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Extended Universe   作者: ぽこ
影と利益と正義の名のもとに

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38/85

崩れた前提、交わる背中-1

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


「この部屋にいるって話だよ」


シカクが、槍を手にしっかりと握りながら、静かにそう言った。

二人の前に立ちはだかるのは、これまでの岩壁や崩れかけた道とは異なる、荘厳な扉。わずかに青みを帯びた銀色の大扉には、いくつもの青白い線が神経のように走り、淡く発光していた。


ここだけ空気が違う。緊張が、じわりと肌に滲む。


nullはステータス画面を呼び出し、増えたスキルと上がった数値を一つひとつ確認する。今が、最終準備のタイミングだ。


ここまでに増えたスキルとレベルを確認し、どう戦うか頭の中で組み立てる。シカクの情報であれば、ここには「カルセドリアン・ウォッチャー」という結晶体のボスがいるらしい。

氷属性を持っているらしく雷や火属性が有効だと聞いて、それらしいアイテムやポーションも準備した。今までで一番しっかりと準備をして戦えるのだから、負けるわけにもいかない。


==

ライトニング・コード Lv.3

 属性:雷

 効果:雷の塊を発射し、着弾対象から最大10体まで連鎖ダメージ(連鎖ごとに威力減少)

 MP:25 | CT:15s


アイシクル・ストライク Lv.2

 属性:氷

 効果:氷刃3連撃、凍結値で1秒凍結

 MP:22 | CT:12s


クレイ・バインド Lv.3

 属性:土

 効果:敵に命中すると土が巻き付き、一時的に動きを封じる。幻影・流動体に有効

 MP:16 | CT:8s


クリアランス・ブリーズ Lv.1

 属性:風

 効果:自身と周囲の味方の軽〜中度の状態異常を解除。さらに状態異常耐性+15%(10秒)

 MP:18 | CT:30s


ライティング・バースト Lv.1

 属性:光

 MP:20 | CT:12s

 効果:光の力をまとった強力な光の風を前方に放ち、範囲内の敵に光属性のダメージを与える。


セラピック・ライト Lv.1

 属性:光

 MP:25 | CT:20s

 効果:指定した味方(または自身)のHPを中程度回し復状態異常を解除する光属性の回復魔法。


ルミナス・レイ Lv.1

 属性:光

 MP:18 | CT:12s

発動:光のエネルギーを凝縮し、前方の敵を貫通する光線を放ち、直線的に光属性の魔法ダメージを与える。

==



「うん、こっちは準備完了。」


nullがシカクを見上げると、ちょうど彼も画面から目を上げたところだった。視線が交わり、無言の合図を確認する。


「じゃあ、開けるぞ」


シカクの言葉に頷き、nullは杖を握りしめる。シカクが片腕で扉を押し開けると、ギギギ…と金属が擦れるような古びた音が洞窟内に響く。

開いたその先――広大な空間が現れる。壁も床も、もはや岩ではない。作られた何か。青白く発光する線が壁や天井を走り、空間全体がうっすらと輝いていた。

そして、その奥――空間の中心よりやや奥まった場所に、静かに、しかし圧倒的な存在感で“それ”はいた。


「シカク…」


声が震える。続けようとした言葉は、喉の奥で凍りついた。汗が額を伝う。

――情報と、違う。


中央にいたのは、つい先日戦ったばかりの《バイオスレイヤー》。色合いは微妙に違う。だが、それを見間違えるわけがない。


どうして…ここに?なぜあいつが、別エリアにいる?


頭が一瞬、真っ白になる。せっかく整えた準備――あの結晶体ボスに合わせた装備もスキルも、無駄になったかもしれない。

ちらりと横目で彼を見る。シカクも固まっていた。先ほどまでの戦闘で見せた冷静さは消え、目を見開いたまま動けないでいる。…自分がしっかりしなければ。そう思った。プロゲーマーとして、意地でも。


