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最弱魔王の鬼畜世界放浪記  作者: からころから
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八話 笑う子供と曇る空

 「おりゃあ!」


 ばしっ!


 振り下ろされた木剣が俵を巻いた丸太に直撃する。


 「イッテー!腕が〜」


 どうやら当たった場所が悪く、バルは痺れた手を抱えて飛び上がる。


 「馬鹿やろう、力み過ぎだ!もっと手の力を抜いて体全体で切るんだよ。」


 師範のゴブリンが喝を入れる。

 

 戦士(ウォリアー)のクラスを持ったゴブリンはこの村には居ないが、別の集落から助っ人として村に来ている。


 こうして周辺の集落とのつながりを作っておく事で、有事の時や不作の時に助け合って生きていくのである。

 

 助っ人に来たゴブリンは集落で毎日肉を食えると言う全ゴブリンが羨む特典を受けられるので、互いに損のない関係を結べるのだ。


バシっ!バシっ!バシっ!


 「良し!今日の訓練はここまで!」


 「ハァ、ハァ、ありがとうございました。」


 やっと訓練が終わった。


 見上げると太陽が半分以上登っていた。


 急いで集落の中央にある、広場まで駆け出す。


「おっそーい!待ってたんだからね。

 そうよねカーラ!」


「アハハ、あんまり気にしないで、僕たちも今来た所だから。」


 ひと足先にカーラとニーナが広場に着いていた。

 「なんだよ、先に修行おわったのかよ。いいなー」


 「僕は今日で修行は終わり。やっと魔力を操ることが出来たんだ。

 今は低位魔法も使えるようになったよ!」


 「私は軽治癒(ライトキュア)をつかえるようになったんだからね! 

 これでどっかのお馬鹿さんが怪我しても治してあげるわよ。おやつと引き換えにねー」


 ニーナもカーラもどうやら修行を終えたらしい。

 胸がモヤモヤする。


 「あんたは終わったの?さっきから羨ましそうに見つめて〜」


 「うぐっ」

 痛いところを突かれた。


 実を言うとまだ技の習得まで、後2日ぐらいかかりそうといったところだ。


 本来なら魔法系は習得が難しく、剣士よりも成長が遅いはずなのだがこの2人は難なく習得して見せた。


 その事実がバルの心を締め付ける。


 しかし、この集落のような大きさで、戦士、魔法使い、僧侶の才能があるゴブリンが生まれるのはまさに偉業であった。


 集落を歩いていても声を掛けられるし、他の集落にも噂になる程だ。


 それでもカーラとニーナが自分より先に行っている事にだんだんと気持ちが沈んで来る。

 

 話題を変えようと考えるがいいネタが思いつかない。ここで一つ考えついた。


 「なあ、もう俺らこんなに強くなったんだから、森に行かねーか?」


「だめだよバル、森にはゴブリンを簡単に殺すモンスターがいっぱいいるんだ、最低でも大人のゴブリンと一緒に行かないと!」


 実際、バルも分かっていた。


 森には大人ゴブリンを簡単に殺せる魔物がいっぱい居て、子供が森に入ることは死を意味すると言うことを。


 しかし、自分のプライドがその考えを消そうとする。ここで引いたら唯一2人に優っている度胸すらも否定される。


 だからここで引くことが出来ない。


「俺たちもう職業も取っただろ!他の大人にも引けを取らねーよ!」


 頼む、誰か否定してくれ!


自分の中の計画はここで反対されてしぶしぶ食い下がる事で勇敢さを誇示して面子を保とうとしていた。


 しかしその計画が遂行されることは無かった。


 「私は賛成。私も冒険行きたかったし」


 「ダメだよ!」


 いつもナヨナヨしているカーラが聞いたことのないぐらい力強い声を出した。


 「いくら村では強くても所詮僕たちはただの子供だ!

 森に行くのは絶対に反対するよ!」


 「何?あんた怖がってるの?

 大丈夫よ森は前に大人と行った範囲で行くし、道も覚えてるわよ。

 それに私は回復できるし、バルは前衛をして。あんたは魔法を使えるじゃない。

 バル、あんたも何か言いなさいよ。」


 ダメだ、ダメって言わないと、ダメって言うんだ。


 「ああ……その、通りだな。」


 自分は情けないのか、自分自身が嫌になる。


 バルがそんなことを考えている間にも会話は進んでいく。


 「カーラが嫌なら私とバルだけでも行こう。」


 これがトドメとなったらしい、カーラがついに根を上げる。


 「分かったよ…でもこのまま行くのは危ない、修行の途中でポーションを作ったから。

 まあ、師匠が作ったのより劣るけど、ないよりはマシだと思う。」


 「何よー、あんたもノリノリじゃな〜い」


 だんだん不味い方向に転がっていく。


 もう後には引けない、急いで狩班の使っていた防具を取りに行く。


 剣や防具、薬草など一通りの装備を整えて広場へと向かう。


 他のやつに見つからないよういつも通っている道を駆け抜ける。


 どうやら2人ともまだ来ていないらしい。


 1番ノリなのに全然嬉しくない。


 ニーナとカーラもかけてきた。


 一度大きく深呼吸する。

 そして誰も気づかないくらいに小さな声で呟く


「俺が絶対にこいつらを、命を賭けて守って見せる…」


 不意に視線を感じた、視線の出元を見たが一際大きな丘が自分たちを見下ろしているだけだった。


 「どうしたの?」


 ニーナが小首を傾げながらバルに尋ねる。

 

 「なんにもねーよ。さあ、ゴブリンの勇者バル率いる勇者パーティーの出発だ!」


 空には曇が掛かり、今にも泣きそうだ。空はバルの心境を写しているようだった。

 そうしてバル達は森へと足を踏み入れるのであった。

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