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【10話】贅沢な生活 ※シーラ視点


 フィスローグ家伯爵夫人のシーラは、夫であるダートンの部屋を訪れる。


「ねぇ、ダートン。私今、とっても欲しいネックレスがあるの。買ってもいいでしょ?」


 猫なで声を上げ、上目遣いでおねだりする。

 黒色の瞳の奥にあるのは、絶対的な成功だった。

 

 ダートンはシーラに甘い。

 こうして甘えておねだりすれば、何でも言うことを聞いてくれるのだ。

 

 だから、考えもしなかった。

 ダートンが、「すまない」と、口にするなんて。

 

「今は余裕がないんだ」

「なんでよ? ブルーブラッド家から、いっぱいお金を貰ったじゃない」


 アリシアが嫁いだことで、ブルーブラッド家から大量の金が支払われている。

 余裕がない、なんてことはありえないはずだ。

 

「新規事業にその金を全額投資したのだが、うまくいかなかった……。すまないシーラ。俺はなんてダメな当主なんだ……!」


(なによそれ! どれだけ使えない無能なのよ! 謝るだけで済むと思っているところも腹立たしいわね!!)


 心で思ったことをそのまま口にして罵倒したくなるが、グッとこらえる。

 代わりにシーラがかけたのは、優しい声だった。

 

「あなたはダメなんかじゃないわ。とても素敵で立派な当主よ。私は――私だけは、それを知っているわ」

「シーラ……!」


 声を詰まらせるダートン。

 潤んだ瞳からは、今にも涙が溢れそうになっている。

 

「そんな立派なあなたを、私は一番隣で支え続けていきたいの。私が身を飾るのはねダートン、あなたに相応しい妻でい続けるためなのよ」


 その言葉にダートンは号泣。

 膝から崩れ落ちる。

 

 シーラも瞳を潤ませるが、それは演技だ。

 内心では、ちょろいわね、とほくそ笑んでいる。

 

「ネックレス、買ってもいいかしら?」

「もちろんだ! 好きなだけ買うといい!」

「ありがとう。愛しているわ、ダートン」


 ダートンの頬に口づけをして、部屋を出ていったシーラ。

 

(うまくいったわね)

 

 思い通りにことが運び、シーラは上機嫌。

 弾んだ足取りで私室へと戻っていった。

 

 

 私室に入るなり、シーラは大きく吹き出した。

 

「傑作ね! あの無能オヤジ、私に愛されていると本気で思っているんだもの!」


 ダートンはシーラのことを、本気で愛しているだろう。

 日々の様子からそれが分かる。

 

 だが、シーラは違う。

 ダートンのことなどこれっぽちも愛していない。

 

 ではなぜ、愛してもいない男と結婚したのか。

 それは、地位と財産が目的だった。

 

 

 シーラは貧乏男爵家の四女として産まれた。

 そんな貧乏な家にまともな縁談が来るはずもなく、シーラは貧乏男爵家の五男と結婚させられそうになった。

 

 結婚相手である男爵家の五男は、最低最悪の男だった。

 醜い容姿に、でかい態度。おまけに金もない。

 

 このまま結婚すれば、惨めで貧しい暮らしを一生送ることになる。

 それはごめんだった。

 

 そんなとき、父の古い友人が妻を探しているという話を耳にした。

 父の友人の名はダートン。伯爵家の当主をしている男だ。妻に先立たれたので、後任を探しているとのことだった。

 

(これだわ!)

 

 シーラが閃いたのは、ダートンと結婚することだった。

 

 彼は、伯爵家の当主。

 結婚すれば伯爵家夫人という肩書も手に入るし、財産もいっぱい持っているだろう。

 

 この結婚が成功すれば、惨めで貧しい生活を送ることはなくなる。

 それどころか、好き勝手贅沢できる華やかな生活を送ることができるかもしれない。

 

(絶対に成功させてやる!)


 強く胸に誓ったシーラは、すぐに行動を起こす。

 父からダートンの情報を聞き出すと、積極的にアプローチをしかけた。

 

 その行動は大成功。

 もくろみ通り、ダートンと結婚することができた。

 

 ダートンには二人の娘がいた。

 二人とも美形で、そして綺麗なオッドアイをしていた。

 

(腹立たしいわね)

 

 シーラもそれなりに整った顔をしている。

 けれど、彼女たちには到底敵わない。

 

 見下されているようで、気に食わなかった。

 

(派手な瞳で、私を馬鹿にして! 許さないわ……!)

 

 だから、虐げた。

 ダートンはそれを止めはしなかった。むしろ、一緒になって自分の娘を虐げていた。

 

 

 生意気な義娘二人をいじめ、好き勝手に贅沢できる。

 そんな楽しい日々を、シーラはこの七年間送ってきた。

 

 そして、これからも送っていくつもりだ。

 

「まだまだよ……ふふふ」


 財産に余裕がないのは事実だろうが、底を尽きてはいない。

 この贅沢な生活は、まだまだ続けていけるはずだ。

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