「サーチ」


==

【バイオスレイヤー【Type:Ω】】

 種別:魔導兵器型ボス | 属性:闇 / 無

 Lv:40 | HP:98000

 耐性:全属性に中耐性

 弱点:雷 光

 特性:暴走モードでステータス強化。魔力濃度によって行動パターンが変化。

 スタイル:近接強打+範囲魔法砲撃型

 状態異常:毒・炎上・沈黙無効|スタン軽減・凍結低耐性

==


「バイオスレイヤータイプΩ…?」


nullの呟きに、シカクが振り返る。


「……オメガ?」


頷いて答えると、nullのサーチ結果が共有され、敵の頭上に【Type:Ω】の表記とHPバーが表示された。数値が視界に浮かんだ瞬間、シカクは息を呑む。


「HP、九万八千……?」


声が掠れた。


「耐性もほぼ全部。弱点は雷と光…」


nullが冷静に分析する一方で、シカクの表情は驚愕から疑念へと変わっていく。


「…これ、運営の想定範囲内なのか?」


「多分、イベント用ボスってことなんじゃないかな」


嫌なボーナスってところだろうか。とはいえ、そんなこと言っていられる暇もない。そう口にする間にも、バイオスレイヤー【Type:Ω】は動き始めていた。


ビキ……ビキ……。


機械的な骨格が無理やり動かされるような、歪な音。ぎこちなく、それでもゆっくりと確実にこちらへ歩み寄ってくる。

まずは前回とどう違うのか検証するところから開始だ。


「ライトニング・コード」


nullは距離を取ったまま、先制の雷撃を放つ。紫電が直撃し、敵の四肢がバリバリと痙攣する。しかし――その電流は後方にあった巨大な水晶体へと流れ込んでいった。


「…吸われた?」


その不自然な電気の流れ方に違和感を抱いたnullは、眉をひそめると、すぐに別の魔法へ切り替える。


「アイシクル・ストライク」


放たれた氷刃は、バイオスレイヤー【Type:Ω】を掠めた後――またしても、水晶に吸い込まれた。だが、水晶自体は何の反応も示さない。ただ、淡く、静かにそこに在るだけ。


「属性吸収?いや、転送?フィールド干渉のギミックか…」


nullは状況の複雑さを悟る。攻撃が敵に通ってはいる。しかし――それは、ボス自身ではなく、“空間”が反応している。

これは、厄介だ。


「シカク――」


状況を整理して、声を掛けようと振り返れば、横を影が通り抜けた。彼も冷静さを取り戻し、ちゃんと見ていたらしい。すでに動いている。戦況を読み、敵の裏手へと走り抜けていた。しかし、それを見逃す敵でもない。ならばそれを阻止するのは自身の役目だろうと、nullは杖を向けた。


「クレイ・バインド」


土がバイオスレイヤーΩの脚部を縛り、その動きを一瞬止める。その瞬間――nullと、バイオスレイヤー【Type:Ω】の視線がぶつかった。


ギラギラと冷たく光る機械の瞳が、こちらを正確にトレースしてくる。

カシュッ…と機械的な起動音が鳴り、敵意のセンサーがnullをロックオンした。


額から流れた汗が顎を伝い、床に一滴。

空間の温度が変わった気がする。圧倒的な敵。雰囲気も、緊張も、力も――何もかもが、これまでとは違う。


…違う?――いや、違わない。

今までも、全てが“次の強敵”だった。その都度、乗り越えてきた。今回も同じだ。相手が違っても、nullは変わらない。

準備はしてきた。スキル構成も、装備も、アイテムも。準備は、裏切らない。


杖を握り直し、深く息を吸い込む。


「こっからだよ、バイオスレイヤー、…オメガさん?」


口角を二っと持ち上げ、軽口混じりに挑発する。機械相手に通じるかは知らないが、仕掛ければ反応は返ってくるだろうと、スキルを唱える。


「セラピック・ライト」


光の刃が風に舞うように放たれ、敵へと飛ぶ。その多くは背後の水晶に吸い込まれたが、一部はバイオスレイヤー【Type:Ω】の装甲をかすめ、刻印を刻む。光る刻印が焼き付いたその瞬間、nullは位置を変えながら次の詠唱に入る。


「ルミナス・レイ」


発動した光線が、真っ直ぐ刻印へと突き刺さる。背後の水晶とnullの間に立つ敵は、一瞬、苦しむように身体を縮こませた。逃げることもできない敵に、その光線が命中し、HPがごりっと削れた。


(95,620 / 98,000)


ギギギギ、と軋むような音。赤い瞳がnullにロックオンされ、鋭く焼き付けるように視線を送ってくる。その巨体が、重く、だが確実にこちらへ向かって歩き出した。


nullは素早く後方の様子を確認する。シカクは、無言で水晶に攻撃を加え続けている。動きは止まらない――頼もしい限りだ。

だが、敵が反撃してこないのが不自然だった。このダメージに、何の応答もない? 鈍い? それとも――。


「まさか…!」


思考が警鐘を鳴らした瞬間だった。


――パリーンッ!


硬質な破壊音が空間を切り裂き、反響する。敵の背後。振り返れば、シカクの攻撃によって水晶が砕けていた。光の粒がふわりと宙を舞い、空間の“気圧”が変わったような感覚がnullの肌を撫でる。


「……やばいかも。」


次の瞬間。バイオスレイヤー【Type:Ω】の外殻が、バリバリと音を立ててひび割れる。分厚い装甲がスライドし、その奥から、鈍く黒光りするコアが露出した。



次回:崩れた前提、交わる背中-2

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