5年って言ったのに、嘘つき……でも負ませんから
私の夫は雪の降る町の会社へ出向中で、五年は戻れないはずでした。もともと本社も工場もあちらにあって、出向と言うよりも栄転なのですが。
本来なら喜ぶべきでしょう。でも都会育ちの私には、地方の会社へ飛ばされたように映りました。都落ち…ママ友達にそう思われるのも嫌でした。
夫の事は愛しています。私も仕事があります。織姫と彦星のように、一年に一度しか会えなくても、貴方の帰る所を守るつもり。いつでも安心して帰って来れるように……。
――――――――なのに、世の中は時に非情なもの。都会の空気に触れすっかり変わってしまったあの娘のように、貴方は変わってしまった。
送られてくるメッセージが目茶苦茶。わからないと思って適当に嘘を並べ立てる人ではないと思っていたのに。
「ジーコが引き抜かれて、不味い事になりそうだ……」
「親会社に潰されて会社がなくなる」
「親会社に転職するには、ロダン勝負に勝たないといけない――――」
「ギリギリ残れた。金星人の社長は気前がいい」
「金魚ビール最高! これをお前も広めて欲しい」
「黒いコスモスは美しい……」
…………えっ、私の夫UFOに拐われて洗脳でもされたの?
何を言っているのか、わからない。
何て答えていいかも、わからない。
最後のメッセージは多分浮気よね。
約束の五年目。貴方はもうすぐ私の元へ帰って来ると、思っていたのに。この冬を越せば、また一緒に暮せるはずだったのに。
夫の元の会社がなくなったのは、すぐに確認出来た。でも夫と電話で話してみても、言っている事がおかしい。私は休みを取って夫の会社へ乗り込んだ。
「黒いコスモスさんは、美しいわ」
夫の言葉に嘘はなかった。金髪で金眼って金星人よね。黒いコスモスさんは、美人で所作が美しい。
――――私は地元の仕事先を辞めて、アパートを引き払い夫の会社に中途入社していた。
「桜子様は男共に穢させない!」
気付いた時には桜子ファンクラブを起ち上げ、夫や男共と戦っていました。
……いえ、気付いていたから桜子様には悪いけれど利用した。もちろん素晴らしい方なのは確かなので応援もしますが。
夫が夢中になるものを肯定しつつ、のめり込む事のないようにやんわりとブロックするだけ。
夫婦と言えども五年近くもね、離れて暮らせば愛情が薄れていくものです。
私は夫の最大の理解者である事を意識させて、夢中になるものからこっそりと引き剥がすの。
――――――だって私は夫を愛していますから。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
人の想いは複雑で、一緒に楽しんでいても思考まで同じとは限らないのです。
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