第八十二話「数日後のある日」
サク。サク。サク。
果実を薄切りにして、カゴに並べる。
『…』
「…」
グツ。グツ。グツ。
果実を煮込んで、ジャムにする。
「いやぁ…」
昨日までに作っておいたドライフルーツとジャムは、全て手元に無い。
採ってきていた果実も、あと僅か。
「バレてましたね。風の妖精さん達に」
『う〜っ!アーシのドライフルーツとジャム〜っ!』
洞窟に辿り着き、早数日が経った頃。
ワタシ達は洞窟に留まり、のんびりと日々を過ごしていました。
「まさか少し留守にしている間に、コッソリと全部持っていかれるとは思いませんでした」
『ゴッソリの間違いでしょっ!う〜っ、せっかく見つからなかったと思ってたのに、油断したわぁ…』
「もしかすると一人占めしようとしていたのもバレていて、泳がされていたのかもしれせんねぇ」
『う〜っ!』
冒険者は、まだ起きない。
魔術と魔法をかけて生命維持をし、ワタシは日々、冒険者の彼の命を繋いでいました。
呼吸は安定し、顔色も良い。
しかし起きる気配は、まだ無い。
分かってはいましたが、それ程のダメージを彼は負っていたという事でしょうね。
生命維持をして待つ以外に、ワタシが彼に出来る事はありませんでしたから、次の準備でもしながら、のんびりと日々を過ごす他ありませんでした。
「ワタシとしましては、特に困ったりはしていないんですけどねぇ。むしろ、ほら、お土産に塩も持ってきて下さっていますし。丁度干し肉を作って塩を切らしていたので、助かりました」
『アーシはなんも助かってなぁいっ!』
「まぁまぁ、机の上に花蜜もありますから」
『ふんだっ!花蜜よりジャムが食べたいのっ。作りかけでも良いから、食ーべーたーいーっ』
「はいはい」
机の上には、花蜜と、塩と、妖精の鱗粉。
書き置き代わりに残されていた、魔法にも満たない風の魔力から、風の妖精さん達のお土産だと判断しました。
ワタシが居ない間にたまたま来てしまったのか、それともイタズラのつもりで狙って来たのかは分かりませんが、顔合わせをする事は無かったんですよねぇ。
まぁ、多分、狙ってやったんでしょうけど。
「はい、どうぞ」
『あーんむっ』
「スプーンは自分で持って下さいね」
『んー?ンフフ♪あむっ』
「持ってもらっても良いですか?」
あぁ、そうそう、そういえば。
その時に使っていた机や椅子などは、洞窟の奥に隠していた制作物では無く、新しく作り直した物でした。
洞窟の奥に溝を作って隠したと言ったじゃないですか?
アレ、溝というか半分穴みたいなものだったんですが、何処から入ったのか、水が溜まっていたんですよねぇ。
隠していた机などの制作物は、カビが生えたり脆くなっていたりで、殆どが駄目になっていて、とてもじゃないですが、使えそうにありませんでした。
作った当初に、木をキチンと乾かすなどの処理をしていたわけでは無かったのも、悪かったのかもしれません。
ですから仕方がないので、それらを一度解体して、使えそうな部分だけを取り出し、再利用しつつ新しく作り直したという訳です。
まぁ、長く居着くつもりは無かったので作らなくても良かったのですが、やや暇を持て余していたので、丁度良い暇つぶしになりました。
それに駄目になっていたとはいえ、なんだか勿体無いような気がしてしまって、そのままでは処分出来なかったんですよねぇ。
まぁ、思い入れ、というやつですね。
『熱々のジャムもやっぱり美味しいわねん♪』
「まだ半分ジュースみたいな状態ですけどね」
『それもまた良いって事よ♪あーむっ』
「あの、スプーン」
『あ、アンタ爪伸びきてない?』
「おや本当ですね、また切っておかないと…ではなくて」
『ンフフ♪分かったってばぁ、持ってあげるわよぉ♪』
「どうぞ…少しは機嫌は直りましたか?」
『ちょっとだけねん♪』
「そうですか」
『で、爪は?』
「切りますから、後で」
そうしてなんだかんだと暇を潰したり、他愛無いやり取りをしながら、ワタシ達は淡々、淡々と、日々をのんびり過ごしいきました。
結局、冒険者が目を覚ましたのは、この日から更に数日後の事。
冒険者の彼を拾ってから数えて、十数日後の事となりました。




