VORTEX ARENA - Side:SPARKHOUND – taku -2
毎週、月曜日と金曜日に更新中!
別のモニターには、ZERO:NEの姿が映し出されていた。ちょうど戦闘が始まろうとしている場面だ。
一人ひとりの動きが、まるでプログラムされたかのように正確で、まったく隙がない。
見惚れるほど美しい。だが、近寄りがたい。
(…これがシードなのか。)
IRIDESCENCEに続いて、ZERO:NE。
どちらも圧倒的な完成度で、「格が違う」という言葉が嫌でも頭をよぎる。
ぼんやりとその映像を眺めていたとき――
「おい、あれ!!」
アザミが叫び、指を突き出す。反射的に目線をやると、そこには信じられない光景があった。
画面の中、ZERO:NEのHAYNEが――仲間に銃を向けていた。
一瞬、意味がわからなかった。全員が息を呑み、観戦室は静寂に包まれる。
モニターから響く、狂気を孕んだ叫びが耳を打った。
==
「いやー、やっぱこうでなきゃなぁ? 戦いってのはよ!
じゃあ、よぉ……今度はもっと楽しませてくれよぉ? なぁ――お前ら!!!!」
「HAYNE!!!! お前!!!!」
「どうして!!!」
「ああ!? わかんねーのかよ!!」
==
画面の中で繰り広げられるその一幕が、心臓をわし掴みにしたように震わせる。
ZERO:NEの仲間も、周囲の観戦者も、俺たちも。全員が、ただ呆然と画面を見つめていた。
これは、本当に同じ大会の一場面なのか?
あまりにも予想外で、あまりにも現実離れしていて――まるで映画でも見ているようだった。
==
「わかんないよ……っ!
みんな、ヘインくんが楽しめるようにって、作戦だって考えてたじゃん!
それなのに、なんで……なんでそんなこと……!」
「おれは、つまんねぇことはしねぇ! ――それだけだ!!」
「俺は……SHUGOにも、NE:NEにも、勝てねぇ!!
銃の腕でも、作戦の読みでも、人気でも……全部負けてんだよ!!!」
==
(HAYNEさん……そんなふうに、思っていたのか。)
俺からすれば、シード枠のチームに所属しているだけで、もう別次元の存在だった。
ZERO:NEの名を聞けば誰もが息を呑み、その動きに見惚れる。勿論HAYNEもその一人。疑う余地もない。
けれど――確かに、ZERO:NEの中でも、SHUGOとNE:NEの人気は突出していた。
動画の再生数も、SNSの話題も、ランキングも。彼らばかりが、常に最前にいた。
でも、それがHAYNEの価値を下げるわけじゃない。彼にしかないスタイルや、確かな実力に惹かれていたファンは、たくさんいたはずなのに。
それでも、彼は「負けてる」と感じていた。
その言葉が、あまりにも真っ直ぐで――あまりにも悲しかった。
==
「俺だってよ……俺だって、見せ場が欲しいんだよ!!
ふざけたムードメーカーなんて肩書きじゃねぇ!
本気でやってるんだよ、毎回!!!
けど、けどよ……どうしてもお前らには勝てねぇ。
だったらせめて、俺がいなきゃヤバいってくらいの存在に、なってやりたかっただけだ!!」
「HAYNE……」
「俺がいない方が、お前らうまくいくんだろ!?
作戦通りに動かねぇ奴より、ちゃんと命令に従うやつの方がいいんだよなぁ!?
チームってんなら、そうだろ!? 違ぇのかよ!!!!」
==
確かに、HAYNEはムードメーカーだと呼ばれていた。
軽口ばかり叩いて、おちゃらけて、明るく振る舞う彼に――俺も最初は、そんな印象しか持っていなかった。
でも、今の言葉を聞いてしまえば、もうそのイメージだけでは済まされない。
本気で、もがいていたんだ。誰よりも強くなりたくて。認められたくて。それでも勝てなくて。
――それでも、必要とされたいと願ってた。
確かに、HAYNEの立ち回りは突発的で、好戦的すぎる部分があるかもしれない。
だがそれを支え合って、引き立て合ってこそチームだと、俺は思う。
勝てるからじゃない。完璧だからじゃない。
それでも一緒にいたいと思える――それが、チームなんじゃないのか。
==
『…HAYNE。』
「なあ、NE:NE!!
