VORTEX ARENA - Breakpoint
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SHUGO:『KAGE、敵は?』
KAGE:『見えないな。恐らく撤退したのだろう。』
SHUGO:『了解。なら深追いは止そう。ポイント7へ戻るぞ』
SORA / KAGE:『了解』
ノイズ交じりの無線のやり取りを、屋上から聞いていたNE:NEは、彼らがいると思われる方向へスコープを向けていた。
(まだ見えないな……)
すでにHAYNEはポイント7に到着し、潜伏した状態で残りのメンバーを待っている。それを援護するために、上から見守っているのがNE:NEである。
あとは、IRIDESCENCEの残りのメンバーを追っていた3人が到着すればいい。合流後は、おそらくこのあたりを一時拠点として動くだろう。そのためにも、周囲の状況を確認しておく必要がある。
NE:NEには索敵スキルはないが、ビルの屋上からスコープを覗き込み、地道に警戒を続けていた。
SHUGO:『NE:NE、そっちの状況は?』
NE:NE:『ポイント7でHAYNEが潜伏中。周囲に敵影なし。』
SHUGO:『了解。急ごう。』
その無線のやり取りから数分後、彼らは合流地点へと到着した。一度、索敵スキルで周囲を確認し、フィールドの収縮をみてから行動を考えることになった。
『Vortex Conflict (ヴォルコン)』では、フィールドに降り立った後、数回にわたってエリアが収縮していく。
元々が広大なマップであるため、プレイヤー同士の接敵が起きずに時間を浪費することを避けると同時に、フィールド端に潜伏しているだけのプレイを防ぐための設計だ。
収縮のタイミングは完全にランダム。通知が表示されるタイミングすら明確ではない。だが、このゲームを何度もプレイしている者であれば、「そろそろ来る」という肌感覚が養われてくる。
もちろん、その感覚が外れることもある。だが、それでもこの収縮を確認する行為は極めて重要だ。
次にどこを目指すか、どう動くか、全てがその一手にかかっているのだから。
SORA:『表示された。収縮まで、あと1分』
無線の声を受けて、NE:NEもすぐさまシステム画面を確認すれば、確かに、画面の片隅で赤いカウントダウンが始まっていた。
このタイマーがゼロになると同時に、新たな安全エリアがマップ上に表示される。それまでに準備を整え、移動を開始しなければならない。リミットはきっかり3分だ。
もちろん、収縮の範囲は完全ランダム。だからこそ、安全エリアの「中心」に近い位置は人気が集中する。次の収縮でも有利になる可能性が高いため、プレイヤー同士の接敵リスクも比例して高まるのだ。
逆に、安全エリアの端ギリギリを狙って潜伏するという手もある。だが、予想が外れれば、その時点でゲームオーバーに等しい。稀に、スキルを使用して難をしのげる場合もあるが、しかし、成功率は低く、さらに次の戦闘に大きな影響を与える。まさに命懸けの賭けだ。
(3、2、1、……0)
タイマーがゼロになった瞬間、マップに新たな安全エリアの境界線が表示された。
NE:NEはそれを確認すると、わずかに肩の力を抜く。
――ポイント7付近は、エリア内に入っている。
中央ではないが、無理に動く必要はなさそうだ。それなら、こちらに近づいてくる敵を迎え撃つだけでいい。
SHUGO:『NE:NE、敵を見つけ次第、情報を頼む。』
NE:NE:『了解』
彼も同じ考えなのだと理解しながら、NE:NEはスコープ越しに周囲を注意深く観察する。
大まかな索敵であれば、スキル持ちのKAGEやSORAが先に見つけてくれるだろう。しかし、このゲームにおいて索敵スキルがすべてではないことは、誰よりもNE:NEが理解していた。
スナイパーや潜伏型の職業にとって、索敵スキルを回避する能力はほぼ必須。
それを持っていなければ、一方的に見つかって排除されてしまう。実際、索敵回避系のスキルはいくつか存在しており、NE:NE自身も当然、それを付けている。
