った方角へと視線を固定する。SHUGOはその様子に肩をすくめ、嫌そうにため息をつく。
「言うと思った。……で、向かうのか?」
「うん。でもその前に。SORA、あの一帯に索敵スキルをお願い」
「了解~♪」
SORAのスキル発動を確認してから、NE:NEはSHUGOへ視線を送る。
「多分、残ってる敵はあそこに集まってる。リーダー、どうする?」
「そりゃあ、全員倒して勝ちたい、と言いたいところだが……」
SHUGOはニヤリと笑った。
どこにあるとも分からないカメラへ向ける様に、空を見上げて言い切る。
「馬鹿二人が羨むくらいの展開になれば、それで及第点。勝てりゃ優秀ってとこだな」
「いいね。それじゃ、思いっきり楽しもう!」
NE:NEの口角がゆるりと上がったタイミングで、SORAの報告が届く。
「みつけたよー。全部で13人。C.Cとヴァルガルド、それにイリデもいるね。
C.Cが高所取ってるから優勢。イリデはそのほぼ真下。正面にヴァルガルドって感じかな? 多分ね」
「両方ともC.Cの死角で戦ってるのか? 共闘か?」
「うーん、スガヤさんが共闘の申し出を受け入れるとは思えないかな……」
「あの人、けっこう頑固だもんねー♪」
「それじゃ、急いで向かおうか!」
NE:NEの言葉に、二人は頷いて同意する。
NE:NEが走り出すと、SORAが俊足のスキルをかけ、その後を追う。SHUGOはNE:NEの背中を追いながら、視線をその先にいる敵へと向けた。
思ったよりも距離は近かったようで、爆発からそれほど時間を置かずに、ZERO:NEは戦場へ到着した。そして現場の状況をすぐに把握する。
どうやらSORAの予想は的中していたらしい。とはいえ、ひとグループ姿が見えないのは先ほどの轟音の直後に戦闘があったのか、とNE:NEはVALGARDの参謀へと目を向ける。
彼なら何かやらかすに違いない。そう思ってじっと視線を向けていれば、いつも通りの微笑みを携えた彼と視線が絡む。
「やっぱり、まだ生き残ってたね。ゼロワン」
早々に声をかけてきたのは、VALGARDの山さんだ。NE:NEは彼に向けて笑顔で手を振る。
「こんにちはー♪」
「やっと来たか、ゼロワン」
VALGARDの相田が面倒くさそうに後ろ手で頭をかきながら声を上げる。だが、その姿勢にはまったく隙がない。
NE:NEはむしろ楽しげに、にこっと笑い。SHUGOも爽やかに微笑みながら一歩前に出る。
「そりゃ、あんな轟音聞いたら、どこにいたって場所くらい分かりますって」
リーダーが堂々とそう告げたその横で、NE:NEはきょろきょろと周囲を見回していた。
分かりやすく首を傾げて見せれば、徐に口を開く。
「あれ? イリデセンスはどうしたんですか?」
「さっき倒した。こいつがな」
問いに答えたのは相田だった。彼が指さす先には、彼の相方とも言える山さんが立っている。
NE:NEは状況を察し、同時にあの爆発の規模を思い出して苦笑した。あれほどの爆撃を生き延びただけでもイリデセンスは見事だったが、きっちりトドメまで刺すあたり、さすが黒幕というべき戦いぶりだ。
「あ〜、なるほど。山さんか〜」
「んー? まあ、作戦勝ちってだけですよ?」
いつもの爽やかな笑顔を浮かべながら、どこか不服そうな表情も見せる山さん。否定はしないが、すべてを語る気もなさそうだ。
NE:NEは思わず、「何をどうしたらあの爆発でトドメまで刺せるのか」を問い詰めたくなる衝動をこらえたが、今はそんな場合じゃない。
明らかに建物の上層から、いつでも狙撃できる体勢でC.Cがこちらを見下ろしている。それも、堂々と身を乗り出しながら楽しげに。
「で、なんでそこにC.Cがいるんですかね〜? 龍鬼さん?」
