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Extended Universe   作者: ぽこ
最初の街 - ファスティアン -
14/27

素材と調合と実験


移動した覚えのないベッドで目を覚ました寧々は、薄暗くなった部屋を見て、寝すぎたことを理解した。いつも置いてあるはずの位置に無いケータイを探して、リビングまで移動すれば、置手紙のすぐそばに、それはあった。


【起きたら連絡するように。柊吾】


用意周到というべきか、良き理解者というべきか、逡巡した後に後回しにする。とりあえず着替えよう。そう思い至ってからの行動は早い。


動きやすいスウェットに腕を通し、携帯と同期しているイヤホン型の端末をつけて外へ出る。ランニングがてら、電話をかける。

小さな電子音の後に聞きなれた声がする。その声が少しだけ甘みを帯びている為、恐らく疲れているのだろうことを悟った。


『あ~、寧々起きたか?』


「うん、要件は?」


『ん、お前走ってんの?』


「そう、運動不足はゲームの動きを悪くする。」


VR型のゲームが発売されてから、アバターの動きが実際の運動神経や、体の動かし方に影響される。というのは、数十年前から浸透している話だ。そのため、ゲーマーは運動せざるを得ないと、アスリート並みの運動量を熟すものまでいる。寧々はどちらかと言えば、多少身体を動かし、筋力を鍛える。いや、維持する程度の運動量でいいと考えていた。


小一時間程、走ったり歩いたりしながら、柊吾の考えた作戦とやらを聞き、意見を述べては作戦の立て直しを行っていた。


そろそろいいか、とランニングに飽きた寧々は、帰路につく。その間は歩きである。

FPSのゲームは向いていないから、やりたくないと駄々を捏ねれば、柊吾は懇々と諭してくる。そんなお小言を聞きながら、自宅の扉を開き、シャワーを浴びるからと一方的に電話を切った。


あぁ、めんどくさい。


帰宅途中でコンビニへ寄り、明日の朝分までの飲食は買い込んだ。起きてから用をすまし、運動をして、お風呂に入り、食事をして、再度トイレを済ませれば、準備は完了である。


VR機器のスイッチを入れて、目を閉じれば、そこはXUの世界。これこそが自身の世界であると満足げにゲームを起動した。



【ようこそ 桜川 寧々 様】

【ゲームを再開しますか? YES / NO】

【再開場所を選択してください。 ファスティアンの宿屋 / 始まりの塔(3000G) / ファスティアン噴水広場(3000G)】


迷わず「ファスティアンの宿屋」を選択して、目を覚ます。


まずは、とそのまま「アカデミー」と唱えれば、真っ白な建物が並ぶその地に立っていた。さて、もうすでに他のプレイヤーも来ていることだろう、とアカデミーの中へ入っていく。


中には職員らしき人が受付とばかりに立っていた。試験を受けたい旨を伝えれば、以前と同じ場所へと案内される。闘技場のような場所には既に誰かが試験用の準備をしていたようで、案内人が近づいていく。よく見れば、それは知った顔で、確か名前は「ニヒル」だったはずだ。


「こんにちは、ニヒルさん」


「ようこそ、ナル様。試験を受けに来られたのですね。スキルはお役に立ちましたか?」


優雅な微笑みで、こちらへ顔を向けたニヒルは、nullを覚えているようだった。この世界で言えば既に3日か4日は経っているだろうから、彼からすれば言えば、久しいという感覚かもしれない。


「とっても!そのおかけでスキルも増やせたし、素材収集も楽になったし、最高でした!」


ニコニコで話せば、少し驚いたような表情を見せるも、すぐに元の表情に戻った。そして優雅な立ち振る舞いで試験の開始を促す。


F-Ⅲ試験では、10以上の的が不規則に動いていた。これをすべて壊せばいいらしい。


ウィンドハーベストの”サーチ”を頭の中で()()と変換して、”魔力操作”で魔法範囲を拡大させて、周囲の的をすべて一度で破壊する。


思った通りの範囲と威力が出たことに満足して次の試験。


F-Ⅳ試験では、さらに的が増えて空中にも浮かんでいた。それらを10分以内にすべて破壊すればいいらしい。これも先ほどと同じように一気にすべて破壊すれば、合格をもらえた。


