VR世界の進歩
世界観のお話です。読み飛ばしてもらっても大丈夫です。
2X30年、人類はついに「ネットの中に入る」という夢を現実のものとした。
「電脳空間」「仮想世界」——その概念は数百年も前から存在していたが、実現には至らず、ただの幻想として語られるばかりだった。
しかし、誰もが諦めかけたその夢に、転機が訪れる。
世界で初めて導入されたVRマシン 「Departure」。
巨大な装置の中で横たわり、目を閉じるだけで、新たな世界へと飛び出せる。
門出を意味するその名の通り、人類はこの日、歴史的な一歩を踏み出した。
それから数十年——。
IMstreet社が開発した次世代VR機は、圧倒的な技術力で世界を驚かせた。
仮想空間で自由に動くアバター、現実を超えるほど美しい景色、リラックスできる香り、心を揺さぶる音、触れれば確かに感じる感触。
さらに、どれだけ食べても身体に影響を与えない美食の数々。
人々は歓喜し、仮想世界に没頭していった。
——だが、理想郷は長くは続かなかった。
身体同期のバグ。
最初は些細な違和感だった。
アバターの微妙なズレ、不可解に曲がる手足。最初は誰もが気にしなかったが、それはやがて深刻な問題へと発展していく。
ユーザーたちは次世代機を求め、技術革新の波は一気に加速した。
だが、進化の速度に追いつけない企業は次々と淘汰され、技術者たちは職を失い、業界は混乱に陥る。
そんな中、ある企業が新たな技術を掲げ、革命を起こした。
新堂㏇ は、人々の求める理想を形にしたゴーグル型VR端末を発表する。
省スペースで使える小型設計、快適な通信環境、健康維持機能まで兼ね備えたこのデバイスは、瞬く間に世界中へと普及していった。
そして、新堂㏇はとある企業と手を組み、新たなネットワーク環境を発表する。
その名は—— 「Extended Universe」。
通称『XU』
それは、従来のインターネットを超えた、完全なる仮想世界の構築を目指すシステムだった。
買い物、エンターテインメント、仕事、教育——あらゆる活動がこの空間の中で完結する。
PCや携帯端末だけでアクセスすることもでき、VR機と同期させれば、まるで現実の延長線上のような体験が可能になる。
企業は仮想オフィスを開設し、教育機関はバーチャルキャンパスを構築、個人は好きな空間で自由な時間を過ごす。
こうして、「Extended Universe」は新時代のライフスタイルとして、世界へと浸透していった。
そんな中、この革命的な環境を活かしたゲームが発表される。
「To the Light」。
新堂㏇とULT社の最新技術を組み込んだ革新的なVRMMOであり、次世代のエンターテイメントの象徴として世界中の注目を集めた。
そして迎えた発売日——。
世界は狂乱した。
店頭販売では開店前から長蛇の列ができ、人の波が押し寄せる。
ネット販売では、事前予約が 1年前 から開始されていたにも関わらず、当日は通信障害が発生するほどのアクセスが殺到した。
熱狂の渦に包まれる日本。
そして、そんな中——
彼女は、スタートダッシュをきめていた!!
物語は、ここから始まる。