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Extended Universe   作者: ぽこ
人と人との結びつき

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注目集中 -1

毎週、月曜日と金曜日に更新中!

「寧々~、昨日の打ち合わせでも、やっぱりご指名があったわよ~」


パソコンの画面から視線を上げ、寧々は隣の女性をちらりと見た。そして、いかにも嫌そうに眉をひそめると、大きく一つため息をつく。


「……でしょうね」


その様子を気にも留めず、楽しそうに笑っているのは有田裕子。五つ年上の彼女は、寧々の先輩であり、そして良き理解者でもある。


裕子は、寧々が新人としてこの会社へ入る前から、お世話になっている人だ。

学生時代、寧々たちが大会に出場していた頃からスポンサーとして関わり、活動の支援だけでなく、その後の煩雑な対応まで一手に引き受けてくれた恩人でもある。だからこそ、寧々は彼女に頭が上がらない。


寧々の勤めるこの会社は、雑誌やテレビ、ネットを通じて、VRやゲームを中心としたデジタル文化を専門に扱う業界向けのメディア企業だ。

新作タイトルのレビューに留まらず、仮想空間の動向、そこから生まれる新しいコミュニティ、さらには企業や開発・運営側の動きまでを幅広く追っていた。


業界内ではそれなりに名が知られており、開発者や運営側とも直接話ができる距離にある。最近では広告活動にも力を入れ、さまざまなメディアを通じて存在感を強めていた。


学生時代から一定の知名度があった寧々たちにとって、この会社がスポンサーになってくれたことは大きかった。大会への出場はもちろん、その後に発生する諸々の面倒ごとまで引き受けてくれたのだから。その窓口となっていたのが、有田裕子だったのである。


もともとXUに強い関心を持っていた寧々にとって、この会社は都合が良すぎるほどだった。最新情報がいち早く手に入るだけでなく、運営や上層部と直接会談する機会まで得られる。

そうした理由から就職を決めた寧々だったが、まさか直属の上司が彼女になるとは、夢にも思っていなかった。


裕子の下で働きながら、寧々は多くの経験を積み、この業界への理解を深めていった。同時に、プロゲーマーとしての顔を持つ彼女のもとには、さまざまなゲーム会社からオファーが舞い込むことも珍しくない。

それらをこなしながら両立できているのは、裕子の存在があってこそだった。彼女は寧々をフォローしつつ、活動しやすい環境を整えてくれている。そのおかげで、寧々は今も、ある程度の自由を保つことができていた。


「先週も、その前の週だって……私、対応しましたよね?」


うんざりした声でそう言うと、裕子は楽しげに笑った。


「それだけ好かれてるってことよ。ありがたい話じゃない」

「そうは言いますけど……私にだって、割り当てられてる仕事は多いんですよ?ご機嫌取りなんて……」


唇を尖らせて抗議すると、裕子はまた笑う。

彼女にとっても、その打ち合わせがそこまで重要だとは思っていないのだろう。無理に同行を強いることはなかった。それでも、寧々は時間が空いているときには付き添って顔を出していた。――これも、寧々なりの恩返しの一つだ。


「じゃあ、ヴァルフォート社の打ち合わせは?」

「……勘弁してくださいよぉ~」


寧々は困ったように裕子を見上げ、眉を下げたまま視線を逸らす。


ヴァルフォート社。それは、寧々が散々世話になった、あのゲーム――《Vortex Conflict》の制作会社だ。

前大会の場で、寧々が大々的に引退とも取れる発言をしてからというもの、彼らはたびたび寧々を指名し、打ち合わせや仕事のオファーを持ち込んでくる。会社としてはありがたい話だ。だが、寧々個人としては、どうにも気まずい。


二度とやらないと明言したわけではないが、それでもここまで執着されると、自由にゲームもできやしないじゃないか。――いや、実際には自由に遊んでいるのだが。


「あなたが、あんなこと言うから~。仕方ないわよね~」


楽しげにそう言う裕子は、どうやら寧々を揶揄って遊びたいらしい。こういう時の彼女は決まって、どこかにストレスを溜め込んでいる。仕方ないと、寧々は内心で諦めつつ、相手をすることにした。


