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【書籍化】俺は義妹に嘘をつく  作者: 城野白
5章 愚者たちのスタートライン
108/140

108話 アメリカ

 向かい合って真面目な話をするのも珍しい。

 基本的に家や金のことは俺が決めているし、悠羽は横にいる時間の方が長いから。


「か、家族計画……!」

「計画じゃなくて会議な!?」


 致命的な聞き間違えをしていたので、慌てて訂正する。話が五段階ぐらい飛びやがった。


 あわあわする悠羽を落ち着かせ、片付けを追えたダイニングテーブルに座り直す。コップに緑茶を注いで一息つく。


 いかんな。いつも適当なことしか言わないから、ちゃんとした話をするメンタルが作れない。茶化しちゃいけない。頭ではわかっているが、口は簡単に滑ってしまいそうだ。

 正面では悠羽が背筋をピンと伸ばし、口を一文字に結んで待っている。


「そんなにかしこまられても困るんだが……」


「大丈夫。私、真剣、聞く」

「頼むからリラックスしてくれ。緊張されるとこっちまで落ち着かん」


「だ、だって六郎が緊張してるから……」

「いや悠羽が落ち着いてくれないとな……」


 お互いがお互いの顔を見てぎこちなくなっているらしい。あんまりちゃんと向き合うのも、考えものだ。

 しばし悩んで、この座り方が良くないのだろうと気がつく。


「隣に座るか」

「そうだね」


 椅子を移動させて、悠羽の右隣に座る。こっちの方がいくぶんマシだ。

 お互いの顔が見えすぎない、というのが落ち着く。相手の反応を必要以上に気にしなくていいからだろう。


 ダイニングで大切な話とか、したことないしな。思えばベランダとか、公園とか、外が中心だった。大事であればあるほど、普段の匂いが染みついた家では難しいのだろうか。

 外に出るかと思ったが、さすがに寒い。これ以上マシになることはないと諦め、頭を整理する。


 緑茶を飲み干して、慎重に切り出す。


「たとえばの話なんだが……悠羽が卒業した後な、引っ越しとかしても大丈夫か」

「いいよ」


「待て待て。判断が速すぎる」


 あまりの即答っぷりに、頭を抱えて悠羽の顔をのぞき込む。だが彼女はいたって真剣な様子で、考えなしに言っているわけでもなさそうだ。


「引っ越すって、なにも知らない場所に行くんだぞ。知ってる人だっていないわけだし」

「それって結局、ここにいても同じでしょ。志穂も受験するのは遠くの大学だし……六郎が圭次さんと会えなくなるのは、大丈夫なの?」


「けいじ……誰だ、圭次って?」

「そのレベル!?」


 そんな名前の変態がいたような気がするが、はてどんな顔をしていたか。

 なんてのは冗談として、それは最初から心配していない。


「半年以上失踪してても大丈夫だったんだ。今更引っ越しぐらいで変わらないだろ」

「そっか。うん。そうだね」


 納得したように頷いて、まだ残っているらしいコップに目を落とす。悠羽は少しの間考え込んで、「よかった」と呟いた。


「なにが?」

「六郎が一人で行っちゃわなくて。よかった」


「……行かないさ。お前がいなきゃ、意味ないだろ」


 無理やりあの家から引っ張り出して、それで俺だけいなくなったら最低だ。彼女に対して責任を持つことなら、とっくの昔から決めている。


 そこに今は個人的な情もあるわけで。一人で生きていくことなど、想像したくもない。

 痛みを忘れたこの心は、かつてのように強くはあれないから。


 首を小さく傾げ、悠羽が問う。さらさらの髪が肩から落ちて、僅かに揺れた。


「ずっと一緒?」

「もちろん」


 頷くと、悠羽は嬉しそうに体重を預けてくる。

 心地よさそうな猫みたいにくつろいで、その先の話を求めてくる。


「それで、どこに引っ越すの? 北海道か沖縄だったら夢があるなって思うけど」

「アメリカ」


「……?」

「アメリカ」


「…………え、アメリカ?」

「そう。アメリカ」


 ぱちぱちぱちっ、と高速で瞬きして、ぱっと背筋を伸ばす。ぐるっと椅子を九十度回して俺に向かい合う。

 それから深く息を吸って、一気に吐き出す。


「アメリカ!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] よし、来い! 待ってるぜ!
[一言] グリーンカードとかは簡単に取れないだろうから、ちょくちょく日本には帰ってくるのだろうけど。それでも大変な決断になるよねえ。 悠羽の夢は!向こうでも叶えられるものなのだろうか。
[一言] 悠羽ちゃんも言っているけど1人で行こうと思って無くてよかった。 六郎も覚悟決めているし悠羽ちゃんも添い遂げるき満々だろうし障害をクリアして幸せを掴んでほしい!!
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