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Extended Universe   作者: ぽこ
影と利益と正義の名のもとに
33/36

刃を研ぎ、知を磨け -2

毎週、月曜日と金曜日に更新中!


「じゃあ、次をお願いします」


「はい。それでは――D-Ⅲの試験を始めましょう」


ニヒルが軽く腕を上げると、目の前の空間に淡い光膜が展開され、その内部にいくつかの的が現れた。配置されたのは、機械装置、スライム、植物体の三種類。それぞれが等間隔に並んでいる。

ただし、今回気になるのはその“空間”だ。内部を覆う光膜は、どこか不安定な揺らぎを帯びている。


「この領域は、魔力濃度が高く設定された空間です」


ニヒルの声が静かに響く。


「このような空間では、魔法の威力が増したり、逆に魔力制御が難しくなったりします。特に連続魔法の暴発にはご注意を。――ご武運を」


nullは小さく頷くと、ためらわずにその膜をくぐった。どうやら出入りは自由のようで身体にも特に何の変化も見られない。


(……なるほど、感じられないのか。)


ゆっくりと構えを整え、呟く。


「――サーチ」


==

【メカニカル・ドール】

 タイプ:無属性(機械)

 構造:金属フレーム+魔力駆動回路

 弱点:雷(+200% / 過負荷で動作停止)

 特殊反応:雷魔法で一時的に硬直 or 暴走のリスクあり


【浮遊魔導体】

 タイプ:浮遊物体 / 魔力核構造

 構造:空間魔力場で浮遊維持

 弱点:雷(+150% / 魔力攪乱により墜落)

 特殊反応:雷命中時、落下範囲攻撃を誘発することがある


【ヒート・スライム】

 タイプ:火属性 / 粘体モンスター

 構造:不定形魔力核+高熱膜

 弱点:氷(+250% / 冷却による急速硬化)

 特殊反応:氷命中時に動きが一瞬停止


【マジック・リーフ】

 タイプ:風属性 / 浮遊型植物

 構造:葉状の魔力膜。風魔法で空中遊泳

 弱点:氷(+200% / 結露→凍結→崩壊)

 特殊反応:氷命中時に動きが一瞬停止

==



サーチ結果を確認しながら、ふと彼の言葉を思い出して、小さく苦笑する。


『次の試験は、ぜひこの報酬を活かして臨んでください。――楽しみにしていますよ』


(…なるほど、そういうことか。)


どうやら、本当に“その通り”の的を用意してくれたらしい。

さて、どう対処するか――と考える間もなく、先ほどの忠告が脳裏をよぎる。


『魔法操作が難しくなる』


ならば、まずは様子を見よう。


「――ウィンド」


使い慣れた風魔法を放てば、機械の的がごうっと後方へ吹き飛ぶ。

だが、その挙動に小さな違和感が残った。軽く吹き飛んだだけのはずが、一度地面を跳ねてから、ズシンと重く落下する。


(……威力、増してる)


空間の効果か、魔力の質量が増したか。何にせよ、確かに“何か”が違う。

今度は本命――


「ライトニング・コード」


唱えると、拳大の雷球が生成され、鋭く射出される。

雷球が一体目のメカニカル・ドールに命中すると、バチッという音と共に、電撃が隣接するもう一体の機械にも伝播した。


バリバリバリッ――!


青白いスパークが弾け、金属製の躯体から灰煙が立ち昇る。

伝播した電流は確かに減衰していったが、それでも両体ともに激しく痙攣したのち、静かに崩れ落ちた。


(……強い)


納得と驚きが同時に胸を打つ。

魔法を使用して、スキル詳細に書かれていた伝播するとはこういうことかと納得する。伝播した電流は敵を伝うごとにダメージ威力は減るらしいが、それでも強力な技に違いなかった。


nullは次に、氷属性が弱点である赤いゼリー状のそれ――スライムと、浮遊する植物へと狙いを定めた。


「――アイシクル・ストライク!!」


詠唱と共に、氷の刃が三発連続で放たれる。

一発目と二発目は風に揺れる植物へ、三発目はその斜め後方に位置していたスライムへと逸れて命中した。


植物は薄く凍りつき、そのまま砕けて消える。

スライムも一瞬で氷漬けになり、ヒビが走ったかと思うと――パキン、と砕けて崩れ落ちた。


(……結果オーライ、かな)


