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【書籍化】俺は義妹に嘘をつく  作者: 城野白
5章 愚者たちのスタートライン
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98話 Wデート

 十一月も中旬になってくると、秋もいよいよ終わりだなと感じる。

 街路樹は色付いて葉を落とし、せっかちな世間は既にクリスマスの色を帯び始めていた。


 隣を歩く少女は、この間買ったカボチャ色のカーディガン。その上からコートを羽織って、頭にはクリーム色のニット帽、寒くないようにマフラーも巻いている。


「寒くないか?」

「うん。いっぱい着てきたから大丈夫」


「カイロ持ってきたから、冷えたら言えよ」

「はーい」


 ふわふわ間延びする返事をする悠羽は、まだどこか眠そうにしている。瞬きのスピードがいつもよりゆっりで、時折俺の腕に頭を預けてくる。


「寝れてないのか」

「楽しみで寝れませんでした」


「寝れなかったら楽しめないだろ」

「わかってますぅー。でも寝れないの」


「難儀だな」

「六郎が添い寝してくれたら……寝れるかも」


「ダウト」

「ちぇ」


 可愛く舌打ちして、ふわっとあくびをする。その息が白くて、驚いたように彼女は俺を見た。


「冬だな」

「だね」


 短く言うと、悠羽は嬉しそうにマフラーで口元を隠す。細めた目が見つめるのは、伸びやかに広がる鰯雲。


「あっという間に時間が過ぎていっちゃう」

「秋も冬も、すぐに終わる――か」


「うん」


 いつか悠羽が言っていた。俺と一緒にいると時間が早く過ぎると。

 俺はどうだろう。悠羽といると、1人でいるより考えることが増える。やることが増す。惰性で流していた部分をちゃんと感じるようになって、むしろ一日一日は長く感じる。


 それなのに、季節の変わり目に振り返るとその呆気なさに驚いてしまう。


「でも、ちゃんと進んでるよね。私たち」

「そうだな」


 日々をなんとかやりくりする中で、よりより明日を掴むために。俺も悠羽も、この半年で成長してきた。

 今日よりもよい明日を。その繰り返しで、次の季節も越えていける。


「圭次のやつ、ちゃんと起きてるんだろうな」

「連絡返ってきてないの?」


「そうなんだよ。気づいてないだけならいいんだが」


 あの量産型大学生とは長い付き合いになるが、あいつは意外と遅刻癖がある。なぜか大事な日ほど遅れるので、こういうときはメッセージを送っておくのだ。

 既読がついていないのを見るに、今頃は目的地に歩いているところだろうか。寝坊ってことはないだろうし、心配するだけ無駄か。


 いざとなったら奈子さんだけ拾って3人で行けばいい。圭次は留守番が上手い。


 そうこうしていると、レンタカーの看板が見えてきた。

 集合時間にはまだ余裕がある。とりあえず店の前で、2人を待つことにした。


 他愛のない会話をしていると、人混みの中から存在感のある女性が現れた。

 ネイビーのロングコートをすらっと着こなし、ワインレッドのセーターを内側に着ている。その対比にバランスを崩されることのない、均整の取れた顔立ち。歩き方から滲み出る底知れない品性。


「おはようございます。お待たせしてすみません」


 はんなり笑う奈子さんは、前見たときよりずっと綺麗になって見えた。いよいよあのポンコツの彼女にしておくのは惜しい。

 どっかの高身長イケメン男子大学生でも捕まえて幸せになってほしい。圭次の墓は俺が掘る。


「おはようございます。圭次は別なんですね」

「はい。ここに集合ということで」


 軽く挨拶を交わす俺の横から、悠羽が飛び出した。


「おはようございます、奈子さん。すっごくお洒落ですね」

「ありがとうございます。少し気合いを入れてしまったので……空回っていないか不安だったんですけど」


「そんなことないです!」

「嬉しいです。悠羽さんも綺麗ですよ」


「やった。ありがとうございます」


 ふわふわはんなりした癒やし空間に、俺のような邪悪が混ざるわけにもいかない。さりげなく距離を取って、静かに眺めておく。


 しかし悠羽のやつ、年上女子からの受けがめちゃくちゃいいよな。

 小牧にも可愛がられてたし、加苅とはマブダチみたいだったし、奈子さんには後輩としてよくしてもらっているようだ。

 よく考えれば同級生の保住志穂さんにも大切にされていたし、あいつの可愛さは同性に刺さるのかもしれない。


 でもって圭次の野郎は、しっかり遅刻か。仕方がないから、車借りて家を襲撃しに行くか。窓ガラス何枚か割ってやれば起きるだろ。


「――ぎ、りぎりセエエエエフ!」


 あいつの家のつくりを思い出していたら、聞き慣れた声が後ろでした。振り返って、極大のため息を落とす。


「遅刻だバーカ」

「いやまじ、ほんとすまん。サブはどうでもいいが、奈子ちゃんと悠羽ちゃんには……って俺の登場に気がついてないっ!?」


 肩で息をしながら、圭次は自慢の茶髪を整えて格好を取り繕うとする。だが、そんな彼を気にも留めず女子2人は会話に熱中していた。


「彼氏なのに気がついてもらえなくて草」

「ああああああ……」


「なあ圭次。お前はいい夢を見てたんだよ。そろそろ目を覚ませ、お前にはもっとケバい女が似合ってる」

「それを言ったら、サブに悠羽ちゃんも贅沢だろ!」


「贅沢、っつわれないように努力してるからな。俺は」

「お、俺だってなぁ」


「遅刻するじゃねえか」

「もうやめて……今日は勝てない」


 がっくり肩を落として、ゾンビみたいに奈子さんの方へ行く圭次。そこでようやく気づいてもらえたらしい。


「おはようございます。圭次さん、遅れちゃだめって言ったじゃないですか。今日は私たちだけじゃないんですから」

「いつもより気合い入っちゃってさ。準備に時間かかってしまいましたごめんなさい」


 ぺこっと頭を下げられて、悠羽は両手を左右に振る。


「いえいえ。まだそんなに経ってないですし」

「そいつを甘やかすな悠羽。とどめを刺せ。『圭次さんなんか嫌いです』って言え」


「てめえは悪魔か!?」


 後ろから耳打ちしたら、即座に圭次が反応した。聞こえていやがったらしい。

 雑に笑顔を作って、店を指さす。


「まあいいや。早く行こうぜ」


 冗談言って罪悪感を減らしてやろうっていう、親友なりの気遣いなんだよな。

 本当はボコボコにして遊んでるだけだけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際ねえ。今年も半年過ぎてしまった。好きな人がいてもいなくても、実は時の過ぎるのは速かったり。 友人は、きっと量産型ではない… 彼に合うように作られた、カスタムメイドなんだ。
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