待ち時間の使い方
案内所を後にしてから、通りに出ているお店を横目に中央通りを街中へと進んでいくと開けた場所に出た。そこには、中央に噴水があり住人やプレイヤーで賑わっていた。比較的にプレイヤーが多く見えるのは、ここを待ち合わせ場所にでもしているからだろうか。
さて、どうしようか。と噴水広場に設置されているベンチへと腰掛ける。
職業を設定せずにレベル上げはできない。今のうちにスキルの確認でもしておこうか。と、ふと思い出す。そういえばまだ「アカデミー」のスキルについて確認ができていなかった。
おもむろにステータス画面を開き操作する。
スキル「アカデミー」は「非戦闘エリアでの使用可」と記載されているが、今ここで使用できるのだろうか。使用ボタンを押せるか試してみたい衝動に駆られ、そのままタップする。すると身体の周りに光が纏い、視界が白一色へ変化し、眩しさが収まったかと思えば、噴水広場ではない場所に立っていた。
さて、あそこに行けばいいのかな?
戻り方もわからないため、目の前の大きな白い建物へ向かうことにした。近づけば内装も白い石材でできているようだった。
「誰かいませんかー?」
アカデミーというくらいだから、チュートリアルの進行役か、教師か、または師匠や先輩に位置する人物がいても可笑しくはないだろうと考え、声をかける。すると、奥の方からパタパタと駆けてくるような足音が聞こえて、内心ほっとした。これで誰もいないなんてことになれば脱出方法不明で詰みである。
もしかして、もう一度アカデミーのスキルを使用すれば、元の場所に戻れたりするのだろうか。と考え付いたところで、駆けてきた人物の顔が見えた。
「すみません、お待たせしました」
ポケットから取り出した青いハンカチで汗を拭いながら、困ったような笑顔を向ける男性は、長い金髪が汗で顔に張り付いていた。
「まさか、こんなにも早くここへ訪れる者がいるとは思いもせず。お迎えが遅くなり申し訳ございませんでした。」
彼の言葉に疑問を持ちつつも、ここは何なのか、どうしたら戻れるのかを訪ねると、彼は納得したように頷いた。
ここは、魔法使い専用の戦闘訓練施設、兼、魔法研究施設なのだそう。ここまではスキル詳細に書かれていたものと同じである。
そして、ここでは低レベルの戦闘方法から、戦闘の実技テストを行い基礎戦闘力を上げる目的があるのだそうだ。テストに合格するたびに新しいスキルを習得することができるというのだから、受けて損はなさそうだ。
ここは魔法の素質・才能・この道を極めたいという強い心があれば、スキルが手に入りここへ訪れることができるらしい。要するに魔法使いなどを選択したプレイヤー用の訓練施設ということだろう。もしかしたら、一部のNPCも利用している可能性はあるが。
つまり想定では、ゲーム開始後、普通であれば街の外に出て戦闘を一通り行い、満足した後に、ここへ来る。もしくは一生来ないで過ごすような場所であった、と。
まさか、チュートリアルを終え直ぐにここへ来るプレーヤーがいるとは運営も思わなかったらしい。何せゲームがリリースされてから30分も経っていないのだ。
自分の行動に少し苦笑しつつもさらに質問を続ければ、やはり、元の場所に戻るためには、もう一度スキル名を唱えれば良いらしい。
「折角ですので、実技テストを受けてみてはどうでしょうか?」
「実技テストか…。私、二十分くらいしか時間ないんですが、大丈夫ですか?」
案内所の待ち時間を思い出すと少し不安になり、訪ねてみれば、低レベルの実技テストであれば5分程で終えることができるらしい。それならばとお願いすることにした。
にこやかに了承してくれた彼は、ニヒル・サムファーというらしい。アカデミーの卒業者で今は受付や雑務を担当しながら、魔法の研究を続けているのだとか。
「ニヒルさんは、実技試験を全部クリアしたんですね。」
「ええ、普通の試験であれば時間はかかるかもしれませんが、合格できない程の難易度ではありませんから。」
にこりと微笑んだ彼は、道中、試験について細かく話してくれた。
試験はランク制度のようで、FからEDCBAと上がっていく方式らしい。これもゲームでよくある形式の為とても分かりやすい。
ランクはすべて十項目ずつあるらしく、十項目すべて合格することで次のランクに上がることができるそうだ。そしてAランクのすべての項目を合格することで一般生卒業となるらしい。また、一つの試験を合格する度にスキルが報酬としてもらえるそうなので、やりがいはあるかもしれない。
「Aランクの上はどのようなランクになるんですか?」
「Aの次に、Sがきます。Sの次はS-Ⅰ、S-Ⅱとこれも数字がⅩまで続きます。その上はXランクですね。こちらもⅠからⅩまで続きますので先は長いですね。それら全てを合格すると晴れて、特待生としての卒業となります。」
なかなかに先が長そうな実技テストである。この辺りはやりこみ要素なのかもしれない。そこまでやるかどうかは、もらえるスキル次第だが、そもそも特待生としての卒業ができるレベルまで進めるかが問題だ。
「うーん、それは、大変そうですね…。」
「大変なんてものではないですよ。実質不可能ですから。院長のお考えはわかりまんよ。」
