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「あー、スッキリした」
ひとしきり泣いたあと、佳奈は袖口で涙の跡を拭った。サングラス越しに映る佳奈は、憑き物が落ちたかのように柔らかな笑顔を浮かべていた。
「ありがとね、ユキト」
佳奈は足を後ろに出すと、
「帰ろっ!」
と、言った。鈴が鳴るような朗らかな声だった。
「おっけー」
僕は彼女に遅れないようにして帰路についた。このとき僕は涙の理由について聞けなかった。それはまた彼女を悲しませてしまう気がして。
遊園地の敷地から出ると、隙間なく鉄の塊で埋め尽くされていたショッピングモールの駐車場は閑散としていた。
照明がほとんどない田舎道を避けるために、来たときとは違って少し遠回りになるが国道沿いの灯りを頼りに歩く。
歩道にはジョギングをしている人や散歩している人がいる程度で、ときどき、僕の隣を車が通っては、真っ平に舗装された道をくっきりと照らしていた。
互いの足音が聞こえてくるほどの静寂。二人だけの世界。一言も会話をかわしていないのにきまずさはなく、気分はすこぶる落ち着いていた。
国造沿いを抜け、閑静な住宅街へと差し掛かる。焼き魚の香ばしい香りや、ビーフシチューの香り、煮物の香りなどが楽しそうな家族の声と混じって流れてきて、お腹がグーッと鳴った。
「ご飯家で食べてく?」
「この時間に伺うのも悪いし、また今度」
僕とアイナはちょくちょく佳奈の家にお呼ばれしては一緒に食事をとっていたのだが、きょうは行くことはできない。なぜならば、僕には親友と話さなければならないことがあったからだ。
佳奈の家の前まで着くと、繋がれていた手を解き、変装を解いてショルダーバッグの中にグッズを押し込んだ。僕も一緒になって、変装グッズをバッグの中にしまった。
「きょうは楽しかったー」
「だね。また変装してみたいって思ったもん」
インターフォンの前で佳奈はクスクスと笑うと、
「じゃあさ、また……」
と、何かを言い淀んだ。佳奈が話し出すまで待っていると、
「……また明日、迎えに行ってもいい?」
と、言った。
「うん、また明日」
はやる気持ちを抑えきれず、僕は踵を返して公園へ踏み出そうとしたときだった。
「ユキトっ」
佳奈は僕の腕を掴むと、僕の背中を力強く抱きしめてきた。
「これからも……一緒にいてくれる?」
耳をそばだてていないと聞こえないほどの小声で佳奈は言った。
「それって、プロポーズ?」
「……バーカ」
佳奈は僕からスッと離れると、笑顔を浮かべた。
佳奈は手を振りながら電気のついた扉の中へと入っていった。完全に扉が閉まるまで僕は手を振り続けた。
すると、ちょうどのタイミングでスマートフォンが振動した。
「
あと十分くらいで着く。いつものところでいいか?
」
「
うん。待ってる。
」
親友からのメッセージにいち早く返信すると、僕は公園までの道のりを駆けた。
道すがら、佳奈の発言がずっと胸に迫っていた。
 




