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【書籍化】俺は義妹に嘘をつく  作者: 城野白
5章 愚者たちのスタートライン
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101話 甘えたいだけ

 暖房をつけずに寝ているから、寝起きは顔が冷たい。それにしたって今日はやけに鼻が冷えて、つんと張るような痛みを感じる。


「今日寒いな……」

「ね」


 布団から出した左手で、鼻先を温める。すると真横からがさりと音がして、耳元で蕩けるような声が聞こえた。

 右腕がやけに温かいので気がついていた。やれやれとため息をついて、壁を見ながら声を出す。


「おい」

「はい」


「なんで入ってるんだよ」

「寒かったから」


「いやまあ寒いけどな」

「六郎は私が風邪を引いてもいいの?」


「それとこれとは話が違うだろ!?」

「違わないんだもんねー」


 やけに上機嫌な様子で、肩に頭を乗せようとしてくる。仕方がないので腕を伸ばして、枕として貸してやる。ついでにちらっと首を向けると、ようやく目が合った。まだ制服に着替えていないらしく、無防備なパジャマ姿だ。


 目を細めて、悠羽が脱力した笑みを浮かべる。


「おはよ」

「ん……おはよう」


 この距離でそんな顔をされたら我慢できるはずもなく、流れで抱きしめる。三十秒ほどで満足して、のっそり起き上がる。


 布団の上で座ったままぼんやりしていると、頬にそっとキスされた。目が合うとしたり顔で唇に手を添え、

「すきあり、です」

 と微笑む。


 そこにきてようやく、なにかがおかしいと脳が回り始める。


「待て、待て待て待て」

「なに?」


「それはこっちのセリフだよ」

「んー……別になにもないけど」


「ほんとか? 嫌なことでもあったんじゃないか」

「嫌なことがないと、甘えちゃダメなの?」


「ダメじゃないが」

「でしょ」


 嬉しそうに声を弾ませて、悠羽が抱きついてくる。俺の右肩に頭を乗せているから、密着している。

 さすがにもう慣れたが、こうしていると悠羽の胸が意外とあることに気がつかされる。貧かと思ってたらちゃんと存在してるんだよな。


 ……ああ。やっぱりまだ、悠羽でエロいことを考えると罪悪感が湧く。


 この罪悪感に救われて、まだ手を出さずにいられているわけだが。いつまで持つかわかったもんじゃない。

 なんとか心を無にしていると、横から甘いささやきが聞こえてくる。


「好きって、ちゃんと伝わってる?」

「伝わりすぎて混乱してる」


「ならよかった」

「お前が思ってるより、ちゃんと伝わってるぞ」


「嘘だ」

「嘘じゃねえよ」


 日頃の行いのせいで以下略。


 やれやれと呆れるフリをして、少女の背中に手を回す。

 それからしばらくしても、一向に悠羽は離れる気配がない。


「そろそろ――」

「だめだよ」


 甘く、けれどぴんと張り詰めた声に遮られる。


「六郎は、私の側にいなくちゃだめなんだから」


 どこか切羽詰まった、寂しげなトーンに胸が締め付けられる。理由は知らない。俺にとってはなんの脈絡もない。けれど彼女がなにかを恐れているなら、俺はそれが許せない。

 だからできるだけ平静を装って、なんでもないことのように告げる。


「なに当たり前のこと言ってんだ」

「……たまに確認しないと、忘れちゃうかなって」


「忘れねえよ」


 肩をそっと掴んで、お互いの顔が見えるところまで離れる。

 俯いた少女は、照れ隠しなのかどこか不服そうにしている。


「お前こそ、ちゃんとこれからも俺のところに帰ってこいよ」


 手を伸ばして髪を撫でると、悠羽は小さく首を振る。


「……ごめん。ちょっと怖い夢見たの」

「もう大丈夫か?」


「うん。平気だよ。ありがと」


 悠羽は立ち上がって、ドアを開ける。朝食のいい匂いが部屋に流れてきて、自分が空腹であることを自覚する。


「冷めちゃったから、温め直すね」

「ありがとな」


「いいのっ!」


 ぱたぱたとキッチンに入っていく背中を見つめて、それから俺も部屋を出た。

 鏡を見て、歯を磨いて、顔を洗っている間もずっと考える。だというのに、なにが彼女を不安にさせたのかわからない。


 やっぱりフリーランスと結婚するのは不安なのだろうか……。

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― 新着の感想 ―
[一言] フリーランスが、というよりは一度置いていかれた事がトラウマになっているのかなあ。 安心・信頼を求めるには、ちょっと日頃の行いがなあ/w
[良い点]  そりゃあれだ、しっかりとした「愛の証明」が無いからこそ不安になっているのではないかい?  悠羽はまだ学生だから手を出さないのは当然だし立派ではあるがそれとこれとはまた別の問題だと思うけど…
[良い点] あーーーーーーーーーーー 兄妹愛も大好物だし純愛も大好物だし もう最高 ありがとうございます。
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