このゲームでは、武器1種につき最大3つのスキルが装着可能。
たとえばスナイパーなら、「精密度上昇」「ステルス」「射程拡張」「索敵」などのスキルが人気だ。
もちろん、スキル構成はプレイヤーのプレイスタイル次第。だからこそ個性が出るし、対策も読み合いも楽しい。
それが、このゲーム『VORTEX CONFLICT』が支持されている大きな理由の一つだった。
KAGE:『ポイント6・B方面に敵発見。』
NE:NEはすぐにスコープを移し、その方向を確認する。すると、5人編成の敵小隊が安全圏を目指して移動しているのが見えた。
恐らく、フィールドの収縮に合わせて移動してきたのだろう。しかし、この地点から本隊が直接叩くには、あまりにも距離がある。
NE:NEは、彼らの進行方向と周囲の地形を照らし合わせ、どこで迎撃できるかを即座に計算する。
(――見つけた。あそこなら…)
NE:NE:『目視確認。敵は5人。ポイント7・X地点の交差点で待ち伏せが可能。』
SHUGO:『了解。本隊は交差点付近で潜伏に入る。NE:NEは上から援護を頼む。』
NE:NE:『了解。KAGE、1分後にステルスオンで。』
KAGE:『了解。全員、交差点から動くな。スキル範囲から外れるぞ。』
SHUGO / SORA / HAYNE:『了解』
KAGEの持つステルススキルは、一定範囲内の味方を索敵スキルから隠すことができる。
発動中は、範囲内の味方全員がレーダーや感知スキルに映らなくなるため、待ち伏せや奇襲の際に非常に重宝する。
NE:NEはスコープ越しに敵の動きを確認しつつ、進行方向が逸れないかを見定めていた。
もし予想外の動きを見せた場合は、射撃で誘導し、予定通り交差点へと導くつもりでいる。
(うん、いい感じ。そのまま真っすぐ来てね~……)
NE:NE:『約30秒後に交差点へ進入。初撃はSHUGO。』
SHUGO:『了解』
作戦はこうだ。タンクのSHUGOが先手を切り、背後から高火力のHAYNEが追撃。それに続いて、KAGEが精密な射撃で火力を重ねる。
SORAは近距離から全体を支援するポジションにつく。
やがて、敵小隊がゆっくりと交差点に近づき始め、NE:NEの死のカウントダウンが始まった。
NE:NE:『5、4、3、2、1……』
敵が交差点に侵入し、周囲を警戒し始めた。おそらく索敵スキルも使用しているだろうが、KAGEのステルススキルによって気付かれていない。
――完璧な布陣、完璧な奇襲。……のはずだった。
「うおおおおりゃああああ!!」
突如、作戦をぶち壊すような雄叫びが響いた。
誰よりも早く動いたのはHAYNE。遮蔽代わりの看板から飛び出し、一直線に敵陣へ突っ込む。銃を乱射しながら、爆走するその姿に――
「この、馬鹿!!」
慌ててタンクのSHUGOも飛び出す。
タンクとして敵の注意を引き付けるのは彼の役割。だが、HAYNEが先に出たことで、そのタイミングは完全に狂ってしまった。
作戦通りやれよと心の中で愚痴をこぼしながら、SHUGOはHAYNEとともに前線に飛び出し、敵に向けて銃撃を開始した。
HAYNEの雄叫びに反応して、敵もすぐさま反撃に移る。
飛んできた弾がSHUGOの肩をかすめたが、タンクスキルが発動していたため、ダメージは最小限に抑えられた。
さらに、すぐ後方からSORAのサポートが入る。体力も問題なく保てている。
敵の一人が戦線を離脱し、大きく後方に跳びながら銃を構えた。それをNE:NEが屋上から撃ち下ろす。
サプレッサー付きの一発が肩口を捉え、敵は体勢を崩した。混乱が走る。
乱れた隊列の隙を突いて、KAGEが回り込む。素早く懐に入り、無駄のない動きで止めを刺す。
最後の一人が倒れるのを確認して、NE:NEが冷静に無線を入れた。
NE:NE:『掃討完了』
その報告を受けてすぐ、SHUGOは怒りを抑えきれず、HAYNEに詰め寄った。
「おいHAYNE、作戦通りに動けって言っただろ!なんで真っ先に突っ込むんだよ!」
