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Extended Universe   作者: ぽこ
Vortex Conflict

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57/85

VORTEX ARENA - Side:SPARKHOUND – taku -2

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


別のモニターには、ZERO:NE(ゼロワン)の姿が映し出されていた。ちょうど戦闘が始まろうとしている場面だ。

一人ひとりの動きが、まるでプログラムされたかのように正確で、まったく隙がない。

見惚れるほど美しい。だが、近寄りがたい。


(…これがシードなのか。)


IRIDESCENCEイリデセンスに続いて、ZERO:NE。

どちらも圧倒的な完成度で、「格が違う」という言葉が嫌でも頭をよぎる。

ぼんやりとその映像を眺めていたとき――


「おい、あれ!!」


アザミが叫び、指を突き出す。反射的に目線をやると、そこには信じられない光景があった。

画面の中、ZERO:NEのHAYNE(ヘイン)が――仲間に銃を向けていた。

一瞬、意味がわからなかった。全員が息を呑み、観戦室は静寂に包まれる。


モニターから響く、狂気を孕んだ叫びが耳を打った。



==


「いやー、やっぱこうでなきゃなぁ? 戦いってのはよ!

 じゃあ、よぉ……今度はもっと楽しませてくれよぉ? なぁ――お前ら!!!!」


「HAYNE!!!! お前!!!!」


「どうして!!!」


「ああ!? わかんねーのかよ!!」

==



画面の中で繰り広げられるその一幕が、心臓をわし掴みにしたように震わせる。

ZERO:NEの仲間も、周囲の観戦者も、俺たちも。全員が、ただ呆然と画面を見つめていた。


これは、本当に同じ大会の一場面なのか?

あまりにも予想外で、あまりにも現実離れしていて――まるで映画でも見ているようだった。



==

「わかんないよ……っ!

 みんな、ヘインくんが楽しめるようにって、作戦だって考えてたじゃん!

 それなのに、なんで……なんでそんなこと……!」


「おれは、つまんねぇことはしねぇ! ――それだけだ!!」


「俺は……SHUGOにも、NE:NEにも、勝てねぇ!!

 銃の腕でも、作戦の読みでも、人気でも……全部負けてんだよ!!!」

==



(HAYNEさん……そんなふうに、思っていたのか。)


俺からすれば、シード枠のチームに所属しているだけで、もう別次元の存在だった。

ZERO:NEの名を聞けば誰もが息を呑み、その動きに見惚れる。勿論HAYNEもその一人。疑う余地もない。


けれど――確かに、ZERO:NEの中でも、SHUGOとNE:NEの人気は突出していた。

動画の再生数も、SNSの話題も、ランキングも。彼らばかりが、常に最前にいた。

でも、それがHAYNEの価値を下げるわけじゃない。彼にしかないスタイルや、確かな実力に惹かれていたファンは、たくさんいたはずなのに。


それでも、彼は「負けてる」と感じていた。

その言葉が、あまりにも真っ直ぐで――あまりにも悲しかった。


==

「俺だってよ……俺だって、見せ場が欲しいんだよ!!

 ふざけたムードメーカーなんて肩書きじゃねぇ!

 本気でやってるんだよ、毎回!!!

 けど、けどよ……どうしてもお前らには勝てねぇ。

 だったらせめて、俺がいなきゃヤバいってくらいの存在に、なってやりたかっただけだ!!」


「HAYNE……」


「俺がいない方が、お前らうまくいくんだろ!?

 作戦通りに動かねぇ奴より、ちゃんと命令に従うやつの方がいいんだよなぁ!?

 チームってんなら、そうだろ!? 違ぇのかよ!!!!」

==


確かに、HAYNEはムードメーカーだと呼ばれていた。

軽口ばかり叩いて、おちゃらけて、明るく振る舞う彼に――俺も最初は、そんな印象しか持っていなかった。

でも、今の言葉を聞いてしまえば、もうそのイメージだけでは済まされない。


本気で、もがいていたんだ。誰よりも強くなりたくて。認められたくて。それでも勝てなくて。

――それでも、必要とされたいと願ってた。


確かに、HAYNEの立ち回りは突発的で、好戦的すぎる部分があるかもしれない。

だがそれを支え合って、引き立て合ってこそチームだと、俺は思う。


勝てるからじゃない。完璧だからじゃない。

それでも一緒にいたいと思える――それが、チームなんじゃないのか。



==

『…HAYNE。』


「なあ、NE:NE!! 