お前だって、そう思ってんだろ!?
――弱い俺なんて、本当に必要かよっ!!」
『馬鹿には何言っても分かんないよね。……だから、粛清は私の役目。――ねえ、死んで頭、冷やしてきなよ。』
==
無線越しに響くNE:NEの声は、どこまでも冷たくて、それでいて――どこか悲しかった。
そのまま彼女は、引き金を引いた。仲間であるHAYNEを、自らの手で撃ち抜いたのだ。
一瞬の静寂。画面越しに映るNE:NEの表情は、どこか苦しげで、そして悔しげだった。
震える拳を握りしめるその手に、彼女の迷いと決意がすべて込められているように見えた。
もし、あそこにいたのが俺だったら――撃てたのか?
あんなにも苦しんで叫ぶ仲間を、冷静に、正しく処理できたのか?
正しさを盾に、引き金を引けたのか――?
その時、誰かがぽつりとつぶやいた。
「……NE:NEさん、かっけぇな……。」
誰のものともわからないその声が、シンと静まり返った観戦室にやけに響いた。
そして気がつけば、俺の胸の奥でも同じ言葉が繰り返されていた。
(……かっこいいな。)
==
「……NE:NE、てめぇ……」
『HAYNE、あとで説教だ。覚えとけ。』
==
ばたりと倒れたHAYNEに向かって、SHUGOがそう言い放つ。
その声は――怒りよりも呆れに近かった。
まるでいたずらをした子供に言うようなその調子に、思わず驚く。裏切りだというのに。味方を撃ったというのに。
けれど、そうか。これが――ZERO:NEなんだ。
誰かがブレても、壊さず、切らず。どんな状況でも、立て直すことを選ぶ。
そしてきっと、試合が終わった後は、何事もなかったように次の一幕を始めるのだ。
思わず、くすりと笑みが漏れそうになった――その瞬間。
「くっそ!!NE:NEのやつ!!どっから撃ってきやがった!!」
突然、背後から飛んできたその声に、肩がビクリと跳ねる。
横を見ると、いつの間にかHAYNEが隣に立っていた。
さっきまでモニターの中で撃たれていたはずの彼が、今はもうこちら側にいて、……しかも、心底楽しそうにZERO:NEのモニターを見つめていた。
仮想の死から戻った彼の表情は、まるで悪ガキそのものだ。
叱られたって、嫌われたって構うもんか――そう言っているようだった。
(やっぱり、あんた……一番チームを見てるんじゃないか。)
ZERO:NEの残りのメンバーが最後の敵を倒した瞬間、モニターがNE:NEの視点に切り替わった。
彼女が潜伏しているビルの斜め向かい――屋上で何かを探す影。
それは、さっきまで我々が交戦していた残党だった。
「……何を探してる?」
思わずつぶやいたその直後、NE:NEの銃声が響き、敵のアバターが弾け飛んだ。
直後、観戦室に怒声が飛び交う。
「話がちげぇ!!」
「どこだ!? NE:NEはどこから撃ってきた!?」
先ほど退場したばかりの二人が、パニック気味にモニターを探し始める。
(――まさか、あの残党の目的は彼女だったのか…?)
「なんで、お前はそこにいる!?聞いてた話とちがうじゃねえか!!」
モニターを見上げながらそういう男たちの背後から声がかかる。
「なんだぁ、お前ら」
口角をニヤリと上げたHAYNEが肩をすくめる。
「NE:NEにしてやられたってわけか?」
男たちは即座に首を横に振る。そうして「こいつだ」と指をさした先には、先ほどまで地上で戦っていたZERO:NEのメンバーが映っていた。
「……あいつ、俺が誘ったときは、興味ないって言ってたくせによ。結局、同じようなことしてんじゃねぇか……」
唇を尖らせた彼は、つまらなそうに画面をにらみつけた。
俺の頭は混乱していた。
(…つまり、HAYNEとKAGEの二人が裏切った!?)
