3話
さて、一方的に言いくるめるのは良い大人のお手本とは言えません。ちゃんと相手の話も聞かなければ。それがレディーとしての嗜みです。
「それで、このわんちゃんの飼い主はどちらに?」
見たところ首輪がついていないようですが、野良犬にしては賢いと言うか、しっかりと躾けられているように見えます。それくらいに大人しいのです。
男の子たちは揃って首を横に振りました。
「知らない」
「見てないよな?」
「うん。今日は見てない」
「ふむふむ」
なるほど、口ぶりからして飼い主はいたようですが、捨てたか放置しているか、あるいは──迎えに来られない状況にいるのか。
それでもここから動かないとは、随分と忠犬ですね。『ここで待て』とでも命令されたのでしょうか。
「歳はオレらくらい」
「下町の孤児だよ。で坊主頭」
「屋台とかの食い物盗むんだ」
「むむ、それは聞き捨てなりませんね。盗みとは」
話を聞くに親がおらず、わんちゃんの分も盗みを働いて日々の空腹を凌いでいたようです。側から見たら動物虐待でしたが、この子たちにとっては正義の行いみたいなものだったようです。道ゆく人の反応からして、常習犯であることも見て取れます。
これはどうやら、飼い主にもお説教が必要そうですね。
「わかりました。この件はわたしが預かりましょう」
「預かるって……どーすんのさ?」
「探し出してお説教して、盗みなんてしなくて済むように働き口を見つけてあげます」
「ねーちゃんよそ者だろ? そこまでする義理? ねーだろ」
「どーしてねーちゃんがそこまですんのさ?」
もっともな疑問です。わたしがそこまでする義理は確かにありません。むしろ周囲から邪険に見られてしまうでしょう。子どもとはいえ悪事を働く人を助けようというのだから。
ですが──
「わたしは……生き物全てが大好きなんです。例外はありますが、生きようと足掻く者に手を差し伸べたくなってしまう性分なんですよ」
魔本の一件のせいで鮮明に思い出せてしまう、かつての幼いわたしを重ねてしまうから。
あんな辛くて苦しい思いを、自分一人でなんとかできるほど子どもは強くありません。強くなる方法を子どもは知らない。それを教えてくれる大人がいなければ。
「それで、人探しに精通した人物などに心当たりはありませんか? 物知りとか、この街に詳しいとか」
子どもならこの辺りを駆け回っていそうですし、顔が広いかもしれないので聞いてみます。意外な情報を握っていたりするので、子どもは侮れないものなのですよ?
明確ではない情報が多いですが、得るものはあるでしょう。なにせ大人より口を割らせるのが容易く、そして口を滑らせやすいですから。
「人探し? ってーと……」
「あれじゃん? 葵ねーちゃんとか?」
「ああ確かに。葵ねーちゃんならそういうの得意かも」
「青いねーちゃんですか?」
わたしの青バージョンみたいな人でもいるということでしょうか?
これはもしかして……レッド以来のキャラ被りの予感?




