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7.駆け落ち!?

 そうして約2週間後。そこで真理佳の『説明メモ』を読んでいた僕は困惑していた。


 そこに記されていた日時は『12日』後の『十九時』。そして場所は


「この絵はどう見ても西郷隆盛像だよね……上野公園?真理佳、こんな時間に玲佳様が上野公園に行くことなんてある?」

「いえ、休日の日中ならともかく、そんな時間に公園など行きません」

「これ西郷隆盛像じゃなかったりする?」

「私にも西郷さんに見えますけどね。ちょっと変ですが。なんでこの西郷さん扇を持ってあおいでいるのでしょうか?」

「まだ暑いって時期でもないのになあ」


 やっぱり扇が引っ掛かる。扇が意味するもの……あっ。


「南山田の家紋じゃないか!この絵は『上野駅から横浜の南山田家へ』鉄道での逃走を意味してる。この手紙は駆け落ちの計画を伝えてるのか!?」


 南山田家はもともと横浜で貿易を足掛かりに財を築いた家。

 形式上東京に本邸はあるが地元はあちらだ。そこまで逃げ切ってしまえばその先の伝手もあるのだろう。


「『上野駅から横浜の南山田家』というのは判りますが、駆け落ちというのは南山田様や玲佳姉さまらしくない選択です。どう考えても失う物が大き過ぎますわ」

「思ったより結婚への障害が大きかったんだろうね。前にも言っただろ『華族同士の家の付き合いは簡単に切れるもんじゃない』ってことさ」


 はっきり言えば僕の家は零落してきている。

 それでも曾祖父の代には派閥の重鎮で、僕自身幼少期から深い交流があった。

 そんな僕との婚約という線を胡与久様が切れないことを玲佳様は感じたのかもしれない。


「んー、やはり駆け落ちはないと思いますが……これからどうなさるおつもりです?」

「当日上野駅で待ち伏せして南山田に計画がバレてることを告げて諦めさせる。それでも抵抗するなら家の者を使って拘束でもするさ」


 使用人だって何でもかんでも僕の我儘を聞いてくれるわけではない。

 だが深い交流のある胡与久家の令嬢の名誉のためなら協力してくれそうな者は何人かいる。


「計画の失敗を悟れば玲佳様も大人しく帰るしかない」


 そして二人の縁は切れる。


 ◇◆◇


 駆け落ちの計画を知って五日が過ぎた。

 信用できる使用人には、当日夕方上野駅で協力してもらいたいこと、荒事になるかもしれないこと、これが胡与久家のお嬢様の名誉に関わるものであることは告げている。 

 情報漏洩の用心のため駆け落ちの阻止であることは当日ギリギリになって皆には伝えるつもりだ。

 そうして自分なりに準備を進めていたのだが、そんな僕の様子を見てか、特に夕刻の外出について最近兄たちの監視が厳しい。


「駆け落ちの阻止以前に僕が家を脱出する方法を考えないと……変装でもして誤魔化せないかな……ん?変装?」


 以前真理佳が脱走して親戚の家に行ったとき。訪ね先の老夫婦は仰天した。

 それは真理佳が1人て来たという以前に庭師の男の子に変装していったからだ。

 見知らない男の子だとおもったら親戚のお嬢様だったのだからそりゃびっくりする。


「男装……有り得る。真理佳なら気付いてるかもだけど一応忠告しとかないと」


 外出の用意をし、兄達に会わないよう手早く表に出ようと廊下を足早に歩いていたところ、まだ夕刻というには少し早いこの時間には珍しく父と出くわす。


「これは父上。お疲れ様でございます」

「うむ。完介か。ちょうど良かった。いや、さっき胡与久家から遣いが来てな」


 胡与久家と聞いてドキリとする。

 いや、まだ駆け落ちの実行までは日があるはずだ。

 じゃあもしかして僕との婚約の話……


「昨日、胡与久家の玲佳さんと南山田家の衛海君との婚約が内々に決まったそうだ。お前は特に胡与久家とは交流が深いし、これから挨拶などもあるだろうから心しておくようにな」

「……ハイ、チチウエ」


 僕が返答をすると父は上機嫌な様子で廊下の奥に消えた。


「ハアアアアッ!?どういうことーっ!?」




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