2話
ゆっくりと観光を続けていると、風光明媚なこの街を汚すような光景を目の当たりにしてしまって、一気にテンションが下がってしまいました。
お団子の味が落ちてしまいます。
「おら、とっととどっかいけー!」
「臭いんだよいぬっころ!」
「邪魔だっつーの!」
三人の男の子が犬を取り囲んで暴力を振るっていたのです。道ゆく人もちらりと視線は送るものの、止めようとする人は誰一人としていませんでした。
胸糞悪い。わたしは動物が好きですし、犬か猫かと問われたら『犬』と答えるくらいにはわんちゃんが大好きです。
犬の方も犬の方です。男の子と背丈がさほど変わらない大型犬でありながら、されるがままで逃げようとも、反撃しようともしません。
小さなため息を飲み込んで、わたしは接近します。笑顔を作って。
「いじめは感心できませんよ。君たち」
なるべく平静を装い、怖がられないように声をかけます。威圧的な態度では反発されるだけ。懐柔するには物腰柔らかくするのが一番良いです。
振り向いた男の子たちは一瞬キョトンとした表情を浮かべて、すぐさまそっぽを向きました。
「なんだよねーちゃん、かんけーねーだろ!」
「よそ者は口出しすんな!」
「そーだそーだ、これはオレたちの問題だ!」
おーおー、威勢のいい子たちだこと。これは教育が必要ですね。
着物なのでしゃがみづらいですが目線を合わせ、垂れてくる髪を耳にかけながらわたしは問いかけます。
「君たち、好きな子はいますか?」
「は? いきなりなんだよ?」
「いいから答えてください。わたしでもいいんですよ?」
すると、三人はお互いを見合ってから、怪訝そうな表情を浮かべつつも小さく頷きました。やっぱり子どもは素直で好感が持てますね。
この三人で一人の女の子を取り合っていたら面白いんですが、そんな邪心は置いておいて。
「そうですか、ならばその子はどこにいますか? わたしが蹴ったり殴ったりしたら大変だから……そうだ、泥水でもかけてあげましょう。名案です」
「は……はぁ?! なに言ってんだよ?!」
「そんなことさせるわけねーだろ!」
「教えねーよ!」
揃いも揃って猛反発。当然ですが。
「え、どうしてですか? わたしが大好きなわんちゃんが君たちに暴力されているんだから、君たちが大好きな子をわたしがイジメてもいいですよね? しかも泥水をかけるだけですよ?」
「「「…………」」」
黙ってしまいました。ちょっと過激でしたかね。
にっこりと笑って、男の子たちの頭を撫でました。手が足りないので忙しいです。
「もちろん冗談です。でもわたしがわんちゃん好きってことは本当なので、わかってもらえて嬉しいです」
「「「ごめんなさい……」」」
肝心な言葉も三人の口から聞けたので、この話はこれでおしまいです。