F-Ⅴ~Ⅸまでの試験では、的の中に緑色のものが増え、緑以外のすべての的を壊せというものだった。

ⅥとⅦでは制限時間がなかったが、Ⅷからは制限時間が付いていた。

とはいえ、それもウィンドハーベストで、緑の的を除外するように頭の中で強く思えば問題なく突破できた。そうしている間にウィンドハーベストのスキルレベルが上がりさらに操作性が良くなったように感じる。


Fランクの試験をすべて突破すれば、ニヒルから一旦声がかかった。Fランク突破で報酬を先に渡してくれるらしい。賞賛の言葉の中に、「最短記録」なんて言葉があった気がしたが、貰ったスキルに夢中でnullは話半分で殆どが右から左へ通り抜けていっていた。


==

【アカデミー報酬 一覧】


・魔力操作   Lv.5 (+3)

・魔法威力強化 Lv.3 (+2)

・サーチ    Lv.3 (+2)


・ウィンド・リフレッシュ Lv.1 15 MP :1秒ごとに最大MPの1.5%を回復(最大10秒)

・フォース・シールド   Lv.1 :常に全属性に対するダメージ耐性を提供するバリアを展開

・クイック・チャージ   Lv.1 15 MP :一定時間、移動速度とキャスト、クールタイム、リキャスト速度が増加するバースト効果を発動。これにより、攻撃や移動が素早く行える。

==


早く新しいスキルを試したくて、ニヒルを促しEランクの試験を始める。出てきたのは的ではなく土人形。今までとは違い意思のある動きでこちらと距離をとっている。今回はあれを倒せばいいらしい。


サーチを発動させれば、相手の詳細が表示される。

【土人形:意思をもって動く人形。】


サーチが使えてもウィンドハーベストの範囲からは外れている。仕方なく、ウィンドカッターとファイアーランスで片付けるしかなさそうだ。


「”ウィンド・リフレッシュ”、”ファイアーランス”」


新しいスキルウィンド・リフレッシュでMPの持続回復スキルを使いつつ、ファイアーランスで土人形を貫けばのまま消えていく。

もう少し効率的にできないか、と”クイック・チャージ”で素早く相手に近づいて、”ウィンドハーベスト”で一気に片付ければ、合格をもらうことができた。


E-Ⅰ~Ⅴまでの試験では、合格する度に土人形増え、強度が増してくる。しかしそれも、土人形が逃げまどうところへ、素早く距離を詰めて攻撃をすることですぐに合格できた。


E-Ⅵ~Ⅹまでの試験では、強化どんどん強化される数体の土人形が攻撃に転じてくる。逃げまどうよりも、簡単に倒して難なく合格することができた。


さて、今日はこのくらいにしようと、その旨を伝えれば、ニヒルは頷き、基礎であるFランクをすべて突破したことで、合格の証とここまでの報酬を渡してくれた。


FとEを合格した証のカードは、手に触れるとインベントリへ収納され、nullはスキルを確認し、ニヒルへと感謝の言葉を述べる。


彼に手を振り、「アカデミー」の魔法を唱えれば、すぐにファスティアンの宿屋まで戻ることができた。余談だが、まだnull以外にアカデミーの試験を受けた人はいないらしい。勿体ないと思いながら、案内人の話を聞いていた。


==

・魔力操作  Lv.6 (+1)

・クイック・チャージ  Lv.2 (+1)

・ウィンドハーベスト  Lv.4 (+1)


