第八十一話「あの洞窟」
夜の森を、歩く。
夜の闇に身を溶かし、目的地へと歩く。
目的地は、ワタシが文字の勉学に勤しんだ、あの洞窟。
肩に担いだ冒険者を落とさぬように、冒険者の体に負担がかからぬように、静かに、静かに、歩いていく。
よく知った山を行き、何度も通った獣道を行き、歩く。
見知った場所を歩いて行き、やがて星が瞬き始めてからしばらく経った頃、少し開けた場所に出る。
そこは見慣れた場所、懐かしき場所。
あの洞窟。
ワタシ達は、目的地へと辿り着きました。
「着きましたね」
『そうね』
「ふむ、焚き火の跡がありますね」
『そうねん』
「ワタシが去った後、人間がここをキャンプ地として使っていたのかもしれません」
『ふぁ〜、そうねぇ』
「…眠いのですか?」
『だって退屈なんだもん』
「アナタだけでも礼拝堂に行ってしまっても良かったのでは?」
『やーよぉ。あそこに居るよりアンタと一緒に居る方が絶対面白い事あるんだもの。あとドライフルーツ一人占め出来なくなるしぃ』
「ドライフルーツの為ですか…」
『ま、途中で風の子に会ってたらばれちゃってたけどねん。それにしても退屈だわぁ。ん〜…アーシ、もう寝ちゃおうかしら』
「あぁ、だったらちょっと待って下さいね」
冒険者を地面に下ろし、洞窟の中へ入る。
「さて」
ワタシは洞窟内を見渡しました。
運び込まれたであろう石、焦げた地面、焚き火に使えそうな枝。
人間がそこに居たであろう痕跡はありましたが、他は以前と特に変わり無いという事を確認し、ワタシは清掃を開始しました。
まずは風の“初級魔法”で洞窟内に風を起こし、壁などに付いた土を落としていく。
本当は水拭きなどもしたかったのですが、ひとまず置いておきました。
次に広範囲の“清浄魔術”で洞窟内を清潔にする。
これで簡易の清掃は終了。
続いて、作業に移りました。
ワタシが以前、寝床として使っていた辺りの地面に水を蒔き、そこに、鞄から取り出した種を三つ置く。
その上からワタシの魔力を空気中に流し、魔法陣を生成、魔術を発動。
種は見る見る内に成長し、三つの巨大な綿花が咲きました。
邪魔になる葉っぱを切り取り、形を整え、ついでに少し千切り、軽く固める。
即席ベッドの完成です。
清潔なシーツなどがあれば尚、良かったのですが、無い物は無いので、これで完成としました。
「ペタル」
『ん〜?』
「何処で眠りたいですか?」
『んーそうねぇ…あの辺とかに窪みがあったら嬉しいかしら』
「じゃあ作りますね」
“闇玉”を使い、壁に穴を開ける。
手元にある、千切っておいた綿を小さめの布で包み、小さなベッドを作り、そこに置く。
「はい、どうぞ」
『あんがと♪』
「どういたしまして」
『ウフフ、ふわふわぁ♡それじゃ、おやすみ〜♪』
「えぇ、おやすみなさい」
ペタルに就寝の挨拶をした後、ワタシは洞窟の外に出て、冒険者を担いで運び、綿花のベッドに寝かせました。
「…」
本当に、全く起きる気配が無い。
かなり気を使って歩いたとはいえ、ずっと担がれていたわけですから、かなり体に負担はかかっていた筈。
苦しくなり、途中で覚醒してもおかしくは無かった。
なのに、起きない。
これは数日では済まないかも知れないなと改めて思い、ワタシは隠していた物を引っ張り出す為、洞窟の奥に向かうのでした。
来週はおやすみ。




