VORTEX ARENA -2
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「こちらでお待ちください。立ち位置は隣の白いテープを目安に。声がかかりましたら、皆様、中へお進みください」
スタッフの案内に従い、メンバーたちはそれぞれ立ち位置の印へと視線を落とす。
会場の大スクリーン裏に設置されたVR機は、卵型の筐体式端末だ。中に入ってゲームを行うタイプであり、伝導率の違いから、ゴーグル型よりもはるかに高性能を誇っている。
その端末が、所狭しと50台も並んでいる光景は、まさに圧巻だった。残りの50台は、おそらく別室に設置されているのだろう。この会場すべてを使っても、100台すべてを並べるにはスペースが足りない。
やがてスクリーン裏で、ゆっくりとカウントダウンが始まった。ゴクリと息をのむ音すら、観客の歓声にかき消される。
スタッフの声が止んだその瞬間、プレイヤーたちは一斉に動き出した。
寧々も深く息を吸い込み、大きく深呼吸をひとつ。そして、自分が入る端末の縁をそっとなぞる。
「…よろしくね」
誰にも聞こえないほど小さなその呟きは、騒がしさの中に溶けていった。
ゆっくりと端末の中へ入り、操作パネルに手を添える。自分のアカウントを選択すると、端末の蓋が静かに閉まりはじめた。
アクリルのように透明なその蓋は、会場の照明を透過して、わずかに眩しく感じる。
自然と目を閉じ、そして――
ふと目を開けると、そこはもうVRの世界だった。
仮想空間内でも、スタッフによる誘導が始まっている。接続人数や不具合の確認など、細やかに案内が行われていく中で、いつの間にかZERO:NEのメンバーが揃っていた。
「いよいよだな」
そう言って笑うHAYNEの声は、どこか熱を帯びていた。その様子に、SORAも明るく笑って応じる。
KAGEは冷静に周囲を見渡し、SHUGOは静かに、仲間たちを見つめていた。
「ZERO:NEの皆さん、今日は我々、IRIDESCENCEが優勝をいただきますよ」
そう声高らかに宣言したのは、IRIDESCENCEのリーダー・スガヤ。
その言葉に、HAYNEの顔がわずかに歪む。またいつものように喧嘩へ発展するかと思われたその瞬間、SORAが素早くHAYNEの腕を掴み、その場から引きずるように連れて行った。
無言のまま引かれていくHAYNEは、まだ何か言いたげな顔をしているが、SORAのおかげで場が荒れずにすんだ。
(ナイス、空良)
内心で親指を立てながら、NE:NEはスガヤへと視線を向ける。するとその瞬間、彼の視線が真っ直ぐにぶつかってきて、思わず一歩後ずさった。
「NE:NEさんには、だいぶお世話になっていますからね」
その意味ありげな言葉に、寧々はすぐに思い当たる。
(ああ、前回の大会のことか。)
前回の大会――
IRIDESCENCEと出くわしたのは、よりにもよって初手だった。
「最悪」とお互いが思った瞬間、同時に、万全の状態で真正面からぶつかれる好機に胸が高鳴ったのも事実だ。そんな中で、誰よりも冷静に、そして誰よりも速く行動を起こしたのがNE:NEだった。
彼女は迷うことなく銃を抜き、まるで開戦の合図のように第一射を放つと、そのまま駆け出した。そうして撃ち合いが始まったのだ。
その結果、IRIDESCENCEは開幕から大きく崩れた。
半壊状態に追い込まれたにも関わらず、そこから持ち直し、終盤まで他チームと渡り合っていたのはさすがといえる。
だが、きっとそれを根に持っているのだろう。スガヤの視線にはそんな未練がにじんでいる。
(いや、仕方ないでしょ?あの瞬間、降下した場所が運の尽きだったのよ)
それに一発目はわざと外してやったんだから、感謝されてもいいくらいだ。
NE:NEは内心そう開き直って、スガヤに向けて柔らかく微笑む。
「うちのメンバーは、みんな優秀なので。各自の判断で動いてもらってるんです。それがうちの“らしさ”でもありますし」
SHUGOの挑発と取られても仕方のないその言葉に、スガヤはこめかみをぴくりとさせながらも、苦笑を浮かべて頷いた。
「あぁ……そうでしたね」
その笑みは、どこかひどく歪んでいた。
「ですが――今回は、ああはいきません。今回は、我々に運が向いている」
その言葉に、寧々は笑みを保ったまま、ほんのわずかに視線を細めた。
そして、言い残して去っていくスガヤを、彼のチームメンバーたちは申し訳なさそうに頭を下げながら、足早に追っていく。
IRIDESCENCEは、いつも運が悪い。
