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最弱魔王の鬼畜世界放浪記  作者: からころから
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十三話 子供の背中

 終わったな。

 どう考えても致命傷だ。


 (だがあのデバフを掛けられていても我とここまで打ち合えたのは称賛しても罰は当たらん……)


 バエルは今だ大量の血を流しているバルから視線を移す。


 ゆっくりと振り返り、意味のない回復魔法をかけ続けているニーナと未だ整理のついていない魔法使い子ゴブリンを見据える。


 彼女の目には自分を殺そうとする者より血を流すバルしか映っていない。


 「カーラどうしよう…バルの血が止まらないよ…」


 ニーナは嗚咽が混じった掠れ声でカーラに助けを求める。


 「ニーナ!君はバルに直接魔法を流し込むんだ!」


 「ほう、君がリーダーなのかい?

 だが無駄だ……彼はもう助からない。

 それは君たちが1番分かっているんじゃ無いかな?」

 

 「黙れっ!ニーナ、バルのもとに向かうんだ!

 その間の時間稼ぎは………僕がやる」

 

 カーラと呼ばれた方は魔法使いだ。

 魔法使いとはそれなりに知力が無いと就くことができない。


 なのに自分が囮となり、大切な回復役をもはや助かることのない仲間の方に回す。


 くだらん。


 どうして生存率の高い方を選ばん。

 最善はバルを見捨てて、魔法使いの最初から習得出来る魔法の《煙幕(スモーク)》を使って逃げるべきだ。


 それほどまでに仲間が大切なのか。


 バエルは少しだけ彼らを羨ましく思う。カーラの目に宿る覚悟は並大抵のものでは無い。


 彼らの勇気を昔の我に分けて欲しいほどだよ。

 我は……あの時……むっ、また変なことを。

 おそらく《思考鈍化(ディレイシンク)》のせいなのだろう。多分……

 《呪夜の刃(カオスナイトブレード)》に魔力を流し込み、バルとの戦闘で減った耐久値を回復させる。


 後ろで何か聞こえた様な気がする。

 嫌な気がして振り返ると、



 バルが居た。


 バルは口だけでなく耳、鼻、目、その全てから血を流してなおそこに立っていた。


 血は何とか止まってはいるが傷口がいつ開いてもおかしくない。


 何より今バルは気が狂いそうなほどの痛みを感じているはずだ。


 はずなのに、バエルはこの得体の知れない自分よりも弱いはずの生物に恐怖した。


 目は血が吹き出し朱に染まり、歯は強く噛み過ぎて所々砕け散ってこちらも白い部分が見つからないほど血濡れている。

 

 しかし目には殺意が滾り、顔は痛みではなく憤怒によって歪められている。



 そこには確かに1匹の“恐ろしい鬼“がいた。



 バエルが大きく飛び退く前に“恐ろしい鬼”の手はバエルの首を握りしめる。


 そしてあまりにも強く握り締められバルの手の皮が裂けてしまった拳を憎き相手へと叩き付けた。


 

 大気が震える様な鈍い音を立ててバエルは吹き飛び、後方の木に叩きつけられる。


 肺の空気が消失し、過呼吸に陥る。

 大きな口を開けて酸素を肺へと送り込む。


 頭を殴られて意識が朦朧としてくる。

 残った意識を総動員して回復魔法を発動させる。


 「《重治癒(ヘビーキュア)》」


 本当は《邪悪完全治癒パーフェクトイビルキュア》を使いたいが、あれも魔王専用技のため使えない。

 しかし、こんな状況じゃ回復出来ることへの感謝が不満より勝る。


 見上げると自分に恐怖を感じさせたあの“恐ろしい鬼“は事切れたように倒れ伏していた。


 カーラとニーナがバルを守るようにバエルとバルの間に立ち塞がる。


 もはや子供だからの手加減や情けは敵意と殺意、ほんの少しの敬意を残してバエル=オルゾビュート・デメキシスから消え失せた。


 「《多重火炎槍マルチブルファイアースピア》」


 上空に25発の炎の投擲槍が出現する。

 槍の切先は全てバルに向けられている。


 「さあ、防いで見せろっ!鬼の子供達よ」




 「《浄化の繭(ピリファイドコクーン)》!皆んなで一緒に村に帰る。

 誰も…傷つけさせない!」


 ニーナが白銀の糸で作られた半透明の(まゆ)を展開する。


 「最後まで諦めない、バルみたいに戦うんだ!  

 《多重魔力弾マルチブルマナミサイル》‼︎」


 カーラの《多重魔力弾マルチタブルマナミサイル》は的確に《炎の槍(ファイアースピア)》を迎撃するが、1発の威力の差がバエルに負けているから威力を7割程抑えるに止まっている。


 しかし、取り残した物はニーナが作り出した白銀の繭により受け止められる。


 炎の槍は最初こそ勢いは良かったものの、ニーナとカーラの魔法により徐々に数を減らされていくていく。


 最後の槍が白銀の繭を朱に染め上げながら、繭と共に空中に霧散した。


 しかし、魔法と魔法の激しいぶつかり合いにより、辺りには砂埃が舞い、2人の視界を妨げる。


 「ニーナ、そこを動かないで。《風散(ウィンドバースト)


 術者を中心に風が吹き荒れて立ち込める塵を吹き飛ばす。


 カーラは素早く謎のリザードマンがいた位置に魔法を叩き込むーのを中断した。



 (いない?)


 弾かれたように辺りを見渡す。


 (いない、逃げた?リザードマンの方が優勢だった。

 可能性は低いけどバルの一撃が刺さっていた?)


 その時、ほんの小さな音が聞こえた。

 数多の何かが空を切り裂く音が。


「どけぇぇぇぇ!」


 カーラは乱暴にニーナを突き飛ばす。


 体の下半身をを強い衝撃が襲い、火に焚べられたように熱くなる。

 次に熱さと引き換えに激痛が走る。

 

 声すら出ない。


 (ああ、もう死ぬのか。あの時バルとニーナを無理にでも止めていれば。)


 幼い頃から一緒だった。

 大人になってもそれは変わらないと思っていた。

 離れたく無いし、離れて欲しくない。

 でも、


 (僕の所には来て欲しく無いなぁ。

 バルもまだ死んでは居ない、村まで連れかえればもしかしたら助かるかも知れない。


 ふふっ、こんな時にも2人の事を…)


 体から生命力が抜け落ちていく。


 魂は昇華し、永遠の休息地に向かってゆく。



 途切れゆく意識を手繰り寄せ、最後に思い残した事を紡ぐ。


 (ゴメンね……バル、先手を打たせてもらうよ)


 自分を抱きしめる小さな腕。

 冷たくなりつつある体に温かく心地いい。


 「ニーナ、好きだ、君を愛している」


 小さな、しかし力のこもった声を愛する人に伝えて1人の小さなゴブリンは愛する人の腕の中で眠りについた。

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