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外へ!

作者: 柚緒駆

 私は嘘をついた。


 きっかけはテレビのバラエティ番組の企画。動物と話せるアニマルコミュニケーターの私に、スズムシの鳴き声の意味を解読して欲しいというのだ。


 あまりにも馬鹿にしている。私の能力はそんなことに使うためにあるのではない。


 そう怒るべきだった。


 だがそのとき私は苦境に立っていた。ネットでは嘘つきだ詐欺師だとバッシングされ、経済的にも困窮していた。「大人の対応」を自らに課し、笑顔でギャランティを受け取ることを選択したのは仕方なかったのかも知れない。


 スタッフに連れて行かれた部屋ではスズムシが元気に鳴いていた。準備が整いカメラが回り出す。私はスズムシの声に耳を傾け、同調しようと試みた。


 思えば犬や猫ならともかく、昆虫と同調しようとしたのは初めてだ。昆虫の出す鳴き声は「声」ではない。ただの音である。しかしその音を出すに至る意思はあるのかも知れない。私は精神を沈め研ぎ澄まし、スズムシの意思の世界に飛び込んだ。


――リーンリーンリーン(準備は整いました)


 聞こえる。スズムシの心の声が聞こえる。


――リーンリーンリーンリーン(よし、では計画通りに進めよう)


――リーンリーンリーンリーンリーンリーン(しかし本当にいいのですか、実験が成功すればこの建物にいる人間は大半が死亡してしまいますが)


――リーンリーンリーンリーンリーンリーンリーン(いまさら何を言っているのかね。くだらぬ同情は捨てたまえ。文明の発展に犠牲は付きものだよ)


――リーン(……わかりました)


 私は顔を上げてディレクターを振り返った。ディレクターはこちらのコメントを待っている。


「恋の歌ですね。でも想像以上に複雑です。少し頭を整理したいので、外の空気を吸ってきてもいいですか」


 ディレクターは少し不満そうだったがカメラを止めた。私は静かに、しかし小走りにドアへと向かった。トイレに行くとでも思われたかも知れない。だが構うものか、離れるのだ、いまはここを離れるのだ。後のことなど知らない。他の者のことなど知らない。外へ、外へ、外へ!

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