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第九十七話「路地裏にて」

「本当に申し訳ない」

ギチィッ


「イテェ」



ワタシに向かい謝罪の言葉を述べるギルベルトさん。

と、そのギルベルトさんに頭を鷲掴みにされ、動けずにいるラナンさん。



「うちのラナンが迷惑をかけた」


「ギル、ギル。めっちゃ手に力入ってる」


「…本っ当に申し訳ない」

ギリギリギリギリッ


「イテテテテテテテ」



場所はギルドから少し離れた所にある路地裏。

人通りが少なく、人目が少ない、表通りからは見えにくい脇の道。


ワタシがギルベルトさんに連れてこられたのは、そんな、人からの注目を受けずに済む場所でした。



「ギルベルトさん。手にどんどん力が入ってきているようですが…」


「大丈夫だ。問題ない」


「いや痛いって!めっちゃ痛いって!ゴメンって勝手な事して!」


「謝る相手が違うだろう」

ギリギリッ


「アダダダダダダダ」


「大丈夫ですから。もう過ぎた事ですから。手を離して差し上げて大丈夫ですから」


「…キミドリさんが言うなら」



と言って、ラナンさんの頭から手を離すギルベルトさん。

と、自分の頭をさするラナンさん。



「うぅ…頭が凹むかと思った…ありがとうキミドリ。そんでごめんな?」


「いや、まぁ、はい…次からは気を付けましょうね?」



路地裏に着くまでに、ワタシはギルベルトさんに、何故あのような状況になったのかを事細かに説明する事となりました。


ワタシがギルベルトの問いに答えていくと、時折手を顔に当てたり、ため息を吐いたりして、話の最初から最後まで“やっぱりか”と言いたげな顔をしていました。


大方ギルベルトさんの予想通りだったようで、一通り話し終わり、目的地の路地裏に着いてすぐに、ワタシに向き直り、ラナンさんの頭を引っ掴みながら謝罪をしてきた、というわけです。



「本当にすまないキミドリさん。ラナンにはいつも一人で突っ走るなと言ってあるんだが…」


「ギルが帰ってきたのが嬉し過ぎてテンション上がっちゃった!本当にごめんなっ!」


「…いつもこんな調子でな」


「あぁ…」



先程までの涙目はどこへやら、ケロッとした顔であっけらかんとそう言うラナンさん。


…ギルベルトさんの苦労が、垣間見えた気がしました。



「でも、案内しようとしただけなのに、なんでこんなに怒られたんだ?いや勝手にやったのは悪かったけどさ」


「キミドリさんは人混みに慣れていない。慣れない場所、慣れない状況は疲れるだろう。それに…キミドリさん」


「?はい」


「あんたが噂の“幽霊”だろう?」


「!…いえ、ワタシは」


「隠さなくて良い。言いふらすつもりは無い」


「…」



話を聞くに、ギルベルトさんはどうやらあの洞窟に居た時から、ワタシが“噂の本人”ではないかと考えていたそうです。


そしてワタシ自身の言動と噂の内容からして、ワタシがあまり注目されたがっていないと思い、町を案内するにあたり細心の注意を払いつつ色々と手を回しておくつもり…だったそうですが、ラナンさんの行動までは読み切れなかったんだとか。


ギルドから離れた場所に宿を取ったのも、手回しの一つだったそうです。



「冒険者ギルドには、キミドリさんに助けられた奴が大勢いるからな」


「なるほど」


「キミドリさん。こんな事になってしまって、本当に申し訳ない」


「いえ、まぁ、少し困った事になったとは思いましたが、ワタシは“幽霊”ではないと否定しておけば済む話ですから」


「…それで済めば良いのだが」


「え?」


「なぁギル。病院、行かなくて良いのか?」



ワタシがギルベルトさんにその意味を聞き返すより先に、ラナンさんが言葉を挟みました。



「あぁ、病院か。実はギルドに報告に行った時に、常駐している医者に体を診てもらってな」


「え!じゃあ病院行かなくても良いじゃ…ん?あ!やっぱ体に悪い所あったのか⁈」


「いや、どこも異常は無かったんだが、精密検査を勧められてな。紹介状もある」


「じゃあすぐ行こう!」


「話は最後まで聞け。色々と理由はあるが、この健康状態なら急ぐ必要も無いと言われている。まぁ、数日後に行っても問題無いだろう」


「そっかぁ!良かった!」


「そうだな。それで、キミドリさん。一つ提案があるのだが」


「?はい、どうぞ」


「ここで会ったついでだ。キミドリさんさえ良ければ、このまま、この辺りだけでも案内してしまおうと思うのだが、どうだろうか?」



ワタシにそのような提案をするギルベルトさん。

ワタシとしては有難い提案でした。


しかし。



「病院はよろしいので?後回しにして良い言われているとはいえ、やはり先に行かれた方が良いかと…」


「あぁ、問題無い。体はまだ少し重いが、本当になんとも無いんだ。心配と言うなら、この辺りの案内をした後にでも病院に向かう」


「あ!だったらやっぱり案内はあたしが」


「ダメだ」


「なんでぇ⁈」


「また一人で盛り上がって話を聞かなくなるだろう」


「そっ…れはぁ!気を…う〜ん」


「せめて否定してくれ」



そんなやり取りを眺めつつ、ワタシ達は路地裏から表通りに出て、町を歩き始めたのでした。


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