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第九十四話「二日酔い共の介抱」

「はい、終わりましたよ」


「おぉ、スゲェ。全然気持ち悪くねぇ」


「後は水分をしっかり摂っておいて下さいね」


「あぁ、ありがとう」


「次…こっち、頼む…」


「はいはい、すぐ行きま」


「キミドリー!水もう無くなりそうだっ!」


「分かりました。後で行き」


「無くなった!」


「もっと早く言いましょうね」


「なぁ、あんたやっぱり…」


「あぁすみません。後で聞きますね」



冒険者達の治療も終わり間近。

残りの患者は、後僅かとなっていました。



ワタシが彼らの為に使った魔術はこちら。


水分補給の為の“水の魔術”。

口臭、体臭対策の為の“消臭の魔術”。

宿に帰りそびれた者の為の“清浄の魔術”。

そして極め付けは、

対酒呑み用二日酔い治療魔術、“酔い醒ましスペシャル”。


の、計四つです。



水分補給は言わずもがな、アルコール摂取による利尿作用で起こる、脱水症状を軽減する為のものです。


一々井戸から汲んでくるのも手間ですからね。

魔術で手早く済ませる事にしたのです。


水を入れておく器とコップは、ギルドのご好意で貸していただける事になりました。


後は借りた器に魔術で水を注いで、手持ちの塩と花蜜を入れて、即席経口補水液の完成です。


まぁ、言いづらいのでギルドの皆さんは単に水と呼んでいましたけどね。



口臭、体臭対策については、まぁ、はい、ご想像の通りです。

お酒臭くてやや鼻についたので、消す事にしました。


後で説明する“酔い醒ましスペシャル”でもある程度の臭いは取れますが、どうせ臭い消しをするのなら、特化した魔術で消してしまった方がしっかり消えてくれますからね。



“清浄の魔術”は…まぁ、説明不要でしょう。

簡単に言えば、臭かったので汚れを落としました。


付け加えるなら、酸っぱい臭いがしたので汚れを落としました。



最後に“酔い醒ましスペシャル”ですが、これはワタシが独自に開発した、二日酔い特化型の“解毒魔術”です。


口臭緩和、頭痛は消え去り体は軽く、気分は爽快。


ただし、脱水症状は緩和されませんので“酔い醒ましスペシャル”を使用の際は、キチンと水分を補給する必要がありますけどね。


他の注意点としましては、“酔い醒ましスペシャル”はやや効果が強すぎる為に、使用後、即座に手洗いに行きたくなるという副作用がある、という事ですかね。


おかげでギルドの男性用トイレには長い列が…



…何故ワタシがそんな魔術を開発したのか、ですか?


…ノームのお三方が、よくお酒を呑まれる方達だったんですよねぇ…


かなりのお酒好きだったようで、あの礼拝堂でもよく酒盛りをしてらしたんですが…許容量を超えて呑まれる事も多くて…


妖精さんは基本的にお酒に強いと聞いたのですが、それを超えて呑んでしまわれるものですから、二日酔いになっている姿をよく見たものです。


それに、酒癖もあまり良くなくて…


一度、ワタシが試作していたお酒を全て呑んでしまわれた事もあって、酒造り用の部屋が資料諸共それはもう大変な事に…



やめましょうか、この話。


話を元に戻しますね。



「さて、あとはこの方だけですかね」



二日酔い患者も、残すところ後一人。

机に突っ伏したままピクリとも動かない、剣士の青年のみとなりました。



「ふむ…全く動かない、というより気絶してませんか?彼」


「あぁ、そいつか。朝方に迎え酒してたらしくてな」



お酒で気分が優れないのに、更にお酒を呑んで治そうとした、と。



「…すぐに治療しますね」


「そうしてやってくれや」



経口補水液を用意しておき、“消臭”、“清浄”、“酔い醒ましスペシャル”の三つの魔法陣を展開。



「そういやこいつ、酒場でやたらテンション高かったよなぁ。酒も弱ぇ癖にばかすか呑んでよ」


「あぁそれな、多分あの“噂”のせいだと思うぞ」


「“噂”って…まさかあれか?」


「あぁ、そうだ」



魔術を同時に発動し、二日酔いを治療する。



「こいつも、助けられた(・・・・・)口なんだとよ」


「はー、まーたそれかぁ。どうせまた偽物か人違いだろう」


「いや、それがな」



魔術での治療を終え、剣士の肩を軽く叩き意識を確認する。



「聞こえますか?起きれますか?」


「う…ぐ…」



剣士はゆっくりと目を開き、意識を取り戻す。



「今度こそ、“本物”かもしれねーんだとよ」



突っ伏した状態から徐々に体を起こしていく剣士。



「あぁ良かった。意識はありますね。気分はどうですか?」


「…」



こちらを見て、固まる剣士。



「…?あの?大丈夫ですか?」


「…っ」


「あの?」



ワタシが声をかけると彼は我に返ったようで、みるみる間に目を丸くしていき、顔が紅潮していきました。



「ん?顔が赤く…熱が出てきましたかね」


「ゆ」


「ゆ?」


「ゆれっ」


「ゆれ?」


「…っ‼︎‼︎」


「…あの、本当に大丈夫」


「あ、ああああんたっ‼︎」


「はい?」


「あんたっ‼︎“幽霊”だろっ⁈」


「っ⁈」



立ち上がり、そう叫ぶ剣士の青年。


ワタシはここでようやく“シェブナの森の幽霊”の噂を思い出したのです。


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