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【15話】おいしい話② ※シーラ視点

 

「ほ、本当にこんなに貰えるのかしら? 桁を間違えているんじゃないの?」

「いえ、そのようなことは決してありません。アリシア様をいただけるのであれば、必ずや記載した通りの額をお支払いいたします。公爵様の名に誓いましょう」


 ゲーブの言っていることは本当だろう。

 ペイポル公爵の名まで出したとあれば、嘘はつけないはずだ。

 

(アリシアを奴隷として売り飛ばすだけで、莫大な金が入ってくる……なんて素晴らしい話なのかしら!)


 莫大な成功報酬が入ってくれば、フィスローグ家の財政危機はひとまず落ち着くだろう。

 そうなれば、贅沢な暮らしをできる時間が伸びる。今すぐここを出ていかなくても良くなるのだ。


「ダートン。この話を受けましょうよ!」

「ああ、もちろんだ!」


 金が欲しいダートンは、この話にすこぶる乗り気だった。

 二人の意見は同じ方向を向いている。

 

「それではさっそく、契約書の作成に移りましょう。羊皮紙を持って――」

「お待ちください」


 立ち上がろうとしたダートンを、ゲーブが制した。

 

「今お話したのは、成功した場合のことです。失敗した場合の話を、まだしておりません」


 ケヒヒ、という薄気味悪い笑い声が、再びゲーブの口から上がる。

 

「もし失敗した場合は、フィスローグ家が所有している領地をペイポル家に無条件で贈与。さらにお二人には、ペイポル公爵家の奴隷になっていただきます」

「ど、奴隷だと!?」

 

 ダートンの顔がみるみる青ざめていく。

 ペイポル公爵家の奴隷になることを想像して、大きく怯えているのだろう。


 ――こんな噂がある。

 

 ペイボル公爵家の奴隷になれば、耐え難い苦痛を受け続けることになる。

 その痛みから逃れるには、死より他に道はない。

 

(まさか……話を受けない、なんて言わないでしょうね!)


 失敗したときのリスクを考慮しても、シーラは話を受ける気でいた。

 

 こんな大金を得られるチャンスなど、めったに転がっていない。

 それを棒に振るなど、救いようのない馬鹿のすることだ。

 

「ねえ、ダートン。この話、受けるわよね?」

「……」


 ダートンは何も答えない。

 青くなった顔を、ガタガタと震わせている。

 

(なに怖気づいているのよ! この、無能オヤジ……!)


 怖気づいているダートンを無視して契約を結びたくなるが、そうもいかない。

 契約を結ぶには、当主であるダートンの許諾が必要なのだ。

 

(面倒だけど説得するしかないわね)


 怒りの感情をグッとこらえたシーラは、ダートンの肩にそっと手を置いた。

 

「きっとうまくいくわ。だって、アリシアとルシル様の間に愛はないんだもの。契約結婚によって支払われた金額の倍――いや、三倍を返すと言えば簡単に離縁してくれるはずよ」

「……だが、ルシル様が断ってきたらどうするんだ。そうなれば、私たちはペイポル公爵の奴隷になってしまうんだぞ!」

「もしそうなったらアリシアの口から、離縁したい、と言わせるのよ。妻であるアリシアが離縁を望めば、ルシル様も受け入れざるを得ないはずだわ」

「アリシアが言うことを聞く保証はあるのか!?」

「大丈夫よ。アリシアなら、私の言うことを絶対に聞いてくれる。この七年、あの子は私に逆らったことはないもの。それはあなたが一番よく知っているでしょ?」


 ダートン両手を取ったシーラは、包み込むようにして優しく握った。

 

「これはあなたにとって大きなチャンスなのよ、ダートン」

「……私にとって?」

「このお金があれば、フィスローグ家を立て直せるだけじゃない。大きく成長させることだってできるわ。そうなればあなたは、名当主。ダートンという名前が、未来永劫語り継がれることになるわ」

「俺のことをそこまで考えてくれていたのか……!」

「当たり前じゃない。前に言ったでしょ。あなたのことを一番隣で支え続けていきたい、って」


 優しく微笑んでやると、ダートンは感動の涙をダバダバと流した。

 

「シーラ。この話を受けよう」

「ほんと!? ありがとうダートン!」


 ダートンにガバッと抱き着く。

 

(馬鹿なオヤジだわ!)


 話がうまく進んだのは、ダートンが笑えるくらいにちょろいおかげだ。

 笑い声を上げないよう、シーラは必死で我慢した。

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