そのとき、モニターの中でNE:NEの銃口がKAGEを捉えた。
KAGEは両手を上げ、まるで「撃て」と言わんばかりに無抵抗の姿勢をとっていた。
その顔には驚愕と、わずかな諦めの色が混ざっていた。
==
「ほら、やれよ、NE:NE!!」
「カゲくんさ、それちょっと甘いよね。
裏切者には――粛清、でしょ? ねぇ、ねねちー♪」
「はい、ちゅー♪」
『…KAGE、その終わり方……ダサすぎ。』
==
パン、と乾いた銃声が響く。
撃ったのはNE:NEではなかった。引き金を引いたのは、無邪気に笑うSORAだった。
愛らしく、どこかおどけた仕草。だが、そこにあったのは仲間を守るという、強い意思のように感じられる。
仲間を撃ったのはNE:NEだけでなく、自分も同様だと周囲に伝えるための言動か、それとも、SORA自身が終止符を打ちたかったのか。
(……見事なオチだな)
思わず苦笑がこぼれる。
「くそ……よりによって、SORAにやられるとは……」
「ははっ、KAGE。ざまぁねぇな」
笑うHAYNEを、KAGEは少しだけ恨めしそうに見やる。だが、その顔には後悔の色はなかった。
割り切ったように、まっすぐにZERO:NEの画面を見つめていた。
「――さて。ここからが本番だぞ。ZERO:NEは、勝てるか…?」
「当たり前だろうが! 俺たちを誰だと思ってんだ!!」
「……お前、もういないけどな」
「うるせぇ。見てろよ――ZERO:NEは、こっからでも勝てんだよ!!」
彼らの間に割って入れる者など、この場には誰もいなかった。
だが確かに。その言葉どおり、ここからのZERO:NEは――猛進撃を開始する。
SHUGOは引き続き鉄壁のタンクを担い、NE:NEはスナイパーライフルを双銃へと持ち替え――前衛へと踊り出る。
SORAはサポートとして二人を支えつつ、探知や周辺警戒、補助火力までを一手に引き受けていた。
ZERO:NEの戦術は、まるで機械のように正確で、どこまでも人間らしく強かった。
そして、一チーム、また一チームと、強豪チームがその前に崩れ落ちていく。
なかでも、NE:NEの活躍は圧巻だった。
スナイパーとして名を馳せた彼女は、今、二丁の銃を手に前線を駆ける。
体勢を問わず、動きながらでも、跳びながらでも――その弾は常に、敵の急所を正確に撃ち抜いた。
華麗で、しなやかで、まるで弾幕の中を舞う蝶のよう。
誰の銃弾にもかすらず、誰よりも速く敵を沈める。その姿は、もはや戦場の異物だった。
「……なんだ、あれ……」
観客席から誰かのつぶやきが漏れる。その言葉に、心の底から頷いた。
(あんな動き、人間にできるわけがない)
ただ見ているだけで、胸が高鳴った。
またひとり、またひとりと敵が沈むたび、観戦席に人が集まり、画面の視線は彼女に集中する。
その一方で――別の画面。
静かに、だが重々しい緊張をはらんだ新たな戦いの火蓋が、今、切って落とされようとしていた。
CRIMSON CREST
×
VALGARD
×
IRIDESCENCE
ZERO:NEを除くシード枠の三チームが、ついに一か所に集結したのだ。
――残り18人(6チーム)
【シード】ZERO:NE
①タンク ・ SHUGO
②アタッカー・ NE:NE
③サポート ・ SORA
【シード】CRIMSON CREST
①アタッカー・龍鬼
②サポート ・我狼
③アタッカー・時雨
④アタッカー・騎馬
⑤スカウト ・呉羽
【シード】VALGARD
①タンク ・相田
②アタッカー・山さん
③アタッカー・ユーリク
④サポート ・ハジメ
⑤スカウト ・ハナ
【シード】IRIDESCENCE
①タンク ・スガヤ
②スカウト ・アキナ
③アタッカー・イマキ
【強豪】DARKREIGN
①タンク ・マビノ
【強豪】NOVASTRIKE
①アタッカー・ラウル
NE:NEが光るその裏で、真の強敵たちが動き始める。
観戦席が騒ぎ始めたのは、ほんの数秒後のことだった――。
次回: VORTEX ARENA - VALGARD - yama-san