「遊びたいゲームが、他にできたんです!」

「To the Lightでしょ?」

「……」


寧々は視線を逸らしたまま、否定はしなかった。

まだ公言していないこともあり、言動にはそれなりに気を遣っている。たとえ恩のある先輩相手であっても、うっかり口を滑らせるわけにはいかない。例え勘付かれていても言質さえ取られなければ、それでいい。


「というわけで、新堂㏇との打ち合わせが入ってるから。明日、十六時から。よろしくね」


そう言い残し、裕子は寧々の返事も待たず、ウィンク一つ置き土産にして忙しなくオフィスを後にした。

取り残された寧々は、右手を中途半端に差し出した不格好な姿勢のまま固まり、やがて小さく息を吐いて、その手を下ろす。


「……はぁぁ。もう、また面倒なことを……」


第一回イベントが開催される前から、新堂㏇からは打ち合わせの話が持ち上がっていた。しかも、毎回のように寧々を名指しで、である。

今もっとも注目度の高い企業だ。独占インタビューや、初公開のPVを任せてもらえるのはありがたい。


――ありがたい、はずなのだが。そのすべての打ち合わせに寧々を指名してくるとなれば、さすがに辟易してしまう。


いくら個人的にXUへ強い関心を抱いている寧々であっても、今回ばかりは戸惑いを隠せなかった。とはいえ、理由に心当たりがないわけではない。


向こう(新堂㏇)には、寧々が〈null〉としてゲーム内で活動していることも、XUへ個人投資を行い、活性化のための行動を取っていることも、すでに筒抜けだろう。そうなれば、彼らの関心がこちらへ向くのも理解できる。……理解できるだけで、本心としては、そっとしておいてほしいところではあるのだが。それを差し引いても、新堂㏇が寧々にとって最も欲しい情報を握っている存在であることは確かだった。だからこそ、寧々は今回も断りきれずにいる。


だらだらと仕事を片付けながら、明日の予定を思い浮かべる。胸の奥では、わくわくする気持ちと、面倒くささがせめぎ合い、結局小さなため息がこぼれた。


在宅で仕事ができるという点は、この仕事の利点だと感じていた。だが、実際にはインタビューや打ち合わせが頻繁に入り、結局は外に出ることになる。それなら資料も揃っている職場に来た方が都合がいいと、そんな理由で、寧々は出社することが多かった。


もっとも、XU内に用意されたオフィスで打ち合わせを行うことも、たまにはある。さて、明日はどちらだろうか。詳細を聞いていなかったことを思い出し、また一つ、ため息を吐く。


有能な先輩のことだ。そのうちすぐに、詳細はPCに届くだろう。それよりも、時間調整とインタビュー内容のすり合わせを進めなければならない。先輩がオフィスへ戻ってくる前に、この仕事を片付けてしまおう。そう思った、その時だった。


「桜川さん、ちょっといいかな?」


デジタル配信課の課長が、こちらへ歩み寄ってくる。寧々は思わず、また面倒ごとかとため息をつきそうになるのをぐっと堪え、表情を整えた。


「はい、結城課長。どうかされましたか?」

「悪いんだけど、次回の配信に君にも出演してもらえないかと思ってね。来週の金曜日なんだけど……どうかな?」


「あー、金曜日ですか……。実は、新堂㏇との打ち合わせが……」

「新堂㏇との! ああ、それは仕方ないな。うん、頑張ってくれよ!」


そう言い残し、結城課長は颯爽とその場を後にした。デジタル配信課長の背中を見送りながら、寧々はほっと息を吐く。


金曜日に打ち合わせが()()とは言っていない。向こうが都合よく勘違いしてくれただけだ。こちらとしては、「入る可能性がある」と伝えるつもりではいたのだから、問題はないだろう。


