十二話 狩りの始まり
「後は待つのみか…さてどこに隠れようか?」
ゴブリンはそれなりに鼻が良かったため風下にいてもすぐばれる。
とりあえず子ゴブリンの予測進行ルートを頭に思い浮かべて風上に移動する。
(もうすぐ偽ウサギの地点まで到着するはずだが)
《千里眼》
偽ウサギがいるところまで視点を合わせるが生物らしいものは見当たらない。
(どこに行った?《千里眼》は市街地なんかでは使い勝手はいいんだが。
森になると木の葉一枚透視するのに魔力を使う。
どうにかならないかなぁ〜)
「居ないね魔物」
(っ⁉︎)
しまった気づかずに近くまで接敵を許してしまった!
急いでその場から離れねば!
そのまま弾かれる様に声とは逆方向に走り抜ける。
パキッ!
つい足元が疎かになり、細い木の枝を踏んでしまった。
「《虚像鏡》!」
自分が身を潜めていた草むらにジャンピングラビットを作り出し、草むらから飛び出すよう指示する。
そのままバエルは振り返らず一目散に走り抜ける。
バエルは自分の幸運に感謝する。
子ゴブリンどもの視線はジャンピングラビット(偽)に釘付けで、自分には向いていない。
バエルは木の影からジャンピングラビット(偽)を操り《思考鈍化》の効果範囲まで誘い込む。
そのままでは追いつかれそうなので、子ゴブリンどもに見えない位置で魔法を解除し、少し離れた場所で再度《虚像鏡》を発動させる。
そうして予定地の狩場まで誘い込むことに成功した。
危なかった。
目を離したすきに予想ルートから外れていた。
これだから子供は苦手なんだ。
ジャンピングラビット(偽)を見やすい位置に配置。
子ゴブリンどもはそんなことを知らずにじりじりと近づいている。
「《魔力弾》」
一体の子ゴブリンが立ち上がり魔力の塊を発射する。《魔力弾》はジャンピングラビット(偽)を巻き込み、小爆発を起こす。
(今だ!)
「ピギー」
《虚像鏡》が消えないように防御系魔法を多重発動させることによって、紙同然の防御力を誇るこの魔法をなんとか守り抜き、ジャンピングラビットの断末魔をあげさせる。
「よしっ!死んでるぞ。
すぐに血抜きして村に帰るぞ!」
そう言ってもう1人の子ゴブリンがジャンピングラビット(偽)を血抜きするため歩き出した。
(まだだ、まだ引きつけろ……今!)
《虚像鏡》がかき消え呆気に取られている戦士風の子ゴブリンに向けて魔法を叩き込む。
「《呪詛の宝珠》」
《呪詛の宝珠》は威力自体は弱いものの、激痛と呪いを付与する。
この呪いが何とも厄介で、対象のステータスの低下や盲目、鈍足と気絶値の持続的上昇が対象に襲いかかる。
戦士風の子ゴブリンが痛みのあまりもがき苦しむ。
魔法を放ったこっちも同情してしまうぐらいの苦しみ様だ。
手足をばたつかせ、口内を切ったのだろう口から血を流している。
「バルっ!」
女の子ゴブリンが悲痛な声で叫ぶ。
(戦士風の子ゴブリンはバルか)
などどうでもいいことを考えてしまう。
《思考鈍化》は敵味方関係なく効果を発揮してしまうのがデメリットだ……
対象を指定出来たら良かったのだが。
っと、また違うことを。これでバルの動きを封じた。
全速力でバルの横をすり抜け、残りの子ゴブリンに攻撃を仕掛ける。
距離は15メートル。それをバエルはどんどん縮める。
「《軽治癒》!」
「お前がヒーラーだな?」
2体のゴブリンの内、回復魔法を使った子ゴブリンをバエルは先に殺すことを決意して進行方向を変える。
「ニーナに近寄るな‼︎《魔力弾》」
魔法使い子ゴブリンが放った《魔力弾》を撃ち落とす。
(あちらも回復役を潰されたら詰むことを分かっているらしいが、そのような練度の低い魔法で止められると思うなっ!)
炎の槍が《魔力弾》を貫くにはとどまらず魔法使い子ゴブリンが居る手前に着弾、火の手を上げて行手を阻止する。
その間にバエルはニーナの間近まで迫っていた。
手に闇の魔力と少しの呪いの力を集める。そして作り出すのは武装系魔法の《呪夜の刃》。
その威力はさることながら切った相手の防御力を低下させて、全ステータスを小低下させる呪いを付与する。
そして闇夜の様に黒い剣と化した己の腕をニーナへと振りかぶる。
黒の刃は肩口から胸部を浅く切りつけた。
バエルは心の中で大きく舌打ちする。
ここに来て少しの憐れみの感情で仕留め損ねた。
追撃を、とバエルが思うより早くバルが盲目状態から抜け出し、バエルの背中に刃を突き立てようと殺意の籠った刺突をお見舞いする。
バエルは間一髪でこれを防ぐ。
(呪いによりステータスが低下していても気力で押しているとでもいうのか!)
バルは何度も剣を振るう。
その度鉄の剣と闇の剣が火花を散らす。
「うぁぁぁぁあ!!」
バルは思考鈍化と呪いが意識を蝕むことで、まともに物を考えることが出来なくなっている。
「くどいわっ!」
バエルはバルの大振りに合わせて、持っている剣を弾き飛ばす。
「シッッ!」
黒い剣筋がバルの腹に線を引く。
ドバドバと血と臓物が地面を叩いた。