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【書籍化】俺は義妹に嘘をつく  作者: 城野白
5章 愚者たちのスタートライン
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97話 はじめまして

 悠羽の友達に面貸せ (意訳)と言われて、即決で会うことにしたのは、前々から俺も会ってみたいと思っていたからだ。


 不登校から復帰した悠羽と変わらず話してくれる、大切な友達。何度か話に聞いてはいたが、まさか向こうから接触してくるとは。


 仕事を終えた金曜日、家を出て駅前のファミレスに行く。

 花金みたいな顔をしているが、フリーランスなので明日も働きます。週七労働はデフォルト。


 悠羽たちは先に着いていると連絡があったので、店員さんに伝えて奥の席へ。

 見慣れた制服に身を包んだ、2人の少女がいた。テーブル席で隣に座り、楽しげに話している。近づいて行くと悠羽が気づいて、片手を挙げた。


「お疲れさま」


 ぱっと友人さんも顔をこっちに向けて、立ち上がると折り目正しく挨拶する。


「お忙しい中ありがとうございます。ゆはの友達の、保住志穂です」

「いつも悠羽がお世話になってます。三条六郎です」


 ぺこりと頭を下げて、席につく。

 2人も来てすぐらしく、テーブルの上にはメニューが広げられている。


 志穂さんが俺の視線を察して尋ねてくる。


「あ、六郎さんも見ますか?」

「2人が決めてからでいいよ」


「はい。ゆはは決めたんだよね」

「うん。私はかぼちゃのケーキ」


「同じのにしよっと。じゃあはい、どうぞ」

「どもども」


 メニューを受け取って、チョコケーキに即決。店員さんを呼んで注文して、メニューを脇に片付ける。


 さて、と一息ついて前を見る。どうやって会話を切り出したものか。見知らぬ女子高生と話すことになるとは思わなかったので、内心けっこうビビっている。どんな話題がいいのだろうか。

 考えていると、志穂さんが口を開いた。


「六郎さんがどんな人か、ずっと気になってたんです。ゆはが恋するとかって、あんまり想像できなかったから」

「へえ。高校入ってからそういう話はなかったんだ」


 意外に思って言うと、少女たちは揃って首を縦に振る。


「そうなんですよ。ゆはって可愛いけど、女子とばっかりいるから敬遠されがちで」

「そう。彼氏いたことないの。ほんとだから」

「わかったわかった」


 なにやら必死に主張している悠羽。別に元カレがいてもいいけれど、わざわざ主張してくれるの可愛いな。おい、可愛いじゃねえか。

 激甘な空気を察してか、志穂さんが咳払いして話を戻す。


「それでですね。六郎さんが初彼氏じゃないですか。だから舞い上がって、その……いろいろと暴走してるんじゃないかと不安で」

「ああ、なるほど」

「なるほどってなに!?」


 俺が頷くと、心外そうに悠羽が抗議する。


「いつも振り回されてるだろ、俺が」

「うぐ……確かにそうかも」


 お願いされたら絶対に断れないマンと、超積極的ガールによる一つ屋根の下。普通に危険な匂いしかしない。まだキスで済んでるのが奇跡的だ。

 それもひとえに、俺の精神力によるものだ。


「苦労されてるんですね」

「それなりに」


 同情するように言う志穂さんは、どこかほっとしたようであった。きっと俺が肉食系ではないことに安心したのだろう。


 大事な友達が雑に扱われていないか、ってところか。

 そりゃまあ、不安になるよな。親が離婚して兄に引き取られて、そいつが義理で、両想いになって。傍から見れば意味不明で、相手の男がやばいヤツなんじゃないかと思うのも当然だ。