大声で問いかければ思った通り、龍鬼は待っていましたとばかりに大きく笑いながら応じた。
「おう、NE:NE! 待ってたぞ〜〜!! ……にしても、なんでお前が最前線なんだ?」
ごく当然の疑問だった。今の状況は、どう見てもZERO:NEが人数不利。
それでも前に出てきたということは、裏があると見られても仕方がない。だが、実際には裏なんてない。だからこそ、NE:NEは堂々と一歩前へ出て、交渉に出た。
「すみませーん! 色々トラブルがあって、私、今日前衛アタッカーなんです!」
「はぁ?」
一体誰の声だったのか。多方面から、同じ疑問符が飛んできたような気がする。
しかし、その視線をものともせず、NE:NEはしっかりと龍鬼の目を見据えて、もう一度、言葉を投げた。
「実は〜、仲間に裏切られちゃいまして〜。三人になっちゃいましたー!なので、ちょっとそこから降りてきてもらえませんか〜?」
「そうかー! 大変だったなー!じゃあ今回は、ウチが勝たせてもらうことになるな!!」
同情はあっても、譲歩はしてくれないらしい。NE:NEはあっさり諦め、次の手へと移ることにした。
本来なら、彼らがノリよく地上戦に切り替えてくれれば、三つ巴の混戦で勝率はグッと上がっただろう。だが、拒否された以上、仕方がない。
次に鍵を握るのは、VALGARD。どうやって彼らを取り込むか。NE:NEが考え始めたその矢先、龍鬼の挑発にユーリクが乗った。
――これは、使わない手はない。
「何言ってんだ!! 優勝は俺たち、ヴァルガルドに決まってんだろーが!!」
「小僧! よ〜〜く考えてみろ。お前の弾、俺まで届くのか〜?悔しかったら一発でも当ててみろ!」
両手を大きく広げ、自身を的のようにして挑発する龍鬼。その姿にカッとなったユーリクは、怒りに任せて連射するが、勿論彼の弾は届かない。
「がははっ!! そんなんじゃ当たらねぇぞ!」
高らかに笑う龍鬼に、ユーリクは地団駄を踏んで吠えた。NE:NEはそれを見て素早く武器を切り替える。
相手がこちらに注意を払っていない今、不意を突くのは難しいことではない。
NE:NEは手際よくスナイパーライフルを構えると、スコープを龍鬼の右手に合わせ、引き金を引いた。
――カシュン。乾いた発砲音とともに、弾丸が龍鬼の右手に命中する。
「うおおっ!? おいバカッ! NE:NE!! 痛てぇじゃねえか!!」
慌てる龍鬼に、NE:NEは楽しげに笑ってみせる。
「当たりましたー♪」
「よっしゃあ! よくやった!!」
ご機嫌なユーリクを見届けてから、NE:NEは再び双銃を手に取り、VALGARDの面々へと視線を向けた。
さらに一歩前に出ると、山さんの表情がわずかに動く。こちらが仕掛けてくると、そう警戒しているのだろう。
NE:NEはちらりとCRIMSON CREST(=C.C)の方を盗み見た。
彼らはまだ戦闘態勢に入っていない。ならば、今は堂々と交渉をさせてもらおう。そう考えながら、NE:NEはVALGARDの相田と山さんに声をかける。
「相田さん、ちょっとこれ……厳しくないです?」
にこりと笑いながら、NE:NEがC.Cが陣取る建物を指差す。相田の視線が一瞬だけ建物へと向かい、すぐにNE:NEへと戻る。
その目を見て、NE:NEは少し困ったように眉を下げてみせた。しかし、相田はほとんど動じた様子もなく、静かに答える。
「致し方ない。……だが、戦略はこいつに任せている。どうにかするだろう」
「さすがに、俺でも難しいかな……」
相田に視線で促された山さんは、困ったように笑った。
NE:NEは、その笑顔が本心であることを何となく感じ取っていた。
NE:NE自身も、今ここでVALGARDとやり合ったとしても、負ける気はなかった。最悪、相打ちで準優勝。だが、それではせっかくのVORTEX ARENAが勿体ない。そう思うのは、きっと自分だけではないはずだ。
