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「大好き……か」


 吐息と共に漏れた言葉が乳白色のお湯に溶けていく。


 佳奈が伝えた言葉の意味を、僕は考えあぐねていた。


 友情の印としての告白なのか、それとも、もっと別の意味を込めたものなのか。


 どういう意図があって佳奈は僕に伝えたのか。それとも、なんの考えもなしに、ぽろっと漏れ出た告白なのか。


 字数にしてわずか四文字。きっと、それ以上でもそれ以下では成立しないような、絶妙なラインの告白だったと思う。


 佳奈の告白はそれくらいシンプルで、それでいて精緻だった。


 佳奈から四文字の告白を受け取ったとき、僕は彼女の姿に見惚れていた。それは決して、下半身に血流がたまるだとかいう下世話なものじゃなくて、もっとこう、切れかけの蛍光管の中で照らされた唯一無二の美術品を見つけ出したような、そういう美しさからだった。


 そして僕は、佳奈の言葉に返事することなく、彼女の姿を漫然と見送っただけだった。


 それはどういう意味だとか、ありがとうだとか、すかさず気の利いたことが言えなかった。


 ああしておけばこうしておけば、という思いが、過ぎ去った過去をなぞらえた。自責の念に駆られたところで何の意味もないのに。


 佳奈に対してただならぬ思いを抱いていたことは確かだ。


 しかし、それは恋愛感情的な意味よりも、ソウルメイトとしての結びつきのようなものと形容した方が、もっともらしい表現だと思う。


 僕自身スピッているわけではないけど、彼女と一緒にいたときに確かに感じていたものは、安心できるような、自然体でいられるような、苦しみを分かち合うような、そういう種類の感情だった。


(僕にとっての佳奈って……)


 原点に立ち返って、彼女の告白に相対してみる。


 もちろん、僕は佳奈のことは嫌いではない。


 嫌っている相手の方が後腐れを抱かなくていいから楽だとか、ゲテモノ好きとかいう変わった趣向を持っているわけでもない。僕は至って普通の高校生だし、周りの流行もそれなりに追ったりする。人並みに恋愛に興味だってあるし、好きなアイドルだっている。


 ただ、佳奈に対しては長年培われた幼馴染ぜんとしたぶ厚いヴェールに遮られてしまっていることも事実だった。


 血のつながりがあるわけじゃないけど、そばにいて助けになりたい。それは家族に対する思いやりとほぼほぼ同値だった。


(家族か……)


 肩までお湯に浸かってみる。


 僕と佳奈を繋ぐワードは家族が一番しっくりくるような気がする。とは言っても、家族同士ではしないようなこともしてるけれど。


(家族だけど家族じゃなくて……うーん)


 考えれば考えるほど、頭の中がぐわんぐわんと揺れてきた。


(やばい……そろそろ出ないと)


 長湯しすぎてすっかり赤く染まった体を引きづりながら、僕は浴室を出た。

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