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Extended Universe   作者: ぽこ
影と利益と正義の名のもとに

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37/85

戦場に咲く、備えという花 -2

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


ゆっくりと歩きながら洞窟内を見回す。

中は思ったよりも横幅があり広い。どこで敵が出てきても問題なく戦えそうだ。特に、シカクが。彼の武器は槍だからある程度幅のない場所での戦闘は不向きだ。


注意しながら進めば最初の敵が姿を現した。


「サーチ」


==

【ラヴァ・グロットル】×5体

 種別:岩殻魔獣 | 属性:火 / 土

 Lv. 25 | HP:4000

 耐性:物理耐性↑ | 弱点:水属性 +50%

 特性:鈍足だが重装甲。炎上を伴う範囲攻撃に注意。

 戦闘スタイル:近接・範囲型

 状態異常:炎上付与あり / 睡眠・鈍足に高耐性

 行動習性:単独行動 / 敵対即反応型

 ドロップ:溶岩の核、燃え尽きた鉱塊、グロットルの鱗板

 出現地:洞窟深部(火山岩層)

==


(…ん? 表示項目、増えてる…?)


いつの間にか、サーチのスキルレベルが上がっていたらしい。

ステータスポイントは振っていたが、魔法の詳細はあまり確認していなかったなと、ひとり反省する。そうしている間に、目の前ではシカクがさっそく戦闘に入っていた。


nullは邪魔にならないよう距離を取り、杖を構える。


「アイシクル・ストライク」


杖の先から、鋭い氷の槍が空気を裂いて放たれる。三つの刃が、一体のラヴァ・グロットルへ命中し、当たったところから凍り付く。動きが鈍った所にシカクが留め撃ちをしている所へ別の個体が彼へと攻撃を繰り出した。

その瞬間――別の個体が彼へと襲いかかる。


「ストーンシールド」


土の魔法陣が一瞬で展開され、盾のような土壁がシカクの前に出現する。直後、ドンッと鈍い衝撃音が響き、土壁が派手にひび割れ、崩れながらもその一撃を受け止めた。


「助かった」


シカクはすぐに態勢を立て直し、足元から水流を巻き上げる。


「――水龍(すいりゅう)潮流(ちょうりゅう)!」


洞窟内に響く水の咆哮。龍の形をした水の渦が、敵を飲み込むように前方へと走る。その一瞬を見逃さず、nullが魔力を走らせた。


「ライトニング・コード」


杖先から伸びた雷撃は、水に濡れた敵の身体に吸い込まれるように命中し、水面を伝って連鎖する。バチバチと音を立てて次々と敵を貫き、あっという間に全てを薙ぎ倒した。


「…いい連携だな」


シカクの言葉に、nullは小さく微笑んだ。



進めば進むほど、モンスターの数も質も増していく。

洞窟内部にはいくつか分かれ道もあったが、シカクが事前に収集していた情報と、サーチの結果から奥に隠しアイテムもなさそうなので、二人は真っ直ぐ最奥を目指していた。


戦闘後、何度か響くシステム音――。

nullとシカク、それぞれにステータス更新の通知が入るたび、二人は無言でポイントを振り分け、再び歩き出した。


nullよりも数度多く響いていたシカクのシステム音からするにnullよりも経験値効率はよさそうだ。


このゲームのパーティUIは各自のレベルまでは表示されていない。

プレイヤー個々の設定により、非公開設定が可能のためである。

nullはシカクのレベルは分からないが、恐らく自身より多少低いのだろうと気が付くのにそれほど時間はかからなかった。


まだまだ序盤で、リリースからそれ程時間も経っていない。ましてや基本ソロで活動しているnullが現在30Lvである。

これが進んでいるのか、どうかは不明だが、効率的にチームで動いていれば、それ以上のレベルを有しているプレイヤーも少なからずいるだろう。

そう考えれば、シカクはそこまで戦闘経験がないのかもしれない。この最奥に鎮座しているだろう“何か”とどう戦うか。どう連携していくかを考えながら先頭の彼をサポートしていた。


