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大震災2

 やっとの思いで俺たちはリュケイオンを脱出した。

 しかし、魔法都市全体が爆炎に包まれているので状況は好転していない。

 こうしている間も、俺の風魔法で炎を吹き飛ばしていないと、一瞬にして炎に飲み込まれるだろう。

 つまり、時間が経てば経つほど更に事態が悪化する。

 俺の魔力が尽きた時が、即、命が尽きる時だ。

 俺が来るまで必死に教室を炎から守っていたノーダの魔力も、もうほぼ尽きかけている。


「このままじゃジリ貧だ。この人数、全員は救えない。どうやら奇跡は起きそうにない」


 実に不甲斐ない。その想いが胸を満たす。

 教室に入り、みんなを守って1人倒れているユズキ嬢の姿を見て以来、呼吸も落ち着かない。

 こんなことになるなんて、誰もが想像できなかったのだが、それを言い訳にはしたくなかった。

 ただ己の未熟さを恥じるばかりだが、まだ終わっていない。

 ここで下を向いたら、その時こそが本当の終わりのような気がして、無理矢理前を向く。


「天は乗り越えられる試練しか与えない、と常日頃俺たちは教わってきた。だからどんなに辛い困難でも諦めるなと続く。今こそまさに俺たちの力が試されているのではないか」


 俺は後からぞろぞろと付いてくる仲間の方を向き、語りかけた。

 普段、あれだけ全能感に満ちた輝きで溢れていたみんなの目からは、呆然とした諦めしか感じなかった。

 

「君たちはその類い稀なる才能をみんなの為に発揮するのだと、それが力を持って生まれたモノの宿命だと、そう教わってきたはずだ! それこそが、魔法学院リュケイオンの学生一人一人の使命ではなかったのか!」


 いつも聞かされるリンのご高説を必死になぞり、俺は士気を高めようとする。

 だが所詮借り物の言葉で、才能を認められながらも、授業をいつも抜け出し、風に乗り空を漂っていた俺の言葉では届かない。

 そう。俺ではダメなのだ。その役目は俺じゃない。


「……ノーダ。ユズキをお願い。ここからは私の仕事よ。ヒイロのバカにあそこまで言われて、黙ってられないわ」


 リンの目に力強さが戻った。

 最初から俺の目的はこの1点にあり、俺の言葉もリンにのみ向けられたものだった。


「我が名はリン。伝統あるリュケイオンの第484代生徒会長。今こそ、その職責を果たす時」


 自分に言い聞かせるようにリンは言った。


「みんな聞いて! 確かに今のみんなは、魔法が使えなくなるという今までで考えられない状況だと思う。まるでこれまでの全てが否定されたかのように感じているかもしれない。その気持ちは、正直、今も魔法が使える私には本当のところ理解できてないのかもしれない。だけど、それでも生徒会長としてもう一度みんなに問いたい。

 魔法学院リュケイオンで、親愛なる我が母校で私たちは何を学んできたのだろうか? 魔法の使い方? いや違う! 将来、国を、民を、そして周りの人々を、自分たちが守る! という自覚じゃなかったか? それはエリートとしてのプライドだ! 自負だ! 覚悟だ! 忘れないで欲しい、伝統あるリュケイオンの生徒の誇りを。例え校舎が焼け落ちたとしても、私たちがその誇りを失わない限り、リュケイオンは決してなくなりはしない!」


 リンが紡ぐ言葉は檄となり、絶望の中にいた魔法学院生一人一人に力を与えた。

 そしてみんなの目が変わった。あの目だ。自分たちを特別だと信じてやまない目。

 こんなことになるまでは、優越感に浸っている気がして馴染めなかったその目が、やけに頼もしかった。


「よし! 最後にありったけの風で一面の炎を飛ばし、ノーダの炎魔法で固定する。俺とノーダもここまでずいぶん魔力を使った。特にノーダの余力はほぼないと思ってくれ。だから、どれだけの時間が稼げるかは分からない。無責任かもしれないが、これが限界だ。後はみんなでどうにかしてもらうしかない」


 作戦とも呼べないような指示を伝えると、周りから「魔法が使えなくても俺たちはリュケイオンの生徒だ!」、「守ってばかりはいられない」といった力強い声、そして「リン生徒会長はともかく、サボってばかりのヒイロには大きな顔はさせない」などの軽口も聞こえてくる。

 後はもう信じるしかない。みんなの無事を。


「我ここに風の精にならん」


「我ここに炎の精にならん」


 リュケイオンの仲間たちとはしばしの別れだ。

 きっとまた会える。だから笑って別れよう。




「我ここに水の精にならん」


 リンがそう告げると、俺たち4人を包み込むように、水のバリアが生まれた。

 これなら炎の中でも進める。

 この時をもって、リンと俺とノーダの3人は、魔法学院リュケイオンの生徒からユズキ嬢を守るための東雲家の家臣に戻る。

 目指すは東雲家本家である。

 自分たちだけが魔法を使えている現状で、そこだけは無事であるという確信があった。 

 そして、未だ目を覚まさないユズキ嬢も、そこでならどうにか治療してくれるという一縷の望みを掛けた。


 しかし、ここから東雲本家までは、どんなに早く駆けても1時間以上掛かる。

 後はリンに託すしかない。

 俺とノーダの全魔力、そして願いは仲間たちのもとに置いてきたのだから。


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