どの大会でも、必ずと言っていいほど別のシード枠か、強豪チームのすぐ隣に初期リスポーンするのだ。つまり、初手から激戦を強いられ、終盤に備える余力を削られてしまうのである。
(まぁ、運も実力のうちっていうしね)
クスリと笑みを零せば、今度はまた別のチームがやってくる。こちらもまたシード枠――CRIMSON CRESTである。
「またIRIDESCENCEには、お家芸を披露してもらいたいところだな!」
豪快に笑いながらそう口にしたのは、CRIMSON CRESTのリーダー・龍鬼。
彼の持つ高いスナイパー技術と、戦場での冷静な判断力は折り紙付きで、今日の大会においてもNE:NEの筆頭ライバルといえる存在だ。
「ZERO:NEは、戦いづらいからな。今回も手は抜けん」
そう言って笑う龍鬼だが、その目は冗談ひとつないほどに鋭い。
型に嵌らないZERO:NEの戦法は、既存の攻略セオリーを覆すものばかりで、対戦相手にとっては常に厄介な存在だ。だが、その“厄介さ”こそが、観客を熱狂させる要因でもある。
「私も一人のスナイパーとして、CRIMSON CRESTを目標にしています」
NE:NEの素直な賛辞に、同じチームのもう一人のスナイパー・時雨が肩をすくめて微笑んだ。
「貴女にそう言ってもらえるとは、光栄ですね。今大会の注目株のお一人に」
「観客の注目は、うちのリーダーに向いてますよ。それに、どのシード同士の対戦になっても――面白くなるはずです」
「はははっ! いやいや、SHUGO、NE:NE、そしてZERO:NEの連中は、みんな大注目株だ。……だからこそ、最後まで残っててくれよ?」
冗談めかして豪快に笑ったあと、龍鬼は一転、真っ直ぐに視線を送る。その眼差しは、今すぐにでもやり合いたいと告げているようだった。
メンバーたちは揃って苦笑する。その本気が、戦場で向けられるのだと思うと、ぞくりと背筋が震えた。
そうして話しているうちに、どうやら準備が整ったようだ。
スタッフの声がかかり、後方の巨大スクリーンには会場の映像が映し出される。画面には、視聴者のコメントが溢れんばかりに流れ、各チームやプレイヤーの名前が次々と現れていく。
「……やはり、ZERO:NEの文字が多いな」
どこか羨ましげに、顎を撫でながら画面を見上げる龍鬼。彼の視線がゆっくりとこちらに移る。
「先ほど、ちょうど画面に映ったからではないですか?」
そう言って有り体に返したのはSHUGOだが、すかさずCRIMSON CRESTのメンバー・騎馬が不満げに声を上げた。
「いやいや、俺たちもちゃんと映ってるんだが!?」
その言葉にタイミングを合わせたかのように、再びカメラがこちらを向き、言い合っているSHUGOとCRIMSON CRESTのメンバーの話を理解した視聴者が面白がってコメントを流し始める。
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『CRIMSON CRESTがんばれー!』
『ゼロワンとクリムゾン、めっちゃ仲いいじゃん!』
『龍鬼さんのスナイプ神技に期待!』
『騎馬くん今日も元気で何より!』
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「あー!ほら、ちゃんと流れてますよ!」
SHUGOが慌てて指差すと、全員が画面に釘付けになる。
コメントを一文字も見逃すまいと、まるで実況に参加しているかのような熱量で、彼らは視線を泳がせていく。
(『コント?』とか、『可愛いか』ってのも流れてるんだけど……)
視聴者は、この一連のやり取りすら楽しんでいるようだった。それが伝わった瞬間、ピリついていた空気に微かにぬくもりが差し、誰ともなく、ほんのわずか、肩の力が抜ける。
「さて!それではカウントダウンの後、チーム対抗・バトルロワイアルが始まりまーーす!!」
通る声の男性MCが壇上に現れ、マイクを掲げると、視聴者コメントは一気に加速した。
カウントダウンが始まると同時に、プレイヤーたちは再び集中の色を強める。息を整える者、静かに目を閉じる者、肩を回す者――それぞれが、自分だけの戦闘前を過ごしていた。
緊張と高揚が同時に膨らむ中、始まりの合図が響く。
「3・2・1―― VORTEX ARENA GAME START!!」
次回:Side:SPARKHOUND - taku
ZERO:NE
桜川 寧々 | NE:NE
村澤 柊吾 | SHUGO
蓮見 空良 | SORA
東堂 隼人 | HAYNE
烏丸 千影 | KAGE
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