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翌日、茹だるような暑さが僕の心中の荒波を覆っていた。
定期テスト期間が目前に差し迫っている現在、部活動は軒並み休止を余儀なくされていた。そのため、いつもの通学路には風邪からなんとか復調していたマスク姿の佳奈だけでなく部活動がよっぽど過酷なのかテーピングまみれの親友の姿があった。
僕たちは久々に三人で登校できていた。もちろん、いつものように僕だけがちょっとだけ後ろに下がっているのではなくて綺麗な横並びでだ。ほんのわずかな変化だけどそのおかげで僕の心はわずかばかり落ち着きを取り戻せていた。
「ユキトはテスト大丈夫なのか?」
佳奈を挟んで隣を歩いていた親友が不意に僕に尋ねてきた。
「今回はヤバいかも」
僕はもろもろのことが重なってテスト勉強に手をつけられていなかった。とは言え、『円卓の騎士』とかいう成績下位者限定称号をたまわる一歩手前の僕がいまから勉強したところで、定期テストという名の大学入試プレテストに立ち向かえるわけでもない。有り体に申しますと、赤点さえ取らなければ進級判定に引っ掛からなくていいかと踏んでいるのだけれども。
「それならさ、みんなで勉強しようよ!」
がらがらとかすれた声でそう提案した佳奈は両手の拳を握ってやる気に満ち溢れたガッツポーズをしていた。佳奈は一度スイッチが入るとテコでも動かないということは僕と親友は遺伝子レベルで知っているので僕たちは互いに顔を合わせた。
「どうすんだ?」
「どうするったって、ねぇ」
「やるよね?」
「俺はいいけど」
「僕はまだしも二人は勉強しなくても余裕でしょ? わざわざ勉強会なんてしなくたっていいじゃん」
「今回は私のアレ、使ってもいいよ」
佳奈によって福音がもたらされた。普段なら門外不出の聖典(佳奈お手製の定期テスト予想問題集)の使用許可がおりようとしている。その効能はテスト終了後に廊下に毎回張り出される紙が物語っていた。
高校受験組の圧倒的ナンバーワンとして内部進学組にも名実ともに知られているレベルの彼女、そんな人物の甘い誘惑は抗いがたい魅力を備えていた。ラクにテストをパスするに越したことはない。
「利用させていただいてもよろしいのですか?」
「今回はね、お見舞いとか来てもらったし」
「勝った! 第三部、」
「まだテストは終わってねーぞ」
食い気味に突っ込んできた親友は通学バッグからボロボロの英単語帳を開くとモクモクと勉強を始めた。佳奈も使い古されていた世界史の教科書をマジマジと見始めた。
周りを歩いていた他の学校の生徒たちも何かしらの参考書を開いて勉強しているなか僕はぼぅと空を見上げた。憎らしいくらいに日差しが強かったけど僕は太陽に悪態をつくことができなくてイライラした。そんなことをする馬鹿馬鹿しさを理解できるくらいには僕は大人になってしまっていたみたいだった。




