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【書籍化】俺は義妹に嘘をつく  作者: 城野白
4章 最後の嘘は破れない
87/140

87話 片想い

短めです

「あの……お久しぶりです」

「はいもしもし。悠羽さん?」


「はい」


 スマホから聞こえる穏やかな声に、悠羽は若干の申し訳なさを感じる。

 というのも夏祭りのとき、六郎の嘘に彼のことまで巻き込んでしまったからだ。結局、悠羽は六郎と血縁ではなく、今では仲良くやっている。


「今日はちょっと、相談したいことがあってですね」

「ロクのことかい」


「そうです。でも、その前に言っておかないといけないことが……」

「聞いてるよ。結婚できるそうじゃないか」


「けっ――結婚!? で、できますけど、今はそうじゃなくて」


 知られていた驚きと、ド直球な表現に慌ててしまう。電話越しにはっきりと、利一は笑った。数ヶ月前と変わらない、優しい声で。


「あっはっは。ま、このくらいの意地悪でおあいこにしようか」

「その節は本当に、出過ぎた真似をしてすみませんでした」


「いや、いいんだ。悠羽さんの気持ちが嘘だったわけじゃないんだから」

「あ、ありがとうございます」


「全部ロクが悪い」

「私もそう思います」


 深々と頷いて、あの嘘つきを内心で非難する。利一も「まったく、あいつは滅茶苦茶なやつだよ」と呆れている。


「それで、本題はなにかな」

「六郎のことなんですけど……ええっと、あの人は私と一緒にいられるだけでいい。って言うんですけど、それって本当なのかなって」


「惚気てる?」

「――え、いえ! そんなつもりじゃ……」


「冗談だから気にしないで。しかしその質問を僕にするか」


 どこか呆れたような笑いに、悠羽は思い出す。利一もちょうど今、美凉との距離を考えているところなのだ。進展しているらしいが、まだ完全に交際してるわけではないらしい。


「ロクの考えを当てることはできないけど、可能性ならいくつか思いつくよ」

「知りたいです! 教えてください」


「もちろん。まず『好きな人の手前、自分の欲を隠している』っていうのは、あるあるだよね。相手に悪く思われたくないって気持ちが先行すると、興味ないフリをしてしまうんだ」


 利一の言葉を受けて、悠羽は少し考え込む。果たして六郎はそれに該当するだろうか。


「隠している……わけじゃないと思います。六郎はいつも、戸惑って見えるから」

「なら次。あまり聞きたくないかもしれないけれど、いいかな」


「はい。聞きます」

「ロクが悠羽さんの保護者気分でいる可能性だね」


 ひゅっと喉が閉まる。ずっと抱えていた不安を突かれて、悠羽は胸に手を当てた。

 六郎が彼女を妹ではないにしても、それに準じるものだと思っていたら。その愛は、悠羽の願うものとは異なる形をしている。


 なにを言われても大丈夫だと思っていたのに、気を張らないと泣いてしまいそうだ。


 黙ってしまった悠羽に、利一が咳払いして語りかける。


「でもその可能性はたぶん低い。と、僕は勝手に思ってる。だって悠羽さんは、ロクのことを守ってきたんだろう?」

「私が……六郎を?」


「そう。精神的な意味でね。だからむしろ、ロクは悠羽さんを持ち上げすぎてるんじゃないかな」


 側にいてくれればそれでいい。

 それは愛の究極系にも思えるが、しかし、見方を変えれば他の考え方もできる。

 すなわち、


「片想いなのかもね」


 だから多くを求めず、ただそこにいてくれるだけで満足してしまう。

 利一は静かになって、悠羽の反応を待った。


「……六郎が、私に?」


 声に出してみて、その突拍子もなさに少女は何度も瞬きをした。だって、片想いはずっと自分がしてきたことだ。


 二年越しに再会した彼に恋をして、焼けるような痛みを感じていた。絶対に叶わない恋だと知っていながら、やめることができなかった。

 振り向いてもらおうとしていたのは、悠羽だった。六郎もそれは察していたはずだ。彼は自分が好かれていることを知っていた。


 けれどなぜか、利一の言葉がしっくりきている。


(六郎と熊谷先生が似てるのって――もしかして)


 なにかが繋がりそうなところで、電話の時間に終わりが来た。


「僕から言えるのはそんなところかな。そろそろ爺さんたちのところに顔出さないといけないから、ごめんね」

「いえ! こちらこそ、お忙しい中すみません」


「ロクにもよろしく。それじゃ、頑張って」


 通話が切れて、ほっと息を吐き出した。

 ごちゃついた頭を整理するため、悠羽は遠回りで家に帰ることにした。


 もしも利一の言ったように、六郎が片想いのような状態でいるというのなら。


「なんでわかんないんだろ……あのバカ」


 やっぱりあの男は、鈍感だ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  なまじ頭が回るから考え過ぎているかと。  ただお互いストレートに想いをぶつけ合ってメデタシメデタシ、なんて簡単な話ならこんなに面倒臭くなってはいないですよね。  六郎の境遇や人格、悠羽との…
[一言] 投稿ありがとうございます。次話も楽しみです
[一言] 悠羽の気持ちを分かってないわけじゃあないと思うんだよなあ。そう言っていたから。 片思いって相手が自分を思っているとわかっていて、それでも進まないこと5できるんだろうか。 やっぱりなんか別の…
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