本来は三発とも植物を狙ったつもりだったが、操作が微妙に狂った。

とはいえ、掠っただけのような一撃でも的が破壊されたということは、それだけ威力が増していた証拠だ。


(確かに、魔力の操作がしづらい……)


納得はいかないまでも、魔力濃度が高い空間ではこうした挙動になる――というのを、体感として理解できたのは収穫だった。

振り向けば、ニヒルが大きく頷く。


「はい、合格です。お見事でした」


彼はゆっくりと言葉を続けた。


「こういった“魔力濃度の高い空間”は、いくつか発見されています。たとえば――洞窟、魔物の巣、あるいは空間の歪みが生じている場所などですね。

その影響を受けた魔物たちは、通常とは比べものにならない力を発揮します。肌で感じにくくとも、“サーチスキル”を使えば判別できるでしょう。慣れてくれば、感覚でもわかるようになりますよ」


nullは静かに頷いた。


「ですが、最初のうちは――できる限り、そういった場所は避けることをおすすめします。高位の魔物が住み着いている可能性が、非常に高いですから」


警告の言葉は柔らかだったが、確かな重みがあった。


nullもまた、素直に頷き返した。

魔力の密度。それがもたらす狂い。それを制御できるようになってこそ、本物の使い手なのだろう――と、思いながら。


「それでは次の試験に参りましょうか。次は――D-Ⅳですね」


ニヒルが手を上げると、前と同じように、薄い膜で覆われた空間の中に先ほどと同じ的が現れる。配置や数も変わらない。となれば、違いはあの“膜の内側”、つまり空間そのものにあるのだろう。

nullは一歩踏み出す前に、思考を巡らせる。


(魔力濃度が“さらに濃い”か、“逆に薄い”か。試験として考えるなら、今度は後者――おそらく“魔力が薄い空間”だ)


そう仮定して、ニヒルに尋ねる。


「今度は……魔力濃度が“薄い”空間でしょうか?」


ヒルは嬉しそうに微笑み、大きく頷いた。


「ええ、よくお気づきになりました。正解です。

この空間では、魔力濃度が著しく低下しています。つまり――魔法の威力も、ぐっと落ちるんです」


そう言って、彼は少し声を潜める。


「魔法を発動しても、魔力が空中で霧散してしまうことがあります。

ですので、発動時には魔力操作で“しっかりと魔力を込める”意識が必要になりますよ。ご注意ください」


nullは軽く頷いた。

今度は“繊細なコントロール”が求められるらしい。

nullは再び膜の内側へと足を踏み入れた。前回と同じく、身体に特別な違和感はない。


「ウィンド」


慣れた風魔法を放つ。だが、術式が展開されるより早く、風がふわりと薄れて消えた。的に触れる直前で霧散するそれは、まさしく“魔力不足”の兆候――ニヒルの言葉通りだ。


(なるほど……。普通に撃っても、まるで通らない)


ならば、とnullは魔力を練り直す。


「クイック・チャージ!!、ライトニング・コード!!」


今度は魔力をしっかりと込めて、雷球を形成。

小さな球体は光を帯びながら一直線に機械へと飛び、直撃。ビリビリと音を立て、スパークが迸る。


……しかし、伝播はしなかった。


(単体にしか通らない……威力の問題? それとも、魔力制御の甘さ?)


