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【16話】フィスローグ夫妻の訪問

 

 部屋で仕事をしているルシルのもとへ、メイドがやってきた。

 

「フィスローグ伯爵と夫人がいらっしゃいましたので、応接室にご案内しました。旦那様と奥様への面会を希望しております」

「……分かった」


(嫌な予感がするな)


 嫁入り後の娘の様子を伺いに両親が訪ねてくるというのは、よくある話だ。

 フィスローグ夫妻の行動は、別におかしなものではない。

 

 しかしルシルには、引っかかっていることがあった。

 

 フィスローグ家では家事仕事や領地経営に関わる書類仕事をやっていた――以前、アリシアはそう言っていた。

 家事仕事も領地経営に関わる書類仕事も、普通は、令嬢がやるような仕事ではない。

 

 どうしてアリシアが、それらの仕事をやっていたのかは分からない。

 

 だが、両親から強制されていたという可能性がある。

 もしそうだとしたら、アリシアは両親から良い扱いを受けてこなかったはずだ。

 疎まれていたのかもしれない。

 

 疎んでいる娘の様子をわざわざ見にくるだろうか。

 そうではなくて、別の目的があると考えた方が自然だ。

 

「このことをアリシアにはもう言ったのか?」

「いえ、まだです。これから伝えにいくつもりです」

「それはしなくていい。アリシアには俺から伝える」


 アリシアを一人で夫妻に合わせるのは危険な気がする。

 合流して、一緒に応接室に向かった方がいいだろう。

 

 

 部屋を出たルシルは、エイラと一緒に掃除をしていたアリシアと合流。

 両親が面会を希望していることを話す。

 

「そう……ですか」


 アリシアの顔が曇ってしまう。

 

 彼女の表情からは、不安や怯えといったものを感じた。

 両親から良い扱いを受けてこなかった――その疑いが濃くなる。

 

「大丈夫だアリシア。君のことは俺が守る。何があろうと絶対だ」


 フィスローグ夫妻が何を企んでいるかは知らない。

 だがアリシアに危害を加えようものなら、絶対に阻止する。大切な人を傷つけさせはしない。

 

 曇っていたアリシアの顔に晴れ間が差した。

 

(この笑顔を何としても守る!)


 強く誓うルシル。

 アリシアの手を取り、応接室へ向けて歩き出した。

 

 

 応接室の扉の前では、私兵が二人待機していた。

 彼らに向けて、ルシルは口を開く。

 

「俺が合図したら、すぐに部屋の中に入ってこい。いいか?」

「承知しました」


 これからの面会は、何が起こるか分からない。

 不測の事態に備え、しっかりと準備を整えておく。

 

「行こうか、アリシア」

「はい」


 扉を開け、応接室の中に入る。

 

 中央のソファーには、フィスローグ夫妻が座っていた。

 ルシルとアリシアは、その対面のソファーに腰を下ろす。

 

「遠路はるばるご苦労だったな。それで、今日はどういった用件で来たのだ?」

「ルシル様にお願いしたいことがあって来たのです」


 ダートンが愛想笑いを浮かべる。

 

「突然で申し訳ないのですが、アリシアと離縁してくださいませんか?」

「…………は?」


 突拍子もない発言に、ルシルは目を丸くした。

 

「アリシアにしかできないことがありましてな。そのためには、この家を離れてもらう必要があるのです」


 口元を歪め、ニヤリと笑うダートン。

 醜悪なその笑顔からは、とてつもない悪意を感じる。

 

「もちろんタダでとは言いません。契約結婚にあたり、ブルーブラッド家からいただいた金額。その倍額をお支払いいたします」

「……」


 腹の奥底からふつふつとした熱いものが湧き上がってくる。

 

 それは、怒り。

 実の娘を物としか見ていないこの男に対する、強い怒りだ。

 

 返答しないルシルに、ダートンはさらなる言葉をかける。

 

「倍では不服でしたかな。それでは、三倍――」

「貴様! 娘のことをなんだと思っている!!」


 ギロリ!

 怒りの灯った瞳で、ダートンを睨みつける。

 

 睨みつけられたダートンは、短い悲鳴を上げた。

 怯え切った顔で、ガタガタと震えている。

 

「彼女は俺とって、世界一大切な女性だ! ずっとここにいてもらう! 貴様たちのような輩には、絶対に渡さん!!」


 この夫妻にアリシアを渡せば、必ず不幸せになってしまうだろう。

 そんな結末を迎えることは断じて許さない。

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