そう信じて、NE:NEは強気にもう一歩踏み出した。
「だそうですよー? 時に、私に妙案があるのですが……聞くだけでも、聞いていただけません?」
「いいだろう。聞くだけならな」
「ありがとうございます! 本当に助かります! もう、めちゃくちゃ困ってたんです!」
思い通りに話が進み、NE:NEはにこっと笑った。だが次の瞬間、少し眉尻を下げ、真剣な表情で彼らに願いを込める。
C.Cを倒し、VALGARDと戦う。そのための交渉だ。
「案というのはですね。ウチのリーダーとサポーターをお貸ししますので、あそこのC.Cを打ち取ってきてほしいんですよ!」
できれば、ユーリクとサポートのどちらかをC.C戦へ送り込んでもらえれば、やりようはあるとNE:NEは考えていた。それはチームの総意ではなく、NE:NE個人の企みだったが、彼女はそれが最も勝率の高い方法だと確信している。
フルメンバーのC.Cチームに対し、即席チームでは大きな差があるのは言うまでもない。どうにか勝てるかどうか、その程度だろう。それでも勝機はある。
「……で、君は?」
「私は、ここで残った方のお相手をします。いかがです?」
当然の疑問に、NE:NEはにこりと笑って答える。それは同時に、一人でVALGARDを打ち倒すという、暗黙の宣戦布告だった。
NE:NEの言葉を受けて、相田の表情が一瞬、わずかに歪んだ。
その変化を見逃さなかったNE:NEは、思わず緩みそうになる口元を必死で押しとどめた。が、それ以上に、背後から飛んできた怒声に思わず頬が引きつりそうになる。
「おい、待て待て待て待て! お前、何言ってんだ!?」
「そうだよ、ねねちー!? さすがに無茶じゃない!?」
心配性のSHUGOと、実は小心者なSORAが声を揃える。
二人が本気で自分を心配していることは、NE:NEにもよくわかっていた。それでも、この場では何でもないふりをしておく必要がある。この二人が納得しなければ、次の手に進むことすらできない。
「大丈夫、大丈夫。私、信じてるから! 二人と彼らでなら、C.Cを倒せるって!」
「そこじゃない! お前が一人で戦うってことだろ!? 勝率下げるような真似するな! 先にC.Cの方へ向かえばいいだけだろう!それなら彼らだって損にはならない」
「ほんっと、ばっかだなーウチのリーダーは。」
NE:NEはため息をつきながら首を振り、人差し指を立てて軽く説明を始める。
「C.Cが素直にそれを許すわけないでしょ。それに、エンタメ的に面白くないし?」
「は?」
困惑するSHUGOは、嫌そうに顔をしかめる。だがNE:NEは気にすることなく、説得を続けた。ここで納得してもらえなければ、また別の策を考えなければならない。それは時間のロスだ。
NE:NEとしては、これ以上C.Cが待ってくれるとは思えなかった。だからこそ、この作戦で押し通すのが最も勝率が高いと判断している。今ならまだ、自分のペースに持ち込める。そう確信していた。
「視聴者が喜ぶのはね、現状圧倒的強者のC.Cに、敵同士だったゼロワンとヴァルガルドが手を組んで挑む姿。そして地上ではゼロワンvsヴァルガルドの激突が展開される。……つまり、両方見せるにはこの形しかないんだよ」
NE:NEは敵に背を向け、あくまで堂々と説明しているように見せながら、こっそりと二人にアイコンタクトを送る。
ウィンクひとつで、SHUGOとSORAのお小言が一瞬止まり、苦い表情が浮かぶ。
それでもSHUGOの口は止まらない。NE:NEは小さくつぶやいた。
「だから、早めに戻ってきてよね。逃げ回るくらいなら、私にだってできる。時間稼ぎは得意だから。……でも、遅いと私の考えが変わっちゃうかもだから、よろしくね?」