どうせまた、変なゲーム配信に付き合えと言われるところだったのだろうし。しかも、アナログ系のゲームが好きなあの課長のことだ。寧々が四苦八苦している様子を、楽しそうに眺める未来しか見えないので、丁度いい。


「いーのかー?」


隣の席から、ニヤリとした声が飛んでくる。振り返ると、そこにいたのは同僚の佐藤大和だった。

彼は気さくで、寧々に対しても変に距離を取らず、自然に接してくれる。社内では、数少ない()()()同僚だ。


「嘘はついてないでしょ?」

「まあ……。あとから面倒ごとにならないか?」


「……その時は、有田先輩バリアを使う!」

「有田先輩も大変だなぁ」


やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめ、佐藤は再びPCへと視線を戻した。


同期や一部の先輩たちから、寧々は決して好意的に見られているとは言い難い。スポンサー契約を経て所属選手となった経緯もあり、羨望が歪み、僻みへと変わってしまう者もいる。さらに、会社からの扱いが比較的良いとなれば、面白くないと思われても無理はない。理解はできる。できるが……こちらにはこちらで、抱えている面倒ごとがあるのだから勘弁してほしいところだ。


「再来週、またXUの土地が新しく売り出されるらしいな?」


仕事の手を止めることなく、そんな話題を振ってくる大和は、寧々がXUに強い興味を持っていることを知った上で、こうして情報を共有してくれる。


「うーん……でも、場所がなぁ……」

「開発予定地だろ? 悪くはないんじゃないか?」


「目立つ建物があると、逆に人が来ない、なんてこともよくあるでしょう?まあ、買ってから何を建てるか、何をやるか次第なんだろうけど」


「ふーん。……寧々なら、どうする?」

「私? そーだなぁ……」


開発予定地には、現実の某テーマパークを彷彿とさせる大型施設が建設される、という話が出ている。

現実では不可能な体験型アトラクション、XUならではの待機時間短縮、さらに、購入した商品が実際に自宅へ配送されるシステムの導入も予定されているらしく、夢が現実になると期待の声も高い。


通常であれば、そうした施設の近隣に土地を確保するなら、ホテルや温泉といった娯楽・休息系の施設が流行りやすい。だが、XUは現実とは少し事情が違う。


現実世界では、移動や遊び疲れた身体を休めるために利用される。しかしXUでの疲労は、あくまで別ベクトルの問題だ。であれば、同じく遊ぶ場所や、あるいはコンセプトの異なる同系統施設の方が、むしろ好まれる可能性が高い。


……とはいえ、ライバル企業――いや、競合施設になる分、面倒ごとが増えるのは目に見えているのだが。


「私なら――」

「は!? まじか……その発想はなかった……。……いや、かなり、アリだな」


思わず、といった様子で尊敬の眼差しを向けてくる大和に、寧々は苦笑いで返した。その瞬間、寧々のPCに通知が届く。送り主は、裕子だ。


――――

〇/〇(金) 13時~

新堂㏇本社にて打ち合わせ

住所:〇〇〇〇〇〇〇

※現地集合

――――


あまりにも簡潔な内容に、寧々は思わず、またため息をつく。

どうやら、事前の打ち合わせはなしらしい。そうなると、寧々がやるべきことは一気に増える。当日の流れ、想定される話題、向こうの狙い。どんな内容になるかを予測した上で、すべてを自分で組み立てなければならない。


こういう時の裕子は、詳細を聞いても、はぐらかすか、既読スルーを決め込むことが多い。分かっていても、寧々はため息をつきながら、流れに身を任せるしかなかった。


「……本当に、来週の金曜日が打ち合わせになった……」

「おー、よかったな」


良くはない。――ないのだが。少なくとも、先ほど断った配信の件については、心配する必要がなくなったらしい。そう考えれば、まだマシなのかもしれない。


寧々は、まだ終わりそうにない仕事を横目に見やり、もう一度、大きく息を吐いた。


次回:注目集中 -2


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