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映画館に併設された喫茶店にて、アイナはメニューを眺めていた。高校生が立ち寄ったらいけないようなお高いオーラが店内にぷんぷん漂っていて、水ですらお金がかかるんじゃないかと僕はソワソワしていた。
アイナが映画の感想を語り合いたい、とのことで僕たちは軽くお茶をすることになったが、メニューを見る分にはどれもこれも全然軽くなかった。量的な、というのもあるけど、金銭的なという意味が大きかった。もはや、いちばんお手頃なアイスコーヒーでさえ金額的に重すぎて、マントルを突き破ってブラジルまで届くくらいの重量感があった。
「兄貴ー、これ食べたいなー」
アイナが指差した品物は、『超ウルトラスーパーDXハイパーマキシマムパフェ(税込、3980円 3、4人前)』。地元で採れた果物をふんだんに使った云々とか説明書きにあった。確かに、美味しそうな見た目ではある。しかしながら、そもそも軽食で食べるような代物ではないし、なんなら、一週間くらい絶食しても食べきれないくらいのデカ盛りパフェではありませんか。アイナはその画像を見ながらニコニコしていた。
細身な体のどこに入るのかなーなんてアイナを一瞥したら、「いやん」と、わざとらしく腕を交差させて胸元を隠しやがった。条件反射的に振り上げていた僕の手刀を佳奈が必死に止める。そんなチンチクリンな体型に興味は……ゲフンゲフン
(閑話休題)
念の為、財布を確認しておく。諭吉のライフはまだあったけど、
「いま手持ちが……」
と、すっとぼけることで、事なきを得ようとした。
「ウチは別に、自分で払ってもいいけど?」
「それなら、お願いしても」
「きょうはほんっと、いいものを見せてもらいましたなー」
「……わかりました……僕が払います」
口止め料という名のタカりで、僕はアイナの分を支払うことになった。最初から、僕に対して〇〇食べたいと言ってきた時点で、こうなる未来は予想できてたけどな! ちょっとくらい夢を見させてくれてもいいじゃないか。普段は割り勘を徹底するくせに、こういうときはがめつい。
予想外だったのは、「わたしの分もお願いしちゃおっかなー」と、佳奈が呑気に参戦してきたことだった。あのですね、あなたは一応共犯者なんですよ? その点、わかっているのですかね?
なし崩し的に佳奈の分を支払うことになった僕は、もうヤケになっていた。ATMに駆け込むことも辞さない。否、とことん付き合ってやることにした。そして僕たちの机に、『超ウルトラスーパーDXハイパーマキシマムパフェ(税込、3980円 3、4人前)』✖️2と、オレンジジュースのスモールサイズが運ばれてきた。
……自分で頼んでおいてなんだけど、僕は甘いものが好きでない。




