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10話

「──お、おばけだぁぁぁ!!!」


 と、驚いた拍子に言ってしまった見張りは、ちょっぴりムッとしたわたしからの猫パンチを鳩尾(みぞおち)に一発もらって、たったそれだけで泡を吹いて倒れてしまいました。よわ。


「いや、強すぎましたか。わたしが」


 的確に弱点を突けばこんなもんです。どや。

 わたしの美しい胸を張って自信満々に鼻息荒く後ろを振り返ります。

 どうですかブルー、わたしの強さは! だいぶ着物の動きにも慣れてきましたよ。

 物陰でわたしの勇姿を見ていたブルーは…………見ていませんでした。小さくなって身を守っていました。そもそも目が隠れているあの前髪ではよく見えなかったかもしれません。


「……まあいいです。このまま進みましょう」


 別に見てもらえなくてしょぼくれてなんていませんから。いませんからね!

 この胸の内に秘められし鬱憤(うっぷん)は中に複数いるであろう誘拐犯にぶつけるとします。

 ……本当にしょぼくれていませんからね?


「おじゃましますよ……っと」


 無礼ではありますが蔵の扉をノック無しに開け放ち、小声で侵入。

 中は埃っぽくて、汗と朽ちた木材の混ざったような得も言われぬにおいが充満していて、息苦しさとともに呼吸することをためらってしまいます。悪臭に慣れているとはいえ、やはり鼻が慣れるまでの新鮮な悪臭は堪えますね。

 空間の広さ的に狭くはありませんが、蔵としての役割も僅かに果たしているのか、木箱が複数置いてあって窮屈さを感じさせます。

 おまけに体格の良い男が4人ほど。そして奥の隅……そこには小さな男の子がうずくまるようにして倒れています。坊主頭なのであの子がわんちゃんの飼い主で間違いなさそうですね。


「あぁン……?」


 四人分、全員の視線が一点に収束します。純白の着物姿になって美しさに磨きがかかっているわたしの姿に見とれているようです。まともな言葉も出ない様子。

 状況を呑み込めたらしい、ひときわ体の大きな男性が「はっ」と小さく鼻で笑うようにして呼吸することを思い出しました。


「ビビりがまーたビビってらと思ったら、んだよ、ただの女じゃねぇか」


 外にいた見張りの驚く声は当然届いていましたか。お仲間が言うにはあの方はビビりらしいですね。わたしもそう思います。

 のしのしとゆっくり歩み寄ってきて、わたしを見下してきました。この方はわたしのことを幽霊だと驚くことはなくて一安心。


「わりーけど帰ってくんね? 俺ら忙しんだわ」

「換気したほうがいいですね。臭いので」

「……あ?」


 大男に見下されるという圧力をものともせず、言いたいことを言ってやりました。悪いことをしているので隠れる必要があるのはわかりますが、閉鎖空間に閉じこもりっきりでは気が滅入ってしまいます。


「とても忙しいようには見えませんよ。そこの子をいたぶって(たの)しんでいたのでは?」

「ま、そうだな……お前も加わるか? いたぶられるほうで──なっ!!!!」


 上からわたしの脳天目掛けて拳が降ってきたので半歩ほど下がります。

 勢い余った男性の拳は空を切り、届かなかった頭がちょうどいい高さまで降りてきたので両手で掴んで勢いよく引き寄せます。


「──ヌガッ?!」


 そして、わたしにみとれて伸びていた鼻の下に膝を叩きこみます。


「失礼。手加減はできても足加減はできないもので」


 どや。

 痛みに悶えて地面を転がり回る大男を見下し返しながら、言い放ちました。

 あーあ、呉服屋の方に怒られちゃいますね、これ。

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