第七十九話「治療」
始めに“清浄”の魔術で冒険者の体の汚れを取り除く。
次に“身体強化”の魔法をかけ、体がそれ以上衰弱するのを防ぐ。
あとは具体的なイメージをしつつ、無属性の“回復魔法”と光属性の“回復魔術”を同時に発動し、傷を治していく。
が、しかし。
傷の治りが極端に遅い。
体に熱が戻りきらない。
生命力を直接流し込んでなお、まだ命が繋がらない。
圧倒的に血が足りていない。
無属性の“回復魔法”は自然治癒力を上げる魔法。
光属性の“回復魔術”は生命力を直接流し込む魔術。
体の代謝を上げたり体力を戻す事は出来ても、物理的に不足している物を補う事は難しい。
“身体強化”の魔法と合わせて無理矢理に血を作ったとて、時間がかかり過ぎる。
間に合わない。
で、あれば。
ワタシは爪跡からの出血がひとまず止まったのを確認した後、さっと立ち上がり熊の魔物の亡骸に駆け寄りました。
必要なのは、血と肉。
出来れば近しい種族の物が好ましいが、時間が無い。
ワタシは大剣に貫かれていた熊の魔物の心臓の一部をナイフで抉り出しました。
まだ生暖かく、血の滴るその肉の塊を手に取り、布で軽く血を取り除き、急いで冒険者の元へ戻る。
代用品は、魔物の心臓、術者の血、本人の血。
まずは“闇玉”を作り、魔法陣の形に整える。
それを冒険者の体の上にそっと下ろし、少し血が出る程度の傷を付け魔法陣を刻む。
出てきた血を手で掬い、魔物の心臓に揉み込むように塗りつける。
冒険者の体から滲み出できた血を綺麗に拭い取り、魔法陣の中心に魔物の心臓を置く。
最後にワタシの血を魔物の心臓の上に垂らし、魔術の名を呟いて、発動。
「“造血”」
途端、魔法陣は光を放ち始める。
触媒となった魔物の心臓は、光に包まれ溶けるように消えていく。
触媒は血へと変換され、体に熱が戻っていく。
命が繋がった。
“造血”の魔術は、成功しました。
「ふぅ…なんとかなりましたね。代用品が上手く機能してくれて良かった」
『アンタ本当によく思いつくわよねぇ。めっちゃ手際も良いしさ』
「これも読書と研究の賜物ですよ」
『あ、また血が出てきてる』
「おっと」
冒険者の体に再度複数の魔法と魔術をかけ、体中の傷を塞ぐと共に、ワタシが刻んだ魔法陣の跡も消し去る。
爪の跡だけは傷跡として残ってしまいましたが、他の傷は全て綺麗に塞がり、跡も無い。
呼吸も安定している。
もう心配ない。
ワタシは、冒険者の治療を終了しました。
「よし、これで良いでしょう」
『爪の跡、残っちゃったわね』
「かなり深い傷でしたからねぇ。ワタシは医療の専門家では無いので仕方がありません」
『アンタめちゃくちゃ出来る方だと思うわよ?』
「専門家には及びませんよ。まぁ何にしても、治療は終わりました。後は起きるのを待つだけです」
『えー?やっぱり待つのぉ?』
「えぇ。いつもの事でしょう?」
『そうだけどぉ、アーシ退屈なんですけどぉ?』
「では、冒険者の見張りをしていただけませんか?ワタシはその間に熊の魔物の解体をしてきますので」
『えー。やーだー。面白くなーいー。てか手伝わないってアーシ言ったしー。めんどくさーい』
「では見返りとしてコチラの棒付きスペシャルキャンディを」
『やるわ』
ペタルにキャンディを渡して見張りをしてもらい、その間にワタシは熊の魔物の解体を始めました。
太陽はまだ登りきっていない。
時間は少しかかるかもしれないが、じきに目を覚ますだろう。
ワタシはそう考え、冒険者の意識が戻るのを待つ事にしました。