 お前だって、そう思ってんだろ!? 

 ――弱い俺なんて、本当に必要かよっ!!」


『馬鹿には何言っても分かんないよね。……だから、粛清は私の役目。――ねえ、死んで頭、冷やしてきなよ。』


==


無線越しに響くNE:NEの声は、どこまでも冷たくて、それでいて――どこか悲しかった。

そのまま彼女は、引き金を引いた。仲間であるHAYNEを、自らの手で撃ち抜いたのだ。


一瞬の静寂。画面越しに映るNE:NEの表情は、どこか苦しげで、そして悔しげだった。

震える拳を握りしめるその手に、彼女の迷いと決意がすべて込められているように見えた。


もし、あそこにいたのが俺だったら――撃てたのか?

あんなにも苦しんで叫ぶ仲間を、冷静に、正しく処理できたのか?

正しさを盾に、引き金を引けたのか――?


その時、誰かがぽつりとつぶやいた。


「……NE:NEさん、かっけぇな……。」


誰のものともわからないその声が、シンと静まり返った観戦室にやけに響いた。

そして気がつけば、俺の胸の奥でも同じ言葉が繰り返されていた。


(……かっこいいな。)


==

「……NE:NE、てめぇ……」

『HAYNE、あとで説教だ。覚えとけ。』

==


ばたりと倒れたHAYNEに向かって、SHUGOがそう言い放つ。

その声は――怒りよりも呆れに近かった。


まるでいたずらをした子供に言うようなその調子に、思わず驚く。裏切りだというのに。味方を撃ったというのに。

けれど、そうか。これが――ZERO:NEなんだ。


誰かがブレても、壊さず、切らず。どんな状況でも、立て直すことを選ぶ。

そしてきっと、試合が終わった後は、何事もなかったように次の一幕を始めるのだ。

思わず、くすりと笑みが漏れそうになった――その瞬間。


「くっそ!!NE:NEのやつ!!どっから撃ってきやがった!!」


突然、背後から飛んできたその声に、肩がビクリと跳ねる。


横を見ると、いつの間にかHAYNEが隣に立っていた。

さっきまでモニターの中で撃たれていたはずの彼が、今はもうこちら側にいて、……しかも、心底楽しそうにZERO:NEのモニターを見つめていた。


仮想の死から戻った彼の表情は、まるで悪ガキそのものだ。

叱られたって、嫌われたって構うもんか――そう言っているようだった。


(やっぱり、あんた……一番チームを見てるんじゃないか。)



ZERO:NEの残りのメンバーが最後の敵を倒した瞬間、モニターがNE:NEの視点に切り替わった。

彼女が潜伏しているビルの斜め向かい――屋上で何かを探す影。

それは、さっきまで我々が交戦していた残党だった。


「……何を探してる?」


思わずつぶやいたその直後、NE:NEの銃声が響き、敵のアバターが弾け飛んだ。

直後、観戦室に怒声が飛び交う。


「話がちげぇ!!」

「どこだ!? NE:NEはどこから撃ってきた!?」


先ほど退場したばかりの二人が、パニック気味にモニターを探し始める。


(――まさか、あの残党の目的は彼女だったのか…?)


「なんで、お前はそこにいる!?聞いてた話とちがうじゃねえか!!」


モニターを見上げながらそういう男たちの背後から声がかかる。


「なんだぁ、お前ら」


口角をニヤリと上げたHAYNEが肩をすくめる。


「NE:NEにしてやられたってわけか?」


男たちは即座に首を横に振る。そうして「こいつだ」と指をさした先には、先ほどまで地上で戦っていたZERO:NEのメンバーが映っていた。


「……あいつ、俺が誘ったときは、興味ないって言ってたくせによ。結局、同じようなことしてんじゃねぇか……」


唇を尖らせた彼は、つまらなそうに画面をにらみつけた。


俺の頭は混乱していた。


(…つまり、HAYNEとKAGEの二人が裏切った!?)


