1 ナッツ中佐、王国学院に潜入せよ!
「はっ、ナッツ中佐は王立魔法学院に入学するであります」
上官である大佐の命令を復唱すると
「三年間愉しんでくるように」
と言われました
どうやら今回の仕事は3年かかるらしいです
内心は『やれやれ』ですが本心を隠して復唱します
「はっ三年間愉しんでくるであります」
・・・心にもないことを平気で言えるようになった中佐は大人になったものだと思います
私の名前はナッツです
歳はピチピチの16歳♀です
なのに軍人をしています
・・・なんでなんでしょうね
今でも不思議です
階級は中佐で13小隊の隊長をしています
中佐なのは貴族だからではないですよ
先代の隊長に6歳の時に拾われて働いてきたからです
人間、コツコツやると出世するものなのです
え、拾われた件を詳しく、ですか?
13小隊は人に言えない仕事をする部隊なのです
ですから任務中についうっかり拾ってしまったのが子供でも他に預けることはできません
情報はどこから漏れるか判らないからです
『何処で』拾ったかということだけで任務内容が推察できる化け物のような人間がいるのが裏の世界の常識です
一を聞いたら十を知ってしまう人間がゴロゴロいると思ってください
まあそんな訳で6歳の時から13小隊にいます
いや働いています、ですね
『働かざる者食うべからず』が13小隊のモットーですから
幼い子供というのは意外と警戒をされないんですよ
「ここはどこ?」
と迷子の振りして涙目で訴えるだけで警戒心がなくなるんです
「その目は節穴ですか?!」
と毎回思いましたね
汚れ仕事のプロなのに心は意外と汚れていないという事実
逆に一般人の方が心が汚れていたりしています
・・・本当に笑えませんね
プロでありながらミスをしちゃった敵さんにはきっちり責任をとって貰いました
毒を塗った針で天国ご旅行にご招待しちゃいました
・・・言っておきますが人間のクズしか殺ってませんからね?
まあそんな風にしっかりお仕事してきたおかげで中佐になったという訳です
先代が引退した際、後任に指名されたというのもあります
あとは先輩達は歳をとったために一線を退いて後衛に廻ったというのもあります
・・・実はそれは建前で、だれもが面倒な隊長役を逃げるために退役したのだと思っています
どんな任務でも全力を尽くすのが13小隊のポリシーですよね
「そのポリシーはどこに行ったのですか!?」と肩を掴んでガクガク振って大声で言いたいです
敵地潜入とか後方での情報かく乱は敵にバレて失敗したなら死以外ないです
自然と腕があがるというものです
その腕を使って隊長やってくださいと言いたいです
先輩達は今、13小隊の仕事を陰で支えるためにいろんな町で商売をしています
いわゆる協力者というやつです
・・・協力どころか現役同様に活躍しているんだったら隊長やってくれてもいいんじゃないかと声を大にして言いたいです
嵌められた私
本当に可哀想ですよね?
まあ愚痴を言っていても仕方がありません
ということでお仕事しちゃいます
「全員注目!」
部下を集めて整列させました
部下は当然、私よりも年が上です
なのに経験は私の半分以下なのです
整列させるたびに違和感がありまくりなのは中佐の気のせいではないと思います
まあ全員調教済みなので絶対に逆らわないですけどね
さすがに隊長就任直後は舐められていました
軍は上意下達が基本にも関わらず、です
新兵教育はどうなったんだと言いたいです
まあきっちり叩きのめしましたけどね
拳を使って
新兵教育でたかだか1週間程度訓練した一般人
方や10年間、戦いに明け暮れた小娘
最初っから勝負になりませんよね
まあ実際に隙だらけだったので全力で叩きのめしました
もちろん急所を抉るように打って、です
・・・新兵はゲロ吐きながら地面をのたうち回っていましたね
狂犬はたった1日で従順でおとなしい羊になりました(笑)
「・・・と言う訳で私は王立魔法学院に潜入捜査する
なお大佐から目的は知らされていない
そのためお前達には学院にいる全員の素性を調べてくれ
もちろん言っておくが気が付かれるヘマはするなよ」
そう伝えると
「「「「Yes、Sir!」」」」
といい返事がきました
上意下達は軍の基本
理想的な関係だと言えます
まあ機能としての信頼なので人間的には全然好かれていないでしょうけど
・・・多分酒場では『あのクソ野郎』とか言っていることでしょう
まあいいんです
上司と言うのは部下に嫌われるのも仕事です
なにせ『如何に部下を効率的に殺すか?」を考えるのが上司の役目ですからね
かくして極秘の潜入捜査が始まりました
・・・あれ?部下の返事がおかしくなかった?