・アイス・リフレッシュ Lv.1 12 MP

 :周囲の味方と自身のMPを回復量は最大MPの2%回復させる

・アーマード・リフレクション Lv.1 20 MP

 :ダメージを受けた際にそのダメージを反射し、反射ダメージの50%HPを回復

・シャドウ・マント  Lv.1 25 MP

 :自身の姿を闇に隠し、敵の視界から消える。その間のダメージを回避する。

・グラビティ・ボム  Lv.1 18 MP

 :敵の足元に重力の魔法を発動させ、一定範囲内の敵の移動速度を一時的に低下させる。

・ウィンド・ブレード Lv.1 10 MP

 :風の刃を前方に放ち、敵に切り裂くようなダメージを与える。高い命中精度

・マナ・フレア    Lv.1 15 MP

 :周囲に魔力を放出し、少量のMPを消費して周囲の敵にダメージを与える。一定確率でMPを回復する

・エア・ダッシュ   Lv.1 15 MP

 :瞬時に高速でダッシュし、敵の攻撃を避ける。ダッシュ中は一切の物理攻撃を回避できる

==



戻ってきたnullは西門の先へと向かい、”エア・ダッシュ”と”クイック・チャージ”を駆使して素早くいつもの採取場を目指す。その後は勿論採取活動である。


「よしっ!」と意気込んで周りのプレイヤーを寄せ付けない速度で採取を熟していく。慣れた作業の中で変化は三つ。

レベルが上がり、範囲の広がった”ウィンドハーベスト”と”クイック・チャージ”、それから、MPを回復する手段が増えたことで長時間採取活動を行ってもMPポーションの使用量は半分ほどは少なくなった気がする。と、大満足の採取時間になった。


もう殆どないMP値を見て逡巡した結果、街へ戻ることにした。来た時と違い、ゆっくり歩きながら帰っていると、ちらちらと感じる視線。目立ち過ぎただろうか。と小さく後悔するも、この後の調合の事を考えればやはり間違ってはいない筈だと思いなおす。


次の街へ行くためにと金策対策を考えていたにもかかわらず、手持ちのほとんどを調合部屋の取得にと当ててしまった為、また稼がなければいけない。しかし、ユーセスが言うには、市販のポーションよりも効能が高く、高価に買取を行ってくれるそうだから、その辺りを当てにするしかないだろう。


ギルドの調合部屋へと戻ったnullは、手持ちの材料のほとんどを乾燥棚へ移して、既に乾燥が終わっている材料を取り出すとインベントリへしまい、調合台の前へと移動した。


「さーて、やっと調合できるわ」


ふふふと不穏な笑みを浮かべたnullは、手始めにと魔力水の調合にとりかかる。


調合は実にリアルだった。

実際に本格的な実験を行ったことはないため、現実とどのくらいかけ離れているかは当然わからないのだが、行程一つ一つとっても繊細で手順通りの調合が求められた。

待ち時間も、調合するタイミングなんかも、色の微妙な変化から読み取らないといけないらしい。偶にタイマー機能を用いて三分後なんて指示もあったので、モノに寄るらしい。


最初にできた魔力水は、「成功」の文字と共に2つのアイテムがインベントリへ収納された。成程、とnullは続けて調合を進めれば、5回目で「大成功」の結果を引き当てる。


どうやら魔力水の調合では、色が変わる際に調合する作業が最も重要らしいことを複数回の試作の中で理解した。その結果、6回目以降の調合では「大成功」を連発させ、その度にアイテムとして魔力水が3つずつ追加されていく。どうやら、「成功」は2つで、「大成功」だと3つの魔力水が出来上がるらしい。


調合は、当然単純作業とは言えない細かな作業が続き、疲弊が積もる。そんなときにピロリンっと小さなシステム音が鳴り響き、確認すれば【調合師 Lv.2】とレベルが上がっていた。どうやら調合師という職業も冒険者とは別でレベルが上がっていくシステムらしい。


ふむ、と顎へ手を当て考える。

調合師のレベルを上げれば、調合用のスキルも取得することができるのだろうか?

