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Extended Universe   作者: ぽこ
影と利益と正義の名のもとに
36/37

戦場に咲く、備えという花 -1

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


「これ、本当に道あってる~?」


もう一時間以上歩き続けているのに、モンスターの一匹も出てこない。

二人が進んでいるのは、かつて物資輸送に使われていたらしい、崩れかけた古道。


割れた石畳がところどころに残り、ぬかるんだ土の上を慎重に歩かないと足を取られる。そんな道だからこそ、地味に体力が削られていく。

道の脇には、苔むした荷台の残骸や、文字の読めない錆びた道標。どれも、長いこと誰にも使われていないことを語っていた。


…なのに、モンスターが出ない。いや、出なさすぎる。


ファスティアンでさえ、門を出てすぐにエンカウントしたというのに、ここは一時間経っても何もいない。


(…これ、絶対道間違えてない?)


ジト目で先を歩くシカクを睨みつけた。


「いや、あってるはずだけどな…」


頭を掻きながら、シカクはマップと道を何度も見比べている。その顔には、いまいち自信がなさそうな色が浮かんでいた。

一時間も歩きっぱなし。モンスターの影すら見えない。準備を整えてきたというのに、出だしからこれでは――さすがに飽きてくる。


(これじゃ、せっかくの準備も意味がない。)


ため息が出るのも、無理はなかった。

道端にある木々のざわめきと、小鳥の鳴き声が―――、あれ?

先ほどまで聞こえていた囀りが、いつの間にか止んでいる?


「――あれ?」


気づけば、小鳥の声も、虫の音も、一瞬で息を潜めたように……音が、消えていた。


「シカク」


声に緊張が混じったのを察したのか、シカクはぴたりと足を止め、不思議そうに振り返った。


「どうした?」


「多分、何か来る」


呟くようにそう告げると同時に、私は杖を握り直した。サーチ魔法を唱え、気配を探る。

空気の流れが微かに変わり、肌にざらつくような、目には見えない“何か”の波。視線を前方に向け、息をひそめた。


==

【シャドウハウル】

 HP:680 / 680

 種別:魔獣(群れで行動)

 属性:無属性(魔力感知型)

 弱点:雷・光

 耐性:風・土

 特性:幻影を残して撹乱してくる。

==


「シャドウハウル、群れで来るよ。弱点は雷と光!」


「了解」

シカクは短く返しながら、腰の武器に手をかける。


ドッドッドッ…。地面を叩く音が、土の奥から迫るように響く。まだ姿は見えない。だが、その数と気配――普通じゃない。nullは見えてきた標的に向かって魔法を放つ。


「クイック・チャージ、ライトニング・コード」


杖の先に集束する雷光。魔法陣が地面に浮かび、空気が一瞬、静電気でざらつく。次の瞬間、黒い影へと、電撃が走った。


後方からやってくるシャドウハウルにも電撃は伸びていき、次々と地に伏していく。後続のダメージが弱まったシャドウハウルはnullの前に立つシカクによって的確に処理されていく。

雷魔法は痺れも付与していたらしい。動きが鈍ったシャドウハウルに引けを取るようなシカクではなかった。


最後の一匹をシカクが倒しきると、システム音が鳴り響く。ふぅっと息を吐き、お互いの無事を確認しあった。


「ナイス!」


nullの声にシカクが苦笑する。大半を片付けた本人が、涼しい顔で笑って声をかけてくる。不思議な感覚だった。内心「nullだからな」と考えて口にするのを止めた。代わりに、「お疲れ」と声をかけて再び道を歩き出す。


「にしても、近いのかもね」


「あぁ」


少し歩けば、目の前に目的地が現れる。岩壁に空いた裂け目――まるで地面そのものが口を開けて獲物を待ち構えているようだった。シカクがそれを指さして言う。


「ほら、あった」


(根に持つタイプ…)


「はいはい」


nullは軽く頷いて応じながら、インベントリからポーションを二本取り出す。一本をシカクに押し付け、もう一本は自分で迷わず飲み干した。それを見たシカクが、手に持った瓶とnullの顔を交互に見比べる。


「これは?」


「ポーション」


「いや、見ればわかるけど、効能は?」


一度視線を逸らして、岩の奥――開かれた闇の中を指しながら、nullは言った。


「何があるか分からないから、特製のやつ作った。一応、一回は耐えられるよ」


敢えて曖昧な言い方をしたが、シカクの苦い顔を見れば、それで十分伝わったことがわかった。安堵と同時に、少しだけ心が重くなる。


守りきれないこともある。自分の身すら危うい状況で、誰かを庇えるほど器用でも、無敵でもない。

ポーション自体は偶然の産物だったが、求めた以上のモノができたのだから、使えるときに使うべきだ。作成できたのは三本。一本ずつ飲んで、残りは予備である。


「ありがとう」


真面目に返された言葉に少しの気恥ずかしさを悟られないように、小さく頷いてそのままダンジョンへ踏み込んだ。


★めも

【シャドウハウル(Shadow Howl)】

 分類:魔獣系(狼型)

 サイズ:中型犬ほど(背丈約60cm)

 色・外見:灰黒色の毛並み、瞳は月明かりのように淡く青く光る。

 生息地:魔力濃度の高い旧道沿いに多く出没。廃道や崩れた道を縄張りにする。

 特徴:群れで行動し、足音を立てずに静かに包囲する。

    知性は低いが、狩りの本能に忠実で、挟み撃ちや孤立させる動きを取る。

 行動パターン:

群れで囲い込むように動く。一体が囮になり、他が側面や背後から襲う。

魔力に反応して姿を揺らめかせ、若干の幻影(1~2秒)を発する個体もいる。

弱点:光属性、雷属性に弱い(感覚器官が鋭いため、刺激に弱い)

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