「あぁ?突っ込んだ方が面白れぇからに決まってんだろうが。一方的にヤンのなんか、なんもおもしろくねぇだろーが」
まるで当然のような口ぶりに、SHUGOは大きくため息を吐く。
理解はできる。HAYNEがそういうやつだってことは最初から分かってる。けど、それでも。チームで動くときくらいは役割を果たしてほしいと、そう思ってしまう。
「……それで誰かがやられたら、どうするんだ。」
「ここにゃそんな間抜けは、いねえ!」
ぷいっと背を向けるHAYNEに、SHUGOは再びため息を吐き、そのままKAGEに視線を移す。
「……周囲に敵は?」
「見えないな。」
「そうか」と短く応じ、小さく息を吐く。その直後、無線が飛び込んできた。
NE:NE:『なにしてんの?』
NE:NEは別の場所にいるため、動きは見えても会話までは聞こえない。しかも、今のやり取りは無線を通していない。
彼女にとってHAYNEの突撃は“いつものこと”で、想定の範囲内だ。大きな被害がなかったこともあり、ことさら咎めるつもりもない。勿論、口論に発展していることも織り込み済みで、「なにしてんの?」という問いは、暗に“戦場で気を抜きすぎるなよ”という忠告を含んでいた。
SHUGO:『すまない。もう大丈夫だ』
SORA:『そそっ、いつものだから~♪』
NE:NE:『そう。とりあえず索敵だけは頼んだよ。こっちでも見てるけど、限界あるから。』
SORA:『もっちろーん♪』
遠くからも聞こえる銃声。
先ほどの交差点付近での戦闘音も、近くにいる敵には確実に届いているはずだ。そうなると、次に狙われるのは自分たちの可能性が高い。
いつ、どこから敵が現れるか分からない。いや、すでに位置を特定されている可能性すらある。だからこそ、油断はできない。注意しすぎて損することなど、戦場には存在しない。
KAGE:『周囲に敵なし。動くか?』
SHUGO:『そうだな。中央に向けて、少し位置をずらそう』
NE:NEはすぐさまマップを確認し、地形と照らし合わせながら、自身の現在地から援護可能な範囲を目測する。
NE:NE:『X地点か、ポイント8方面が良さそう』
SHUGO:『ふむ…じゃあポイント8に入っておくか。NE:NE、移動は?』
NE:NE:『大丈夫』
SHUGO:『了解。援護、頼んだ』
了解、と小さく返したNE:NEは、スコープ越しに仲間たちの姿を捉える。
裏切者が動くとすれば、それは今なのか、それとも終盤か。目を細めて注意深く観察しながら、小さくため息をついた。
(なに、してんのかな…)
仲間の位置を見定め、自身が援護しやすい位置へと誘導する。
先ほど戦った交差点から二つ奥、さらに斜めの位置で潜伏する自隊は、援護可能なギリギリの距離だ。
もう一本、自隊に近い場所へ移動すべきか――それとも、しばらく様子を見るべきか。
その逡巡の末、NE:NEはスナイパーライフルを抱え直す。
(やっぱり、二つ奥まで進もう。あそこなら、多分誰にもバレない)
ライフルを手に、NE:NEはぴょんぴょんと軽快に跳ね降りながら、周囲に目を光らせる。
自身だけに適用される強力なステルススキルを発動中とはいえ、接敵のリスクは常にある。
このスキルは、敵にも味方にも位置情報を一切伝えない最も強固な隠密だ。通常であれば、味方に位置が伝わらないのは不利となるが、今はむしろ都合がいい。
しかし、万が一敵と遭遇した場合、武器の切り替えは不可避となる。
その瞬間、位置情報が味方にも敵にも露見するリスクがある。慎重さを欠いてはならない。
NE:NEは、速やかにそして、限りなく静かに移動を開始した。
ビルを下り、交差点を渡り、X:1に近い建物へ。X:1方面へ向かう敵を狙える位置でありつつ、自隊への援護も可能な地点を目指し、ビルを駆け上がる。
上階の窓から仲間たちの姿を視認し、NE:NEは小さく息を吐いた。
スナイパーライフルを再び設置し、静かに構え直す。
これで、自分の位置は特定されないはずだ…。
次回:Purge -1