そのとき、モニターの中でNE:NEの銃口がKAGEを捉えた。

KAGEは両手を上げ、まるで「撃て」と言わんばかりに無抵抗の姿勢をとっていた。


その顔には驚愕と、わずかな諦めの色が混ざっていた。



==

「ほら、やれよ、NE:NE!!」


「カゲくんさ、それちょっと甘いよね。

 裏切者には――粛清、でしょ? ねぇ、ねねちー♪」


「はい、ちゅー♪」


『…KAGE、その終わり方……ダサすぎ。』

==


パン、と乾いた銃声が響く。

撃ったのはNE:NEではなかった。引き金を引いたのは、無邪気に笑うSORAだった。

愛らしく、どこかおどけた仕草。だが、そこにあったのは仲間を守るという、強い意思のように感じられる。


仲間を撃ったのはNE:NEだけでなく、自分も同様だと周囲に伝えるための言動か、それとも、SORA自身が終止符を打ちたかったのか。


(……見事なオチだな)


思わず苦笑がこぼれる。


「くそ……よりによって、SORAにやられるとは……」


「ははっ、KAGE。ざまぁねぇな」


笑うHAYNEを、KAGEは少しだけ恨めしそうに見やる。だが、その顔には後悔の色はなかった。

割り切ったように、まっすぐにZERO:NEの画面を見つめていた。


「――さて。ここからが本番だぞ。ZERO:NEは、勝てるか…?」


「当たり前だろうが! 俺たちを誰だと思ってんだ!!」


「……お前、もういないけどな」


「うるせぇ。見てろよ――ZERO:NEは、こっからでも勝てんだよ!!」


彼らの間に割って入れる者など、この場には誰もいなかった。

だが確かに。その言葉どおり、ここからのZERO:NEは――猛進撃を開始する。



SHUGOは引き続き鉄壁のタンクを担い、NE:NEはスナイパーライフルを双銃へと持ち替え――前衛へと踊り出る。

SORAはサポートとして二人を支えつつ、探知や周辺警戒、補助火力までを一手に引き受けていた。


ZERO:NEの戦術は、まるで機械のように正確で、どこまでも人間らしく強かった。

そして、一チーム、また一チームと、強豪チームがその前に崩れ落ちていく。


なかでも、NE:NEの活躍は圧巻だった。

スナイパーとして名を馳せた彼女は、今、二丁の銃を手に前線を駆ける。

体勢を問わず、動きながらでも、跳びながらでも――その弾は常に、敵の急所を正確に撃ち抜いた。


華麗で、しなやかで、まるで弾幕の中を舞う蝶のよう。

誰の銃弾にもかすらず、誰よりも速く敵を沈める。その姿は、もはや戦場の異物だった。


「……なんだ、あれ……」


観客席から誰かのつぶやきが漏れる。その言葉に、心の底から頷いた。


(あんな動き、人間にできるわけがない)


ただ見ているだけで、胸が高鳴った。

またひとり、またひとりと敵が沈むたび、観戦席に人が集まり、画面の視線は彼女に集中する。


その一方で――別の画面。

静かに、だが重々しい緊張をはらんだ新たな戦いの火蓋が、今、切って落とされようとしていた。



CRIMSON(クリムゾン) CREST(クレスト)

×

VALGARDヴァルガルド

×

IRIDESCENCEイリデセンス



ZERO:NEを除くシード枠の三チームが、ついに一か所に集結したのだ。



――残り18人(6チーム)


【シード】ZERO:NE(ゼロワン)

①タンク  ・ SHUGO

②アタッカー・ NE:NE

③サポート ・ SORA


【シード】CRIMSON(クリムゾン) CREST(クレスト)

①アタッカー・龍鬼りゅうき

②サポート ・我狼がろう

③アタッカー・時雨しぐれ

④アタッカー・騎馬きば 

⑤スカウト ・呉羽くれは


【シード】VALGARDヴァルガルド

①タンク  ・相田

②アタッカー・山さん

③アタッカー・ユーリク

④サポート ・ハジメ

⑤スカウト ・ハナ


【シード】IRIDESCENCEイリデセンス

①タンク  ・スガヤ

②スカウト ・アキナ

③アタッカー・イマキ


【強豪】DARKREIGNダークレイン

①タンク  ・マビノ


【強豪】NOVASTRIKEノヴァストライク

①アタッカー・ラウル



NE:NEが光るその裏で、真の強敵たちが動き始める。

観戦席が騒ぎ始めたのは、ほんの数秒後のことだった――。


次回: VORTEX ARENA - VALGARD - yama-san

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