そういえば、チュートリアル看板には「スキルは街の魔導書店で購入できるよ♪」と書いてあった気がする。

調合用のスキルもあるかもしれない。

ここまで、数回の調合を行ってもスキルの取得は叶わなかった。

冒険者であれば、あれだけ簡単にスキルが増えたのに対し、調合師のスキルは未だゼロ。

気になることは山盛りにあるが、一旦はポーションや薬を調合して増やし、お金に変えつつ次の街へ進むためのアイテムとしたいところだ。


時間が経過するにあたってこの街にいるプレイヤーの数は大幅に増加している。これ以上は何にしても効率が悪くなる。早めに調合を終えて、移動しなくては。そう思い至ると、さらに調合を進めた。


結果的にnullは調合により様々なポーションや薬を手に入れることに成功した。


==

【ヘルスポーション】×10

:体力の20%回復

【ヘルスポーション改(継続型01)】×10

:体力の20%回復+30秒間継続回復

【HPポーション】×5

:体力の30%回復

【HPポーション改(継続型01)】×5

:体力の30%回復+30秒間継続回復

【中級回復ポーション】×2

:体力の50%回復

【MPポーション】×10

:20%MP回復

【MPポーション(改速度up型01)】×10

:20%MP回復+5分間MP回復速度30%アップ

【MPポーション改(魔力強化型01)】×10

:20%MP回復+5分間魔法攻撃力10%増加+次に使用する魔法の威力15%増加

【水のエリクサー】×2

:MPの30%回復+5分間魔法攻撃力15%増加+魔法使用時10%の確率で追加ダメージ

【解毒状態回復薬改(耐性型01)】×5

:毒、麻痺、混乱、眠り解除+異常耐性20%増加

【麻痺状態回復薬改(耐性型01)】×5

:麻痺解除+麻痺耐性30%増加

【混乱状態回復薬改(耐性型01)】×5

:混乱解除+精神的ダメージ耐性15%増加

==


実験して分かったことが五つ。

一つ目は、成功率によって作成個数が変化すること。その成功率は素材や作成するアイテムによって異なること。

二つ目は、初期から所持しているレシピ通りに作ると成功率が高いこと。これは恐らく初心者用のレシピとして作成難易度が低いからではないかと思われる。

三つ目は、レシピ通りに作らないと失敗しアイテムを取得できないケースがあること。レシピ通りに作らなくても、素材の取り扱い方や種類によっては別のアイテムとして作成されること。これはアイテムに「改」と表示されていた。

四つ目は、「改」として調合成功したアイテム名は、作成者が自由に変えることができること。とりあえず、分かりやすいように変化した効果によって名前を整えたが、あまり見栄えが良くないため、再度変更しようと思ったが変えることができなかった。とても残念である。

五つ目は、初期レシピに全く従わず、手順も変えると失敗するが、失敗した際の「失敗原因」について言及がある場合とそうでない場合があることだ。例えば、「素材を水に浸す」という順を飛ばしてしまった際には、「失敗原因:素材が浸されていないため、化学反応が不完全です。」と表示された。しかし、別の失敗時には「失敗原因:不明」と記載されていた。

恐らく、これは工程を飛ばしたと言うよりも素材を間違ったか、そもそも技術レベルが足りないか。そういったものだと理解した。

つまり、調合の世界はまだまだ新しい調合に溢れていて、独自の調合が可能であり、且つ、素材について理解度を深めれば、自在に欲しいアイテムを作成できる可能性を秘めているということである。


なんとも素晴らしい。


両手を頭上高く上げて、大きく広げる。そして大きく息を吸い込んだ。


「たのしいいいいいいい!!!」


にまにまとした笑顔があふれ出てくる。


あぁ、いつぶりだろうか。こんなに楽しいのは。


そうしてnullは素材がなくなるまで調合を続けた。


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