にこりと笑ってみせれば、SHUGOは大きくため息をつく。
「C.Cは厄介な相手だ。それでも、人数がいれば勝てなくもない。だから…ちゃんと待ってろよ」
「うん。ここからじゃ、C.Cと戦うには距離もあるしね。大人しくここにいるよ」
「大人しく、ねぇ〜? ねねちーがこういう時大人しくしてたこと、あったっけ〜?」
何かを悟ったかのような顔でこちらを見るSORAに苦笑しながらも、言葉を返す。
「SORA〜? 勝ってこそエンタメ、でしょ?」
「分かってる~。こっちも全力で頑張るから。そっちはねねちーに任せたっ♪」
二人の同意を得て、NE:NEがふっと笑ったそのとき、背後から山さんの声がかかる。
「決まりましたよ。こちらはユーリク、ハジメ、ハナを出します。リーダーと俺でNE:NEさんのお相手をします。問題ありませんか?」
「構いませんよー! それじゃあ龍鬼さん、当然この提案――飲んでくれますよね?」
NE:NEはVALGARDの面々に向かって大きな○を作って見せ、そのままC.Cが陣取る方角へと指を向ける。
にこりと微笑むと、龍鬼はその様子に楽しげに笑い返してきた。どうやら、彼もノリ気らしい。
「ちっ、仕方ねぇな! お前らがビルに入るまでは撃たねぇでやるよ! ただし、俺らが勝ったら下の連中、撃たせてもらうからな!」
「ありがとうございます、龍鬼さん!」
NE:NEはにこりと微笑み、丁寧に頭を下げながら、思わず口角が緩む。
ここまでは、すべて計画通り。さて、ここからどうやってあの二人を倒そうか。
NE:NEは目を細め、静かに策を練り始めた。
C.CのいるビルへとSHUGOとSORAが向かいかけたそのとき、SHUGOがふとNE:NEの方を振り返る。
「これが終われば、俺も…お前が楽しんでる世界に、入ってみるとするか」
これまでどれだけ誘っても頷かなかった彼が、わずかに口元を緩めながらつぶやいたその言葉に、NE:NEは驚きと、抑えきれない喜びを感じた。
「わ〜、それ、やる気出るぅ!」
「じゃあ、こっちは任せた」
「まっかせてよっ!」
二人の背中を見送ったNE:NEは、くるりと振り返り、相田と山さんへと向き直る。今から始まる楽しい戦いを前に、緩んだ口元はもう戻らない。
「さて。準備、完了っと。じゃあ、やりましょうか…お二人さんっ!」
== SHUGO team ==
「……良かったのか?」
走りながら、ユーリクがSHUGOに声をかける。
後ろを気にしながらSHUGOの背を追って走り続けていたユーリクは、呆れ半分、疑問半分といった様子で問いかけた。
「あぁ。あいつなら問題ない。むしろ、俺たちの方が問題だ……」
「なめられたもんだな?」
SHUGOの返答に、ユーリクは思わず眉間に皺を寄せた。
同じような感情を抱いたのか、隣を走るハナとハジメと視線がぶつかる。互いに言葉を交わさぬまま、再び視線をSHUGOへと戻す。
「いや、そういう意味じゃない。ただ…今のNE:NEなら任せられると思ってる。どちらが勝ってもおかしくない…。」
(……だから、それが なめてるって言ってんだろ。こっちはリーダーと副リーダー、二対一なんだ)
「…まぁ、いいけどよ」
(そっちがどうなっても構わないなら)
そう思いながらも、ユーリクは視線を切り替える。今、彼らが向かう先にはこれから対峙する敵との戦いが、チームの勝敗を大きく左右することを、彼自身も理解していた。
隣を走るハナとハジメは、命じられた役割をこなすことだけに集中している。一言も発することなく、無駄な動きもせず、まっすぐに走り続けていた。
「しゅーくん、ストップ」
最前を走っていたSHUGOへ、SORAが声をかける。彼女は半透明な画面を見つめながら、難しい顔をしていた。