実験不足と判断し、メモのように脳内に刻みつける。

だが幸い、クイック・チャージのおかげで次の発動までの待機時間は短く済んだ。


その間、今度は植物へ向けて魔法を放つ。


「アイシクル・ストライク」


三連の氷刃が放たれ、弧を描いて飛ぶ。

一発、二発、三発――ようやく命中した植物が凍りつき、時間差でバラバラと崩れていった。


(三発全部必要か……威力は確実に落ちてる。でも、感覚は掴めてきた)


次第に、nullの表情にわずかな手応えが浮かび始める。


「ライトニング・コード」


クールタイムが明けたのを確認し、再び雷球を放つ。

今度は空中を漂っていた機械へ直撃。ビリビリと感電しながら、軌道を失って落下――そしてバラバラと崩壊した。


(……よし。威力は出た)


ただ、今回も電撃が他へ伝播する気配はなかった。

近くに的がなかったせいか、それとも魔力の余力が足りなかったのか――原因は判然としない。


「アイシクル・ストライク」


最後に残っていたスライムへと氷の刃を放つ。

鋭く飛んだ三連撃が命中し、ヒート・スライムはきしむような音を立てて凍結――硬化し、砕けた。


魔力を強く込める感覚も、少しずつ身体に馴染んできた気がする。

知らぬままこうした空間に踏み込んでいれば、スキルが通用せず、そのまま敵に叩き潰されていた可能性もある。


(濃度が高い場所なら、なおさら命取りだ)


やはり、知識と備えがあってこその魔法である。


「はい、合格です」


試験官であるニヒルが、安心したように微笑んだ。


「魔力濃度の薄い空間では、魔法スキルが本来の力を発揮できないことがあります。

出力が弱いと、敵に届く前に術式が霧散したり、威力が著しく落ちたりするのです。

こうした状況下では、命を落とすことも珍しくありません」


nullは深く頷きながら、淡く返す。


「気づければ何とかなるとは思うけど……それでも、状況次第ですよね。

緊急時にこんな場所に出くわしたら、かなり危険…」


「まさにその通りです。

極寒の地、極端に乾燥した環境、水中など……報告があるものだけでも多岐にわたります。

お気をつけください」


ニヒルの言葉は、警告というより“願い”のようでもあった。

それを胸に刻み、nullはそっと視線を前に戻す。


「はい、ありがとうございます。じゃあ、ぱぱっと次、お願いします!」


「承知いたしました。それでは、次はD-Ⅴですね。準備いたします」


ニヒルが軽やかに応じると、目の前に五つの空間と、それぞれの中に一体ずつ的が現れた。

ここまでの流れからして、もう“仕掛け”は見えている。nullはニヒルのこれまでの言葉を思い出しながら、頭の中でぐるぐると組み立てていく。


(……もしかして、これならば。)

ある可能性が浮かんだ瞬間、ふと視線を上げると、ちょうどニヒルと目が合った。


「準備はよろしいですか?」


nullは小さく頷く。


「それでは、今からこの空間内で――一撃で的を破壊していただきます。すべての空間、一発ずつの魔法でお願いしますね」


さらりと口にするニヒルの口調には、わずかに試すような響きが混じっていた。


(これはなかなかスパルタ……)


