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第九十三話「冒険者ギルド」

「えぇと…?」



ギルド内に香る、微かな酒の匂い。

そして、顔色の悪い冒険者達。


フラフラとしつつも、なんとか立ってはいる者。

椅子に体を預け、天井を(あお)ぐ者。

机に突っ伏し、微動だにしない者。


割合にして、約三分の一が二日酔い。


ワタシがイメージしていた、活気に溢れた冒険者ギルドと血気盛んな冒険者達の姿はそこには無く、あるのはただどんよりとした空気のみ。



焦りは消え失せ、ただ困惑。



ワタシは思いました。



「何故、こんな事に…?」



失礼、口に出てしまっていました。



「あぁ、それはな!」



ワタシがうっかり口に出した言葉に対し、ラナンさんが答えます。



「昨日ギルが帰って来ただろ?だから隣の酒場に居た連中と、お祝いに乾杯してたんだ!そしたら、なんかめっちゃ盛り上がっちゃってさ!人もどんどん集まって来て、楽しくってな!飲み過ぎちゃったんだよなっ!アハハッ!」


「なるほど…?」


「あたしは途中で抜けたんだけど、その辺に転がってる奴らは朝まで居たんじゃないかな?多分、酒場から直接ギルドに来たんだろうな!」


「ラナンちゃん…声抑えて…」

「イテェ…頭に響く…」

「オエップ…」


「あぁ!悪い悪い!」


「…」



困惑すら通り越して、もはや呆れ。


警戒していた自分が間違っていたのかとさえ、一瞬考えてしまいました。


まぁ、自分が想像していた冒険者の姿ではありませんでしたから、肩透かしというか、拍子抜けしてしまったというか…


もしかすると、ワタシは冒険者という職を少し理想化し過ぎていたのかもしれませんねぇ。


勝手に理想的して、勝手に落胆するなんて、我ながら失礼な話です。



さて、そんなワタシは一つ小さくため息を吐いてから、ラナンさんに話しかけました。



「魔術で彼らを治せば良いのですね?」


「そう!あ、お礼もちゃんとするからさ!お願いっ!」


「ふむ…」



既にギルドには入ってしまっている。

注目はとっくに集まってしまっている。

この怪しい風貌では警戒されるに決まっている。

印象はあまり良く無い筈。

町に居座るなら印象は良いに越した事は無い。

なら断ってしまうより、治療してまわった方が印象は良くなる筈。

そもそも断るなら、話を聞かないラナンさんを説得する必要が出てくる。

それには時間がかかる。

早くギルドから出ていきたいのであれば、全員治療した方がまだ早い。


断る理由は、ひとまず見当たらない。


で、あれば。



「な?な?良いよな?良いだろ?あたし、生の魔術見てみたいんだよ頼むよーっ!」


「…わかりました」


「っ!やったーーーっ‼︎ありがとうっ‼︎後で絶対に良いお礼するからさっ‼︎何にするかはまだ考えて無いけど、楽しみにしててくれよなっ‼︎」


「ラナンさん」


「いやー!恩人に頼むのは気が引けたけど、言ってみるもんだなぁっ!」



どうしても、聞いてほしい時に話を聞いてくれないラナンさん。


ワタシはラナンさんの肩を叩きながら、もう一度彼女に呼びかけました。



「ラナンさん」

トントンッ


「ん?あぁ、ごめんごめん。で、なんだ?」



なるほど。

彼女と話をしたければ、肩を叩けば良かったのか。


そんな事を考えながら、ワタシは彼女に言いました。



「声、抑えなくて良いのですか?」


「あ」



そんなこんなでワタシは、冒険者ギルドにて、二日酔いの治療をする事となったのです。


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