記録庫に眠る影-2
金曜日更新できなくてすみませんでした。
予約忘れていました。
お詫びとして、二話連続投稿いたします。
今回もまだ調査パートですので、ゆるめにお読みください~!
二人が奥の扉を開けると、そこには古びたコンソール端末と、乱雑に積まれたファイル群、封印されたキャビネットが並ぶ――時代の狭間に置き去りにされたようなラボが広がっていた。
空気はひんやりと澱んでおり、ほこりにまみれた机の上で、唯一動作している旧型端末だけが、かすかな機械音を立てている。
先ほどの部屋とは違い、この部屋の照明はかろうじて生きているようだった。だが、光量は不安定で、照明はときおり明滅していた。
「……こっちは、まだ現役ってこと?」
nullの呟きに、シカクは応えず、すぐに探索に取りかかる。目についたキャビネットやデスクの引き出しを一つずつ開けながら、慎重に中身を確かめているようだった。
nullも彼の動きを横目に見ながら、いつものように魔法を唱える。
「サーチ」
淡い魔力の波が空間を走り、周囲に潜む“反応”を次々と浮かび上がらせていく。
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【第二区画】保管管理ラボ
【鍵付きデスクの引き出し】(開錠済)
鍵が付いたままのデスク。最近使用された痕跡あり
「旧型金庫の設計図」:貨幣保管庫の構造を記した図面。
「貨幣流通実験ログ」:エルゼル金貨の流出ルートとタイムスタンプ記録。
【手書きのメモ(旧型端末の裏側)】
誤って消されたログが端末の裏配線に残されている手書きのメモ。
【金庫転送ルートの“断裂座標”の痕跡(天井)】
天井の一部に淡く光る“軌道線”。
→ 何かが空間転送された座標と思われる。外部空間へ転送された可能性。
【旧型管理端末】
「倉庫管理コード」の取得が可能。
エルゼル金貨の識別番号の参照が可能。
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nullはサーチ結果を確認しながら、まずは最も近くにある鍵付きのデスクへと歩を進めた。
引き出しには鍵が刺さったままになっており、どうやら管理者の閉じ忘れか、あるいは何かの拍子でそのままになっていたのだろう。
「ラッキー、ってことでいいかな」
そう呟きながら引き出しを開けると、二つの資料が丁寧に収められていた。
ざっと目を通すと、どちらもエルゼル金貨に関わる内容であることがすぐにわかる。
ひとつは――旧型金庫室の設計図。
そしてもうひとつは――金貨の流出追跡ログ。
識別番号と照らし合わせることで、金貨がどの保管庫に搬入され、どこから市場に流れたのかを追跡できるようになっていた。
(……この二つは、シカクが扱っている端末と合わせて調べたほうがよさそう)
そう判断したnullは、資料を手に持ち、旧型端末に向かって操作を続けているシカクの元へと歩み寄る。
軽く内容を説明しながら、資料と、ついでに自身が持っていた例の金貨も手渡した。
「――ということで、これ。端末で識別番号、調べてみてくれる?」
「了解。部屋の探索は任せた」
シカクは短くそう返すと、素早く端末の画面に向き直った。慣れた手つきでキーボードを叩くその姿を見て、nullはふと立ち止まる。
(こういう端末に強い人がいてくれて本当に助かる…でも、これが“巻き込まれた”結果だと思うと、少し複雑ではあるか…。)
口には出さないが、そんな思いが頭をよぎる。
なぜなら、サーチ魔法の結果だけでも、まだ調べなければならない箇所が山ほど残っているのだから。
サーチ魔法は万能ではない。
スキルレベルやLUCK値、さらには使用時の集中度によって、探知結果が変動することもある。
特定のアイテムをピンポイントで狙えば精度は上がるが、部屋全体のような広範囲サーチでは、精度も深度も甘くなる。
つまり――「サーチに反応しなかった=何もない」ではない。
その“限界”を理解した上で、サーチ結果を頼りにするしかないのだ。
(まったく……これ、一人だったらもうちょっと適当にやってたんだけどね)
苦笑しながらも、任されたからには手を抜くわけにはいかない。適当な調査で、あとから「見落としてた」などとは絶対に言いたくない。
nullは肩を軽く回すと、次の探索箇所へと足を向けた。
できれば、すべてサーチ魔法に引っかかっていてくれますように――。
心の中で、そう小さく祈りながら。
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探索の結果としては――率直に言って、大きな収穫はなかった。
とりわけ注目していた【金庫転送ルートの“断裂座標”の痕跡(天井)】に関しては、目視できるのはただの“おかしな亀裂”、としか言いようがない。
もしサーチ結果がなければ、それが空間転移に関わる痕跡だとすら認識できなかっただろう。
つまり、「異常がある」とわかっても、それ以上の情報は掘り起こせなかった。
これ以上の追及は現時点では無意味だと判断し、nullは早々に切り上げた。
その後、旧型端末の裏配線付近をチェックしていると、手書きの小さなメモを発見する。
【コード:ZC-216 消失確認。位置の特定と報告を最優先に】
走り書きで端的に書かれたその内容から察するに、これは消失した何か――おそらく金庫そのものについての報告メモだったのだろう。
なぜ、そんな重要そうなメモが端末の裏に貼り付いたように残されていたのかは謎のままだ。
落ちた紙が裏に張り付いてしまったのか。あるいは誰かが意図的に隠したのか。
(まぁ……見つけられたのは運が良かったと思っておこう)
nullは自分にそう言い聞かせて、他の棚や装置も一通り調べて回った。だが、それ以上に“引っかかるもの”はなかった。
一息ついたnullは、調査を続けるシカクの背中をぼんやりと眺める。
端末操作に集中するその様子は、どこか現実のオフィスワーカーのようでもあった。
(……さて。次に進む準備、整いそうかな?)
小さくつぶやいて、視線を机上のデータ群へ戻した。




