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バーコッド頭の校長が眠りを誘うような調べを奏でていた。うんざりするくらい暑い体育館の中に全校生徒がすしづめ状態で押し込まれているせいで、頭は輪をかけてぼぅとしてくるわ額から汗がとめどなくあふれてくるわで、僕の体はてんやわんやしていた。
アイナがアイロンがけしてくれたおかげでピシッと角が立っていたハンカチは、その美しい仕上がりが汗を含みすぎたせいで見る影もないほどにヨレヨレのビシャビシャになっていた。もちろん、肌着に至っても同じ状態で、僕の濡れそぼった皮膚との接触面積がハンカチよりも大きいから余計に汗を吸収していた。
そんな具合で、現在進行形で生徒たちのシャツにはくっきりと肌着の姿が浮き彫りになっていた。きっと、というか確実に、その状況を利用して白井あたりが気持ち悪いことを考えていると思う。少しばかり後ろを振り返ってみると、案の定、白井は鼻を伸ばしに伸ばしながらあっちこっちに視線を送っていた。そういうところさえなければかなりモテる部類なのだろうけど、彼の存在意義はそこにあるので一生モテない街道を突き進むのだと思う。
僕は嘆息すると、きょうもきょうとて絶好調な校長のありがたいお話に耳を傾けた。下手な子守唄より便利な代物だった。
ほぼほぼ意識を無に保っているうちに終業式の幕は降り、クラスの連絡事項伝達が終わると、夏休みがスタートした。
「どっか遊びに行こうぜ」
白井が夏休みの口開けで僕の前に立ちはだかった。
「ごめん、きょうは予定があって」
「まさか、また佳奈ちゃんと一緒じゃねぇだろうな」
「ハッハッハッ、ソンナワケ。ソレジャッ」
「おい、逃げるな」
白井の横をすり抜けようとしていた僕の首根っこが、樹齢何千年クラスの大木を想像させる彼の腕から伸びる手によってガシッと掴まれた。「この前の続き、まだ終わってないもんな(ニッコリ)」僕は白井含むクラスメートたちにコッテリと絞られすぎて出がらしになっていた。白井のやつ、僕が佳奈と一緒にいるときはお幸せにだのなんだの言うくせに、僕が一人っきりになった途端に暴徒の一人と化すからタチが悪かった。それでも、ここぞってときには頼れる男だったりするので、なんだかんだ友達でよかったと思う。
なんだかんだと言えば、聖典——佳奈お手製の定期テスト予想問題集——のおかげで定期テスト平均点の常連だった僕が成績上位者として廊下に名前が挙がったばっかりに——もちろん親友と佳奈は言わずもがな——教員室で話題になったそうだ。担当教員がしつこいくらいに僕がやる気になった理由について尋ねてきたので、「全部逢沢さんのおかげです」って、適当に佳奈に丸投げしたら——真実ではあるのだけれども——担当教員がこれまたしつこいくらいに佳奈にアドバイスを求めたそうで、「もう絶対に見せないから」佳奈は疲れ切った顔で僕と聖典とを三行半でつなぎ合わせてしまった。ちくしょう、これからのテストで楽ができなくなってしまった。
「どうしたユキト?」
「ヤバい疲れたわ」
「終業式だけで、どんだけバテてんのよ」
そんなこんなで、いろいろな意味でゲッソリしていた僕は、親友と佳奈と一緒にお疲れ様会ということでカラオケに行くことが下校中に決まった。
「
カラオケ行ってくるねー。
」
三人でカラオケ屋に向かいながらアイナに連絡すると、光の速さで返信が届いた。
「
え、まって(笑)ちょうどいまユッコとカラオケ来てたんだけど(笑)
そっちに参加してもいい?
」
アイナのメッセージを親友と佳奈に見せたら、二人とも快諾してくれた。
「
いいよー。そっちの部屋に合流する。
」
「
おっけー、受付の人に伝えておくねー。
部屋番号は——
」
スマホを閉じると僕たちは駅前へと足を運んだ。
 




