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 天高くそびえるクリームの山のそこかしこを登山していたのは、バナナ、イチゴ、マスカット、パイナップル、アイスクリームといった甘味のドリームチームだった。てか、食用花が散らされたパフェなんて初めて見たんだが?


 数あるメニューの内、この『超ウルトラスーパーDXハイパーマキシマムパフェ(税込、3980円 3、4人前)』をわざわざ頼んだからには、完食しないわけにはいかなかった。映えを意識した写真だけとってあとは知らぬ存ぜぬで残すという選択肢は僕にはなかった。このうずたかく積まれたクリームの中にも、生産者さんの大切な思いが込められているからだ。とはいえ、僕の隣でオレンジジュースをちびりちびりと飲んでいた佳奈を羨ましく思ってしまった。ヤケになった代償にも限度ってものがある。目の前のブツはそれを大気圏突破してたって話。もちろん、食べ切るんだけどな!


 対面に座るアイナは他を寄せ付けないスピードでクリームの山を切り崩し、口に運び始めた。付近にいた家族連れの人たち、また、店員さんたちが僕たちの机の横を通るたびに唖然としていた。見慣れているとはいえ、アイナの大食いシーンには毎度のことながら僕は感心していた。デザートは別腹っていうけど、別腹どころか異次元に行ってませんかね? しかもパフェの前に散々食べてましたよね? まあ、これで満足してくれれば、劇場内での出来事は秘密裏に処理してくれるだろうから、痛い出費だけと万事問題ないだろう。そういった安心感から、僕もお腹が空いてきた。


「さて……」


 スプーンもとい、アイスクリームをすくい取るときに使う大型のやつを手に持ち、クリームの牙城に風穴を開けた。当然のことながら、一口分持ち上げた程度ではびくともしていなかった。製造過程で賢者の石が混入しちゃって、クリームを無限錬成してるんじゃないかと疑いたくなるくらいには変化がなかった。


「少し手伝おうか?」


 腕を持ち上げたまま微動だにしていなかった僕に佳奈が声をかけてきた。ゆっくりと佳奈に顔を向け、これまたゆっくりと首を縦に振った。


 ……ごめん……やっぱ辛えわ。


 こんな怪物、僕一人で食べきれるわけなかった。


 店員さんを呼んで新しく取り皿とスプーンをもらうと、佳奈の分を取り分けた。佳奈もアイナほどではないけどわりかし甘党な部類なので、お皿を手渡すとニコニコしていた。僕は僕で、初見の状態よりいくらかかさが減ったクリームの山にニコニコしていた。食べ切れるビジョンがおぼろげながら見えてきた。


「んぅぅ……」


 僕より先に食べ始めた佳奈はほっぺたをぎゅっと押さえて喜んでいた。


「すっごいおいしい……ユキトも食べてみなよ」


 おそるおそる口に運ぶと、やってきたのは幸せの舞踏会だった。甘すぎないクリームが口の中でワルツを踊り、歯と歯を噛み合わせるごとにみずみずしい果物がプシュッと弾けてサンバを演じている。一口また一口と気づいたら食が進んでいた。甘いものが苦手な僕でもするすると食べることができていたのだ。恐るべし『超ウルトラスーパーDXハイパーマキシマムパフェ(税込、3980円 3、4人前)』。みんな大好き『超ウルトラスーパーDXハイパーマキシマムパフェ(税込、3980円 3、4人前)』。


「これは……いいものだ!」

「でしょ! もっとちょうだい!」


 早々に食べ終わっていた佳奈の分を取り分けようとしたら、


「ウチも!」


 と、アイナが言った。


「……マ?」


 空になったガラス容器越しに見えるアイナの瞳は、光を反射してピカピカ光っていた。


「流石にそれ以上食べたら体に毒じゃ……」

「ウチも!」

「……どうぞ」


 食の暴走機関車となったアイナは、誰にも止められなかった。そんなこんなで、僕はアイナと佳奈の協力——七割近くアイナが食べてくれた——を経て、壮絶? な戦いを終えた。

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