「六郎さんが優しそうな人でよかったです」

「俺も、志穂さんみたいな友達がいてくれて安心した」


 ふわりと軽い笑みを交換して、それからずいっと志穂さんが身を乗り出す。


「で、本題なんですけど……ゆはのどこが好きなんですか?」

「ちょっと待って、それ私も聞きたい」


 ずずいっと悠羽まで身を乗り出して、上目遣いでのぞき込んでくる。


 女子高生2人に追い詰められて、そんな中でケーキが配られてくる。逃げ場は見つからないし、急いで脳を回転させる。

 なるべく恥ずかしくなく、かつ2人に納得してもらえるそれっぽい理由を。


「あー、恋バナが本題?」

「はい」


「女子って本当にそういう話が好きだよな」

「キュンキュンしたい生き物なんですよ」


「理解できん……」


 適当な会話で引き延ばしつつ、眉間に指を当てる。熟考しつつ、軽く悠羽にアイコンタクトを取る。伝わったと信じて、観念したふうに言う。


「そりゃこんだけ可愛かったら、仕方がないだろ」

「うわぁ~、ごちそうさまです」


「はぁ……」


 満たされた顔で頭を下げる志穂さんに聞こえるよう、困ったようなため息をつく。

 意図を伝えたはずの悠羽もなぜか頭を下げており、じっと動かない。少々効きすぎたらしい。


 ケーキを食べている間中ずっと、馴れ初めだの、付き合うきっかけだのを聞かれる羽目になった。俺は上手いことそれを答え、悠羽はそれを聞いては照れて志穂さんをぺしぺし叩いていた。


 一体全体、なんの時間だったんだろうか。

 ざっくりまとめると、一番暴走してたのは志穂さんだったって話だな。


 ま、いい友達がいてくれて安心だけど。







 志穂さんと別れて2人の帰り道。

 鞄を前後に振りながら、上機嫌の悠羽と手を繋いで歩く。


「今日はいい日だったな~」

「ほくほくしやがって」


「志穂がグッジョブだったね」


 俺から様々な惚気話を引き出した友人に、最上級の感謝をする悠羽。


 志穂さんとの会話を思い出しながら、ずっと考えていたことを口にする。適当にさばくことはできたが、どこかやりづらかったあの少女について。


「あの子、めちゃくちゃ賢いだろ」

「うん。志穂って天然そうだけど、実はすっごく頭がいいの」


「だよなあ」


 俺が不快に思わないギリギリまで踏み込んで、いざとなればフォローを入れる準備もしていただろう。天性の世渡り上手に見られる会話のしやすさがあった。

 そういう相手は騙すことはできても、気を抜くと本心を吐露してしまいそうになる。要するに苦手だ。嫌いではないが、警戒すべき相手である。


 悠羽が手をちょんちょん引っ張って、首を傾げて見つめてくる。


「それで、さっきのはなんだったの?」

「さっきの?」


「とぼけても無駄です。目が合ったの、覚えてるんだから」

「嘘つく合図に決まってるだろ」


「そんな合図決めたっけ?」

「決めてない。アドリブで察せ」


「むりですぅ」


 唇をとがらせた悠羽は、はっと気がついたように目を丸くする。


「じゃあ、六郎は私が可愛いから好きなんじゃないの?」

「理由の一つではあるけどな、別に可愛いだけなら他の誰かでもいい痛いいたいいてえ……!」


 繋いだ手を軽く解いて、手の平をつねられた。

 むすっと膨れた悠羽のジト目が突き刺さる。


「悠羽が一番可愛いです」

「よろしい」


 大仰に頷いて、「それで?」と続きを促してくる。

 適当に流してまた別の機会にしようかと思ったが、せっかくだし言ってしまうことにした。こういうのは、なんでもない日の方が言いやすい。


「お前は俺の代わりに泣いてくれるからな」

「……え、なにそれ?」


「そのまんまの意味だよ」

「うそ。代わりに泣くって……どういう意味なの?」


「わからないならいい。気にすんな」

「えー、気になるんだけど」


「わからないほうが可愛いぞ」

「うっ、それすっごいずるい」


 だらだらと言い合いを続けながら、亀のように家に帰る。


 いつか俺の言葉の意味が、彼女にわかる日が来るのだろうか。どっちだっていいな。

 それでなにかが、変わるわけでもないから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の代わりに泣いてくれる、かあ。さすおに、では自分の代わりに怒ってくれるというのがあったなあ。 どちらも、人間的に一部欠如している部分が有って、相手がそれを補ってくれる、という所が愛おしさ…
[良い点]  貴重な六郎の弱音?  代わりに泣いてくれる、ということは泣きたい時が有る、という事に他ならない。 [気になる点]  お外だとナチュラルバカップルぶりが無差別に周囲にダメージを与えそう。 …
[一言] 投稿ありがとうございます。悠羽ちゃんは理解しようと努めてくれるのが本当に素敵です。
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