その声に反応し、3人が足を止めてSORAに視線を向ける。
「SORA、どうした?」
「うーん……ちょっと確信はないけど、多分…一人、ダミーかも?」
一瞬で空気が張り詰める。
SORAが見ているのは、敵の位置を表示するマップ画面。その意味をすぐに察した3人は、互いに顔を見合わせ、対応を考え始める。
だが、探知スキルでダミーまで見抜けるわけがないと理解していたユーリクは、眉をひそめながら問いかけた。
「おい、ダミーって……なんで分かるんだよ?」
しかし、その返答は彼の思いもよらない方向から返って来る。
「ユーリク、微かな違いを見抜けるのがSORAさんなんだよ。私には絶対にできないけど、SORAさんが違和を感じたなら、警戒は必須だと思う」
「その通りだな。こういう時のSORAの感覚は、大事にすべきだ」
すぐにSHUGOも頷き、ハナへと視線を送る。
「ハナさん。広域でも構わないから、探知できるか試してもらえる?」
ユーリクもまた、過去に似た感覚で数々の窮地を切り抜けてきた。だからこそ二人の言葉に納得するしかなかった。言葉を飲み込んで静かに作戦に耳を傾ける。
その間にSHUGOは、C.Cチームとの戦い方を一から練り直し始めていた。
もし、SORAの言う通り敵の一人がダミーなら本物はどこにいるのか。彼らの仕掛けを読み切らなければ、勝機は見えてこない。
こちらは寄せ集めの即席チーム。対するC.Cは、大会でもシードに選ばれた精鋭揃いのフルメンバー。少しの油断が命取りになることは、誰よりSHUGOがよく理解していた。
「……見つからない」
焦るハナの声が、SORAへと伝わる。
SORAはにっこりと笑みを浮かべ、そっと彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫、大丈夫。ゆっくり探そう。そうだなー……しゅーくん、C.Cが私たちを狙うとしたら、どの辺りにいると思う?」
SORAの問いに、SHUGOは小さく頷き、腕を組んで真剣に思案を始める。その様子を見上げながら、ハナは困ったように眉尻を下げた。
「……うん、恐らく…マップのB地点方面か、もしくはNE:NEがいる場所の向かい側か」
「じゃあ、ハナちゃん。ねねちーがいる広場の、そこから反対側になるような位置で探してみて?」
「えっ……? ……わかりました!」
戸惑いながらも、SORAの笑顔に見えた確かな自信を信じ、ハナは素直に頷きスキルを発動する。
それを見ていたユーリクが、首をひねって尋ねた。
「なんで、反対側なんだ?」
「だって、その位置なら、私たちから手出しされにくいし……何より、ねねちーたちを狙いやすいじゃない?」
「でも、わざわざ俺たちと同数にする意味なんてあるか?」
「あるな」
静かに、しかし確信を持って、SHUGOが答えた。
「相手はC.Cだ。彼らの強みは、長距離射程のスナイパー軍団であること。であれば、彼らが距離を取って戦おうとするのは当然。むしろ、それが最も勝率の高い戦術とも言える」
「つまり、こっちが同数でも勝てればそれでよし。苦戦しても、切り札が遠くに控えていれば、いつでも立て直せるってわけか」
納得したようにユーリクが頷く。だがその横で、SHUGOはさらに深く考え込み、眉間に皺を寄せた。
(……こちらの動きが筒抜けなら、どんな策を練っても意味がない。)
「見つけた」
ハナの声が少しだけ高くなる。それは、見つけた喜びか、それとも見つけた場所によるものか。SHUGOは続きをじっと待った。
「場所は?」
「SORAさんの言ってた通り。この建物の向かいのビル……中央三階のベランダっぽいです」
頷いたSHUGOはすぐさま作戦の再構築に入る。敵にこちらの情報を渡さず、どう排除するか。考え込む彼の横で、SORAが陽気な声で無線を入れたことに戸惑いつつも苦笑する。