そう思いながらも、条件が明確である以上、やるしかない。


「分かりました。この空間の中で攻撃魔法を一発で、的を破壊すればいいんですね?」


「その通りです」


ニヒルが満足げに頷いたのを見届けて、nullは大きく深呼吸をひとつ。

気持ちを切り替えて、片足を前に踏み出す。


「――それでは、開始です」


ニヒルの声とほぼ同時に、nullは静かにスキルを唱え始めた。


「ウィンド・リフレッシュ」


MPの回復量をひと目確認してから、nullは目の前の空間へと踏み込み、そのまま機械系の的と対峙した。弱点は雷。

再度MP量を確認してから、少し控えめに魔力を込め、詠唱する。


「ライトニング・コード」


放たれた雷球は、適度な出力にもかかわらず、的を確実に貫いた。破壊成功。魔力濃度が通常より高めなのか、威力は申し分ない。


小さく頷いて、次の空間へと移動する。次は、植物系の的。

MPの回復量が少ないことを確認してから、魔力を多く籠めて氷魔法を撃つ。


「アイシクル・ストライク」


鋭い氷刃が一閃。狙い通りに命中し、的は凍りついたのち、パラパラと砕け落ちる。感覚は完璧だ。

ウィンド・リフレッシュの効果が切れる前に――と、nullは迷わず残る空間へと駆けた。


属性と魔力出力を調整しながら、次々と魔法を撃ち込み、すべての的を一撃で破壊する。

最後の魔法を放ちきった瞬間、試験空間から魔力の膜がすうっと消えていった。


その向こうで、ニヒルが満足そうに頷く。


「――合格です。見事でしたよ」


nullは肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐いた。


「いや、素晴らしいです。まさか一度の挑戦で合格してしまうとは……正直、驚きました。

感覚を掴むだけでも難しい試験ですが、それ以上に魔力濃度を読み取る思考力と発想力が見事でした。」


「ありがとうございます。ニヒルさんの説明を聞いて、ふと思ったんです。

持続するMP回復量にも魔力濃度の影響があるんじゃないかって。それを試してみたかったんですけど、予想通りで安心しました。」


「成程。……ですが、もしその予想が外れていたら、どうするつもりだったんです?」


「そうですね…。攻撃魔法じゃなくて、サポート系や回復系の魔法で試してみたと思います。

あとは、攻撃しなければ判定外になると仮定して、防御魔法を使ってみたり、的に当てずに魔法を放って反応を見るとか。その辺りで判定のラインを探っていたかと。

ダメならやり直せばいいだけなので、特に気にしてはいませんでした。」


にこりと笑って返すと、ニヒルは目を細めて静かに頷いた。


アカデミーの試験という名前がついている以上、何度かの挑戦を前提としたものなのだろう。彼自身も「一度で合格するとは思っていなかった」と言っていたし、実践と経験を積むための場であるなら、なおさらだ。


「やはり、あなたは素晴らしいですね……。さて、そろそろご指定の時間が近づいてきました。本日は、ここまでとしておきましょうか」


穏やかな口調でそう告げるニヒルの手には、すでに試験報酬の赤い宝玉が握られていた。

nullがそれに触れると、いつものシステム音が静かに耳に届いた。



==

【アカデミー報酬スキル一覧】

 ・クリアランス・ブリーズ Lv.1

  効果:自身と周囲の味方の軽〜中度の状態異常を解除。さらに状態異常耐性+15%(10秒)

  MP:18 | CT:30秒

==



「状態異常回復のスキルですか、ありがたいです!」


「ええ。今回のような魔力濃度の高い場所では、状態異常攻撃を仕掛けてくる敵も多いですから。

迎撃にも、退避にも、活躍の場は広いと思います。

もちろんポーションでも対応できますが、魔法使いなら一種類くらいは備えておいた方がいいでしょう。」


「ありがとうございます」


にこりと微笑んで、nullはその場でニヒルに別れを告げる。


帰り際、彼が「またすぐにでも来てくださいね」と何か観察対象に向ける様な目をしていたように見えたのは…、気のせいだと思いたい。


さて、と時間を確認する。

待ち合わせまでは、あと数分。ある程度の準備は整っているが――さてどうしようか。


★メモ【アカデミー報酬スキル一覧】


==

【アカデミー報酬スキル一覧】

・ライトニング・コード Lv.1

 効果:雷の塊を発射し、着弾対象から最大10体まで連鎖ダメージ(連鎖ごとに威力減少)

 MP:25 | CT:15秒


・アイシクル・ストライク Lv.1

 効果:氷刃を3連発。命中ごとに凍結値が蓄積し、最大で1秒間の凍結状態を付与

 MP:22 | CT:12秒


・クレイ・バインド Lv.1

 効果:敵に命中すると土が巻き付き、一時的に動きを封じる。幻影・流動体に有効

 MP:16 | CT:8秒


・クリアランス・ブリーズ Lv.1

 効果:自身と周囲の味方の軽〜中度の状態異常を解除。さらに状態異常耐性+15%(10秒)

 MP:18 | CT:30秒

==


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