「サーチ」


==

【バサルト・スケイル】×7体

 種別:硬鱗爬虫 | 属性:物理 / 風

 Lv. 24 | HP:2300

 耐性:物理耐性↑ | 弱点:雷属性 +50%

 特性:俊敏な挟撃型。風刃と機動戦に注意。

 戦闘スタイル:近接・回避型

 状態異常:凍結に弱い / 出血・毒は通常耐性

 行動習性:群れ行動 / 連携・包囲戦を好む

 ドロップ:風牙の鱗片、切断された尾膜、スケイルの薄皮

 出現地:断層洞・岩盤層

==


動きの速さと回避力、そして連携か…。真っ向から受けるのは、少し厄介かもしれない。


「バサルト・スケイル7体。弱点は、雷・凍結。」


「了解」


結果を伝えれば、小さく頷いてシカクは槍を構える。nullはすかさず、後方から支援魔法を発動した。


「グラビティ・ボム、クレイ・バインド」


敵の足元に黒い重力魔法のエリアが展開される。その範囲に踏み込んだバサルト・スケイルたちは、動きが一気に鈍化し、バランスを崩すような動作を見せた。

回避した個体には、次の瞬間、土魔法による拘束が絡みつく。そこへシカクの槍が、タイミングを逃さずに突き刺さる。

nullもまだ使い慣れていない「ライトニング・コード」を唱える。若干の軌道のズレに焦りながらも、雷は確実に獲物を捕らえた。

稲妻が迸り、水を得たように連鎖する。動きの止まった敵たちに雷撃が次々と伝わり、あっと言う間に片付いた。

素早いとはいえ、サポートできるスキルがあり、且つ二人での戦闘であれば問題なく倒せることが分かった。


お互いからピロリンッという小さなシステム音が響き、またステータスを確認する。ボス戦までに少しでもレベルもスキルも上げておきたいところだ。


「すごい戦いやすい…」


小さく漏れたシカクの声に気づいて、nullはちらりと目を向けた。彼はすでにステータス画面から目を離し、槍を手に軽く動かしている。指に力を込めながら、どこか納得できないように首を傾げていた。


「それなら、よかった」


クスリと笑いながら揶揄う様に返すと、シカクは小さく眉を上げてこちらを見た。少し恥ずかしそうな、けれど真剣な表情で、彼は尋ねてくる。


「ソロ…なんだよな?」


疑わしそうなその顔を見て、nullは苦笑する。


「うん、ここではソロ。」


「にしては、連携がうまいよな?」


「魔法職やってるんだから、連携できないとまずいでしょ」


そういって笑えば、シカクは「それもそうか」とぼやいて肩をすくめた。


「こうして一緒に戦ってると、実力の差が如実に出るな」


「そう?やっぱり前衛がいるってだけで私もやりやすいけどな。敵のヘイト管理とか、ほとんどしなくていいのが楽だよね」


「…そうか、ソロ魔法使いだと、ヘイト管理が難しそうだな。いつもどうしてるんだ?」


少し考えたあと、nullは肩を竦める。


「どうって…逃げながら、攻撃?」


正確には、スキルで自分を強化し、相手を弱体化し、動き回りながら隙を見て攻撃を重ねる。シンプルだが、それで基本何とかなる。

そう伝えると、シカクはわずかに顔を歪めた。


「いや、それ言うのは簡単だけど…」


「回避魔法職って人気ないよね」


「できる人が限られてるからな」


ため息を吐くシカクに苦笑して、「それほど難しいことはしていないのに」と心の中で小さく反抗した。どうせ言っても、理解されない。そう思って、意識を再び前へと向ける。


そのときだった。


キッキッキ……キュイッ。

小さく高い、しかし不快な鳴き声が響く。


そして――バサバサバサッ……!

幾重にも重なり合う羽音が、壁面に反響しながら近づいてくる。


「サーチ」


==

【ダークモール・バット】×20体

 種別:闇翼獣 | 属性:闇 / 無

 Lv. 23 | HP:1800

 耐性:闇属性耐性↑ | 弱点:光属性 +40%

 特性:視界妨害と音波攻撃で撹乱。背後からの奇襲に注意。

 戦闘スタイル:飛行・妨害型

 状態異常:混乱・目眩付与あり / 毒にやや耐性

 行動習性:群れ行動 / 暗所で待機し奇襲を好む

 ドロップ:黒翼の羽根、鋭音核、モールの牙

 出現地:中層・暗黒区画

==


「ダークモール・バット、20体!?えっと、弱点は――」


言葉が終わる前に、闇の羽音が一斉に押し寄せてきた。洞窟の天井が割れたかのように、黒い影が空を覆い尽くす。どうやら敵は数で押し切るつもりらしい。


「光輝の盾、

シャドウ・マント!」


nullは咄嗟に杖を振るい、自身とシカクの周囲に光の防壁を展開した。一体、また一体と襲い来るダークモール・バット。高速で飛来する爪と牙を、光のバリアが弾いた。


フォース・シールドの耐久値が目に見えて削れていく。

nullはすぐに判断を切り替え、ボス戦用の防御を温存するために「シャドウ・マント」で姿を消す。同時に、「光輝の盾」をシカクに付与し、彼のHPを守る態勢へ。


敵の視線が散った瞬間、nullは杖を構え――


「ライトニング・コード」


敵がnullの姿を見失っている隙にダークモール・バットへ「ライトニング・コード」を放てば、その紫電はパーティメンバーのシカクだけを避けて敵から敵へと走り抜ける。数体のバットが麻痺し、羽を震わせながら地面へと落ちた。