SORA:『ねねちー? C.Cの一人が向かいのビル、中央三階のベランダに潜伏中~。お願いできる?』
NE:NE:『了解。』
「今ねねちーにお願いしたから、大丈夫だよ♪」
陽気にそう言うSORAに、戸惑いを隠せないのはユーリクとハナだった。
自分たちでも厄介だと感じる相手を目の前にしながら、さらにもう一人、潜伏中の敵まで相手にするなど本当に可能なのか。不安と共に、仲間の身を案じる気持ちが募っていく。
「おい、それなら相田さんたちにも連絡したほうが良いんじゃないか?」
「大丈夫だって~♪ ねねちーに任せておけば、どうとでもなるもん♪ 信じてよ、うちのエースを!」
ユーリクとハナが「本当に大丈夫なのか……?」という表情でSHUGOを見上げると、彼はまたも苦笑しながら答えた。
「ああ、まぁ。大丈夫だろ。うちの参謀はな、頭より体を動かす方が倍くらい得意だからな」
ユーリクは思わず顔を引き攣らせた。
さっきまであれだけ冷静に場を掌握していた彼女は、仲間の反応を見る限り、即興かつ独断で動いていたとしか思えない。そして、彼女は劣勢を覆し、誰もが納得するだけの戦略を提示していた。その彼女に対して「頭より体が動く方が得意」だと断言されれば、困惑するのも無理はなかった。
そもそも、NE:NEはスナイパーが本職。双銃はあくまで護身用だとユーリクは思っていた。
スナイパーとしての精密な射撃、的確な判断力、その腕前は誰もが認めるもので、何度も彼女のスーパープレーに圧倒された記憶がある。だが、それはあくまで遠距離戦の話であり、近接戦闘の彼女を見たことはない。
「NE:NEさんって……スナイパーですよね?」
純粋な疑問を口にしたハナに、SHUGOとSORAは顔を見合わせて首を傾げた。
「スナイパーだけど……」
「ねねちーはね、エースなんだよ」
SORAの飄々とした言葉に、SHUGOは言いかけた言葉を飲み込み、大きく頷いて補足する。それでも納得がいかない様子で、ハナがさらに食い下がった。
「スナイパーとして……って意味ですよね?NE:NEさんの腕が高いのは、私たちも分かっています。でも、相手は相田さんと山さんですよ?」
「NE:NEはスナイパーだけじゃないよ。」
「ねねちーはアタッカーとしてのエースで、スナイパーは支援手段の一つでしかないんだよー?」
「……え?」
ハナの混乱をよそに、SORAは楽しそうに笑う。
NE:NEのことをできる限り伏せておこうと考えていたSHUGOだったが、あっさり話してしまうSORAに呆れつつも、それを咎めることはなかった。どうせ大会のアーカイブを見れば、すぐに分かることだ。
「まぁ、なんとなく察してたけど……それでも、普段はあまり使ってないんじゃないのか?」
ユーリクの問いに、SHUGOは首を横に振った。
「いや、大会以外では基本的に双銃を使ってる。それよりも、作戦を練り直した」
SHUGOの言葉に引っかかりを覚えつつも、ユーリクとハナはすぐにSHUGOへ視線を向け直した。
これから戦うC.Cに勝つためには、彼の作戦が鍵を握る。二人ともそれを理解していた。
「じゃあ、作戦を話すぞ―――」
――残り13人(3チーム)
【シード】ZERO:NE
①タンク ・ SHUGO
②アタッカー・ NE:NE
③サポート ・ SORA
【シード】CRIMSON CREST
①アタッカー・龍鬼
②サポート ・我狼
③アタッカー・時雨
④アタッカー・騎馬
⑤スカウト ・呉羽
【シード】VALGARD
①タンク ・相田
②アタッカー・山さん
③アタッカー・ユーリク
④サポート ・ハジメ
⑤スカウト ・ハナ
次回: Center Stage




