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 物音を立てないように家に入ると、パジャマ姿のアイナがリビングの机につっぷして寝ていた。


 明るい室内、机の上には僕とアイナの分の夕飯の品々。僕が帰ってきたらすぐに準備できるよう、待ち続けてくれていたみたいだった。


 僕はアイナを起こさなように、ブランケットをアイナの肩にかけると、


「ん……おかえり」


 と、眠気まなこをこすりながらアイナは言った。


「ただいま」

「すぐにご飯の準備するね」


 アイナがフラフラと立ち上がってご飯の準備を始めようとしたので、僕はいそいで止める。


「大丈夫だよ、僕がやるから」

「でも……」

「きょうはアイナのおかげでいっぱい楽しめたからさ……ゆっくり休んでて」

「……わかった」


 アイナは椅子に座ると、両腕を枕にして休み始めた。


「ベッドに行かなくていいの?」

「うん……いまはここにいたい」


 アイナは椅子から浮いた足をパタパタとさせた。


 電子レンジで昨日の夕飯の残りものを温めているとき、


「観覧車どうだった?」


 と、顔を上げて、アイナは聞いてきた。


「それがさー……すっごい高くてめっちゃ遠くまで見渡せるんだよー。アイナも絶対行ったほうがいいって」

「……ほんとに?」


 不意の一言にどきりとした。アイナが別れ際にGPS情報を確認すると伝えてきたから、僕の嘘を見抜けていたのかもしれなかった。アイナのことだから実際にそんなことをしないで僕を信用してくれていたと思う。ただ単に、僕の感想をあてにしていないのかもしれなかった。だけど、アイナのまんまるな瞳を前にすると、建前がいともたやすく崩れ去ってしまった。


「ごめん……乗れてない……」

「……あやまらないでよ、そんなつもりで言ったわけじゃないし……それに……ウチだって、兄貴と佳奈姉ぇを急に二人っきりにさせたの割と反省してるから」

「それはマジで反省しなさい……変な噂が立たないようにわざわざ変装する羽目になったんだから」

「ほんとうにすみません……ってか、変装……?」

「うん」

「兄貴が……? 見てみたい!」


 アイナは先ほどまでの弱々しさはどこえやら、元気よく立ち上がると、


「早く見せてよー」


 と、言って、温め終わった皿を取り出そうとしていた僕の背中を両手でポコポコと叩いた。


「はいはい、食べ終わったらね」

「兄貴のケチー、ウチが速攻で兄貴の分も食べてやる」

「ちょっと待てぃ」


 アイナが僕の分を食べようとしているのを阻止しつつ、普段より遅めな夕餉を二人で食べた。



 僕はウィッグをつけたまま皿を洗っていた。アイナのやつ、散々僕のことを、「兄貴が……アニメキャラみたいになってる……プフッ」と、お腹を抱えて笑い散らかした挙げ句、「一緒に撮ろ! クラスの子に兄貴のコスプレ晒すわ(笑)」と、僕に無許可でしこたま写真を撮ったのだった。


 肖像権どうなってるの? と思ったが、アイナの学校で見せつける分には悪いように使わないだろうからよしとする。いや、よくないけど。


 もうアイナは満足しただろうと思ってウィッグを外そうとしたら、「きょうはそのままでいてよ。そっちの兄貴のほうがカッコイイし」と、顔を赤くしていたので、つけたままといった具合だ。


 そんなに兄貴をからかいたいのかね? 可愛い妹の頼みだからできる限りのことはしてあげるけど。


 えんもたけなわだったが、ぐだっとした時間が流れていた。


「あっそうだ、兄貴が連絡とって欲しいって子から返信が来ただけどさ、明日の放課後でよかったら会ってもいいって。なんなら、兄貴の高校まで行くからそのときに話をしたいって……どうする? ウチは生徒会があって行けないから二人っきりにしちゃうけど」


 アイナの言葉で僕の気がキュッと引き締まった。僕は親友のことについて知らなきゃいけないことが多すぎたのだった。


「もちろん、行くって、伝えておいて。むしろ、その子の方は一人で大丈夫なの?」

「うん。問題ないって言ってたから。それと、兄貴の写真もついでに送っておいていい? 確認用に」

「うん、いいよ」

「おっけー。きょうはもう遅いし、あしたの朝に伝えとくねー」


 アイナがもたらしてくれたチャンスを無駄にするわけにはいかなかった。


 親友のことがなにかわかるかもしれない。そんな期待を胸に、長い夜がふけていった。

ちょっち更新頻度落ちます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ

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