続けて、「ウィンドカッター」「マナ・フレア」を使い、削り切れていない敵へ追撃する。敵がポトリ、ポトリと音を立ててアイテム化していく。


視線を移せば、シカクのまわりにもまだ数体のバットがいた。数体のダークモール・バットが羽を素早く動かしているが、一体ずつ的確に攻撃を入れて倒しているようだ。とはいえ若干不利かと、彼の方向へ魔法を放つ。


「ヒール、

クレイ・バインド」


土の拘束魔法が一気に数体を絡め取り、シカクの足元へと落とす。シカクは迷いなく、そこへ連撃を叩き込んだ。だが、まだ羽音は止まない。nullは最後の仕上げに、杖を大きく振り上げる。


「ライティング・バースト、

ルミナス・レイ!」


光の風刃が敵を切り裂き、命中した個体に輝く刻印が浮かぶ。その瞬間、眩い光線が放たれ、刻印のついた敵を貫通し、次々と後方のバットへと連鎖。

空気を裂く閃光とともに、敵が一斉に消え、空に光の尾が残った。ドロップアイテムだけが静かに地面に落ちていく。


「おお、初めて使ったけど、いいスキル!」


nullは目を輝かせ、満足げに声を上げる。その横で、最後の一体を仕留めたシカクは、思い切り顔を顰めていた――。


「ナルさん、俺を劣りにしたな?」


「んー?」


nullはシステム画面に目を落としたまま、どこか気の抜けた声で返す。上がったステータスに目を通しながら、いつもの様にINTとAGI、LUKにポイントを振り分ける。鼻歌まじりのその動作は、図星を突かれてもまったく気にしていない様子である。


「おーい」


シカクがなおも食いついてくる気配に目を向ければ、これでもかと言わんばかりに眉間を寄せている。…が、nullには彼が本気で怒っていないことが分かっていた。それを理解したうえで正論パンチを繰り出した。


「それが前衛の仕事でしょ。出だしが遅いから私がスキルを使ったんだけどなー?」


さらっと揶揄うように返すと、「ぐぅ…」と悔しそうな声を漏らして目を逸らす。


実際、前衛職はヘイトを受け持ち、後衛の動きやすさを担保する役目がある。魔法職のnullが前線で立て直しの役を引き受けたのは、状況判断の速さと、役割意識の高さによるものだった。

それを理解しているからこそ、シカクは口では悔しがりながらも、潔く引いた。nullもそれを分かっているからこそ、揶揄いに笑いを込めて返したのだった。


「でも、後半は助かったよ。ちゃんと引き付けてくれたおかげで数を減らせた。ナイス連携」


「それはこっちのセリフな。ナルさんいなきゃここまで進めないからな」


「ん、じゃ、先へ行こうか?」


nullが軽く手を振って歩き出すと、シカクも追いかけるようにその後に続いた。




★メモ

【ラヴァ・グロットル(Lava Grottle)】

 種別:岩殻魔獣(火+土属性)

 出現地:洞窟の奥、地熱が溜まったエリア

▷ 外見:

 背丈1.8mほどの四足歩行の亀に似た姿。

 背中全体が赤黒く輝く溶岩プレートで覆われ、淡く揺らめく熱気を常に纏っている。

 足元や顎、尾には黒曜石のような棘があり、接近戦では強烈な物理反撃を持つ。

▷ 挙動・戦法:

 通常は地面の一部として擬態。接近すると突然出現し、不意打ちしてくる。

 動きは遅いが、攻撃範囲が広く、重い火属性攻撃を放つ。


【バサルト・スケイル(Basalt Scale)】

 種別:硬鱗爬虫類(物理+風)

 出現地:洞窟の中腹〜側道など狭い地形にて群れで出現(2〜4体)

▷ 外見:

 胴体の長いトカゲ型の魔物。

 灰黒色の岩のように硬い鱗に覆われており、

 背中からは鋭利な骨質の羽根のような突起が数本伸びている。

 目は金色で、薄く光を放つ。

▷ 挙動・戦法:

 群れで行動し、左右や背後から回り込む挟撃が得意。

 攻撃を避けるためのバックステップ・横飛びが速く、ヒット&アウェイ型の戦闘スタイルに。


【ダークモール・バット(Darkmaul Bat)】

 種別:飛行魔獣(闇属性+状態異常)

 出現地:洞窟の天井部が高い空間や、魔力濃度の高いゾーン

▷ 外見:

 コウモリ型の中型モンスター。翼を広げると約2m。

 体は暗紫に染まり、目は暗い赤。

 背中に魔力がこもったコアのような突起が光っている。

 近づくと音が消えるような圧を感じる。

▷ 挙動・戦法:

 常に浮遊しながら素早く移動。

 群れで襲ってくるが、ターゲットを分散し、状態異常によって分断→集中攻撃の戦法を取る。


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