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【書籍化】俺は義妹に嘘をつく  作者: 城野白
最終章 やがてくる春のために
122/140

122話 年末

 クリスマスが終わってから年末までは、やることを消化していたらあっという間に過ぎてしまった。悠羽も目標に向かって本格的に動き始めたようで、自室にいる時間が長くなっていた。


 いろいろ片付いたのが31日の夕方。慌ててスーパーに駆け込んで蕎麦と正月の食材を買い込み、帰ってくる頃にはどっぷり日が暮れていた。


 で、帰宅してからというもの。


「おーい、そろそろ離れろ。左腕取れる」

「せっかくだし、取り外してこれだけ日本に置いていって」


「なんだその猟奇的な置き土産は」

「これを六郎だと思って、毎日頑張るから」


「俺の腕だから俺なんだよ、頑張って思い込まなくても」

「ずっと一緒だね……」


「急にバッドエンドなんのやめろ! 浮気もしてないのにその仕打ちは俺が可哀想だろ」

「うぅ~、離れたくないぃぃ」


「長期的には俺もそうだが、短期的にはさっさと離れてほしい」

「ダウト! 照れ隠しだ!」


「いいえ」

「六郎は嘘つきなんだから。私じゃなかったら騙されて泣いてるよ?」


「嘘確定で話を進めるのやめてくれないか」

「えぇー。利き手じゃないからいいじゃん」


「腹は見えないから殴ってもいいみたいな理屈だな」

「もう……はい。離れたよ」


「また後でな」

「なにするの?」


「ああ、ちょっと浮気のほうを」

「浮気!?」


「年末だし、なんとなく」

「年末って浮気するものなの!?」


「なわけないだろ。年明けの仕事を確認するだけだよ」


 目に見えて動揺する悠羽に、苦笑いが漏れる。


「もうメンタルやられてんのかよ。パソコン持ってくるから、そこで待ってろ」

「ぬん」


 ノートパソコンをダイニングテーブルの上で開いて、今年最後のメール確認。年始にやるべきことをリストにして、漏れがないようにしておく。

 作業が終わるまでの20分ほど、悠羽は静かにスマホを見たり、俺の腕をつんつんしてきたりしていた。


「終わった?」

「終わったぞ」


「やったー」


 パソコンを閉じるのと同時に、また左腕を占拠してくる悠羽。まあ、トレードで考えれば向こうは全身。俺は左腕なので割のいいやりとりではある。そうか?


「年越しそば、何時から食う?」

「まだ……あと2時間」


「俺の腕はこたつか」


 あり得ないほどリラックスした顔でくっついている。このまま眠ってしまいそうだ。


「六郎の匂い、落ち着く」

「ついに変態になっちまったか」


「そういうものなんですー。私だけじゃなくて、みんなやってるし!」

「みんなって?」


「美凉さんとか!」

「……すげえやってそうで嫌だ」


 利一さんのシャツに犬のごとく鼻をこすりつける姿が想像できて、眉間をつまむ。軽くつねって、痛みでイメージを消した。


「圭次さんもやってそう!」

「あいつマジでキモいな。絶縁するわ」


「あわわっ、今のは適当に言っただけだから! 奈子さんにそんな隙ないでしょ?」

「確かに」


 ノリで絶交しようとしたら、悠羽が慌てて訂正する。ちなみに本当にやっていた場合、俺とあいつの今後の関係に影響は出る。


 そういえばあのカス野郎。クリスマス以降連絡がきてないな。こっちもいろいろあってゴタついているが、あっちもいろいろあって大人になったりしたのだろうか。

 ……やべえ。マジで連絡したくなくなってきた。


「渋い顔して、なにかあった?」

「全然違う話だけど、きなこ買うの忘れたなと思って」


「うわっ! 私もすっかり忘れてた。つぶあん買って満足しちゃった」

「面倒だけど、スーパー開いたら買いに行くか。お雑煮もあるけど、やっぱきなこも欲しいから」


「だね。ついでにお菓子の福袋も買っちゃおっか」

「あれ、本当にお得なのか?」


「計算してみよ」


 想像していたよりずっとたくましい答えに、「なるほど」と頷いてしまう。染みついた節約の精神のせいか、あるいは進学校の習性か。

 ともあれ、無事に話のすり替えには成功した。悠羽はすっかり正月のことで頭がいっぱいだ。


 椅子から立ち上がって、肩を回す。


「俺はもう腹減ったし、蕎麦作るぞ」

「あ、はい。やります!」


「いや、今日は俺が作る」

「なんで」


「そろそろ俺も料理しないと、向こう行ってから困る」

「あ――」


 ぽかんと口を開けて、それからまた悲しげな顔をする悠羽。


「そっか……六郎、しばらく私の料理食べれないんだもんね」

「いちいちそのテンションは持たねえって」


「仕方ないじゃん! さみしいんだもん! そういう六郎こそ、心の中では涙ダバダバなんじゃないの」

「悠羽見てたら冷静になるんだよな」


「私が2人分悲しんでるんです! 肩代わりしてあげてるんだから、感謝して優しくして」

「切り返しばっかり上手くなりやがって」


 俺に対抗するためか、明らかに押し通す力が強くなっている。地味に的を射ているのが辛いところだ。

 ふんっ、と鼻を鳴らし勝ち誇った顔の少女。確かに今のは俺の負けだ。


 肩をすくめて、おとなしく悠羽を笑顔にする方法を考える。


「蕎麦食ってゆっくりしたら、二年参り行くか」

「え、行く!」


「五円玉あったか確認しないとな」

「はい。私、初詣のために用意してます」


「完璧かよ」

「じゃあ、今から一緒に料理しよ。六郎一人じゃ、かき揚げ作れないでしょ」


「それくらい……いや、無理だな」


 冷静に考えたが、リハビリで揚げ物はいささかしんどい。

 おとなしく悠羽先生に手伝ってもらうことにした。

明後日からちょっと日本のあちこちを見に行ったりするので、更新ゆっくりになります。

まだあんまり決めてないので、オススメあったら教えてほしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、その茨城の鹿島神宮です。 行かれたことあるんですね。良いところですよね。
[良い点]  少しずつでも話題に出して、言葉にすることで一時の別れを受け入れているのか。  そもそも「別れるのが、離れるのがきつい、耐えられるのだろうか」なんて思考になること自体物語当初からすると‥‥…
[一言] あんまりあちこち行ったことないけど。定期的に行きたくなるのは鹿島さん。この時期ならひぐらしの蝉時雨もすごいと思う。 別れ別れになるのは二人とも受け入れて入るんですねえ。 いつ再会できるのか…
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