ハハハと乾いた笑顔を向けつつ、困ったような顔をしているニヒルに、こちらも顔が引きつる。
実質不可能とはどんなレベルなのか。ユニークモンスターを倒させる気か。いや、そんなに用意はできないだろうから、高ランクのモンスターラッシュといったところだろうか。考えただけでも恐ろしい。
そんな会話をしていれば、いつの間にか目的地についたらしい。
そこは円形に吹き抜けた闘技場のような場所だった。白い石壁は数十メートルほどの高さで止まっているが、それでもかなり高い壁にぐるりと囲まれている。
「ではここで、Fランクの第一実技テストを行います。それでは前方にある的へ攻撃し全て破壊してください。」
ニヒルがそういえば、数メートル先に木造りの案山子が五体が現れた。いつの間に現れたのかと疑問に思いつつも、試験合格を目指す。
「ファイア」
一つの案山子へ向けて手を伸ばし、スキルを唱えれば、真っ直ぐに飛んでいく。それなりの速さとそれなりの威力で的に当たると、ボゥっとさらに燃え上がる。続けて五つ分すべて終えるのに三分もいらなかった。 下級魔法だからか、実力が足りないのか、流石にLv.1という攻撃魔法である。
「はい、合格です。次はFランクの第二実施テストとなりますが、続けますか?」
ニヒルの言葉にうなずくと、目の前に動く的が五つ現れる。先ほどの的が不規則に動き回っている為、中々に狙いづらい。確かに難易度は上がっている。
「ウィンド」
手を大きく振り、風の魔力を操る。魔力操作というスキルを得ているのだからもしかしたら、打ち出したスキルを操ることができるのではないかと、試してみると、先ほどのファイアの時と違い、左右へと操作することで的に当たりやすくなった。やはり、魔力操作とはこういったことが可能なスキルらしい。一つの詠唱で二つまとめて破壊すれば、魔法は威力を失い消えていく。
その後も魔法を操りつつ、五つすべて破壊すればニヒルが合格と叫ぶ。そうして次々とテストをクリアしていくと、だんだんと楽しくなって試験に夢中になっていた。だが、第五実施テストを終えた当たりでニヒルに声をかけられた。
「ナル様、そろそろお会いして20分ほど経ちますが如何なされますか?」
「あ、ありがとうございます。そろそろ職業案内所へ行かないと!戻りますね。」
いつの間にかそんなに時間がたっていたらしい。飽きさせないテスト内容につい心が躍り、がむしゃらに挑んでいた。彼が時間制限について覚えていてくれたことに感謝し、服の汚れを払う。
「テスト合格の報酬として、こちらのスキルを贈呈いたします。どうぞご活用ください。きっと今のナル様に合うスキルかと思います。」
さわやかに笑顔を向けてくれたニヒルの言葉に首を傾げつつも、彼から手渡される赤い宝玉に触れるとピロリンと小さくシステム音がなる。 どうやら新しいスキルを身に着けたらしい。しかもかなり使い勝手のよさそうなスキルに笑みをうかべた。
【アカデミー報酬】
・ファイアーランス Lv.1
・魔力操作 Lv.2
・ウィンドカッター Lv.1
・魔法威力強化 Lv.1
・ヒール Lv.1
「ニヒルさん、ありがとうございました。また来ます。」
「ええ、楽しみにしております。ナル様、どうぞお気を付けて。」
アカデミーのスキルを唱えれば、来た時と同じように光に包まれる。ニヒルへ手を振れば、彼もまた笑顔で返してくれた。そうして直ぐに視界が白一色になる。次に目を開いた時には噴水広場のベンチの近くに立っていた。
時間を確認すれば、あと2分ほどで時間である。ゆっくりと案内所へと向かえば、案内所は人で溢れており、外に長く続く行列ができていた。おそらく順番待ちの紙をもらうための列だろう。数十名ほど並んでおり、早めに紙を受け取れたことに胸をなでおろした。
列を横目に扉を開ければ、順番待ちの紙の提出を求められた。アイテム一覧から取り出し手渡せば、席が空いていたようでそのまま通される。やっと職業を設定できると心が躍った。
おまけ アカデミーとニヒル
アカデミー
創立者の魔法使いが新人育成の自身の研究を進めるために立ち上げた施設。建物やその土地に隠蔽魔法がかけられており、スキルを通さなければたどり着くことはできない。
実技テスト
一般生ランク
Fランクから始まり、FEDCBAで一般卒業
F-Ⅰ~F-Ⅹ(超簡単)、E-Ⅰ~E-Ⅹ、(簡単) D-Ⅰ~D-Ⅹ(比較的簡単)
C-Ⅰ~C-Ⅹ(普通)、 B-Ⅰ~B-Ⅹ(やや難しい)、 A-Ⅰ~A-Ⅹ(難しい)
特待生ランク
Sランクから始まり、Xで特待卒業
S-Ⅰ~S-Ⅴ(応用が必要)、 S-Ⅵ~S-Ⅹ(努力次第)、
X-Ⅰ~X-Ⅴ(無理難題)、 X-Ⅵ~X-Ⅹ(覇者)
ニヒル・サムファー 男性
種族:エルフ
金髪で長い髪を後ろに一つ、緩く纏めており肩から前へ流している。
綺麗な顔立ちをしており、優雅な立ち振る舞いは身についたもの。
アカデミーの一般卒業生で、現在は特待生として奮闘中。(S-Ⅲまで合格済)
アカデミーで働いており、入校者の手続きとCランクまでの立会人、雑務全般をこなす働き者。
研究所では、魔法の論理学の研究と細かな制御に関して研究を続けている。